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化粧品作り

 リンゼイが新しく開発した化粧品の名は、妖精のフェアリ・化粧品コスメティカ

 女性の心をぐっと掴む、美容効果のある化粧品の数々である。


妖精のフェアリ・化粧品コスメティカか~。リンゼイにしてはセンスのある名前を付けたね』

「いえ、花妖精のローゼと共同開発だから、妖精のフェアリ・化粧品コスメティカ

『え、ローゼとの共同開発なんだ』

「ええ、化粧品作りは大変だから」

『大変って?』

「化粧品の原料って、鉱物とか魔石を使うから、すり潰さなきゃいけないのよ」

『ああ~、なるほど』


 リンゼイが今まで、化粧品を作りに興味を示さなかった理由は、完成まで力仕事が大部分を要するからだ。

 加えて、きめ細かな肌に、美しいかんばせを持っている彼女に、美しくなりたいという願望は欠片もなかった。


『……うん、その話、他の女の人にしたらダメだからね。大いなる反感を買うから』

「変なことで怒るのね」


 ルクスは窓の外を眺めて嘆く。


『おお、神よ。なぜ、リンゼイに才能、そして、美貌を与えたもう……』


 その問いかけに応えてくれる神はいなかった。


 話は化粧品作りに戻る。


「まず、花のフロル・美容液セロムから作ってみようと思うの」

『ほうほう』


 材料は数種類の薬草、花の魔石、ロカイの胎座、花蜜鳥の皮膚・腱・軟骨、精製水、リスリン甘酒、蒸留薬酒。


「足りない素材は、花蜜鳥関係ね」


 花蜜鳥というのは、世界最大の花フランレシアという毒花の蜜を食料とする魔物である。

 使う部位はコラーゲンたっぷりの皮膚と腱、軟骨。

 毒花の蜜を吸って体内で分解し、美容に良い成分を生成する。


「ルクス、フランレシアが生えている区域を知っている?」

『知っているけれど』

「だったら、転移魔法で連れて行って」

『いいけど、クレメンテも一緒にね?』

「もちろんよ」


 クレメンテを呼びに行ったら、ウィオレケにメルヴも付いて来た。


「あなたたち、どうしたの?」

「僕も行く」

『メルヴモ!』


 リンゼイは不機嫌な顔をクレメンテに向ける。

 彼はどうすべきか、言われずともわかったようだった。


「ウィオレケさんとメディシナルさんのことは守りますので」

「だったらいいけれど」


 クレメンテがウィオレケとメルヴの護衛をすることを条件に、同行を許した。


「本当は連れて行きたくないんだけど」

『フランレシアの生育地帯は危険だからねえ』


 世界最大の花フランレシアは熱帯地域に自生している。

 そこはじめっとしている沼地で、常緑広葉樹の森が広がり、魔物も多く生息している地域だ。

 ウィオレケを危険に晒したくないリンゼイは、しぶしぶといった様子で同行を許した。


『では、行きますか!』

「よろしく」

『了解!』


 ルクスが転移呪文を展開させる。瞬く間に、室内から熱帯雨林の森へ瞬間移動する。


 そこは、背の高い木々があり、豊かな濃い緑色の植物が生い茂っている。


「あっつい」

『ジメジメするねえ』


 ルクスは泥に沈まないよう、足踏みしていた。


「あ、危ない!」


 ウィオレケが叫ぶ。何かと思っていたら、メルヴがずぶずぶと泥の中に沈んでいたのだ。

 リンゼイが素早くメルヴの草の根を掴み、野菜を収穫するように泥の中から引っこ抜いた。


『アリガトネ~~』

「いいけど。これ、どうするの?」


 泥に沈んでしまうので、メルヴは歩けない。かといって、ウィオレケが持ち歩くと、魔法が使えなくなる。


「メディシナルさん、どうぞ、私の肩に」


 人の良いクレメンテは、肩を貸してくれると言う。


『ワ~イ、アリガト~』


 ウィオレケはメルヴの足の泥を綺麗に拭き取って、クレメンテの肩に乗せた。


『いいな~、メルヴ~』


 ルクスはチラチラとリンゼイを見たが、無視されていた。


 ぬかるんだ道を慎重に歩いて行く。

 クレメンテは剣を手に持ち、行く手を遮る枝や葉を切りながら進んでいた。

 肩に乗ったメルヴも真似して、木から垂れ下がっている蔓を、鋭くした手先の葉っぱで切っていた。


 しばらく歩くと、真っ赤なフランレシアの花が咲き誇っていた。

 地面から直接生えており、人を呑み込みそうなほど大きい。

 花は多肉質で、色は真っ赤。毒々しい白い斑点がある。


 すごいのは見た目だけではなかった。


『うわっ、くさ~~い!!』

「初めて見たけれど、酷いな、これは」


 ルクスとウィオレケは涙目になっていた。


 フランレシアの別名は『屍臭花』と呼ばれている。死体の腐敗臭がするのだ。

 リンゼイが花に近づこうとすると、空からバッサバッサという羽ばたき音が聞こえて来た。


『ゲッ、来た!』

「あれが、花蜜鳥!?」


 大きさは成人男性ほどある。

 嘴は黄色、顔から翼までは緑。お腹は赤く、尾は黒という美しい鳥だったが、『ギュルオオオオ!』という獰猛そうな鳴き声をあげながら接近してきていた。

 数は三。皆、戦闘準備に取りかかる。

 メルヴはクレメンテの肩から降りて、蔓を使って木にぶら下っていた。

 まず、ウィオレケが氷魔法を放つ。翼を狙い、地に落ちた。

 クレメンテは走り、落ちて来た花蜜鳥の首元を斬り落とす。

 首を失ったにもかかわらず、ジタバタと暴れていたので、メルヴが葉の中心から生やした蔓でパシンと叩いたらあっさりと息絶える。

 リンゼイは炎の球を二つ作り出し、襲いかかって来る花蜜鳥を撃ち落とした。

 体は燃え、地面に落ちた頃には絶命していた。


 戦闘終了。


『あの、リンゼイさん。燃やした鳥は素材として使えるの?』

「使えないわね」

『あのさあ、ちょっと考えて戦おうよ……』


 しかし、花蜜鳥一体で二百本分ほど作れるので問題ないというのがリンゼイの主張であった。


「で、姉上、この魔物をどうするんだ?」

「解体するんだけど」

「……」


 リンゼイが腰のベルトに差していたナイフを引き抜いた。

 花蜜鳥へ近付こうとすると、クレメンテが待ったをかける。


「あの、リンゼイさん。解体は私が行います」

『メルヴモ、手伝ウ!』

「教えていただけますか?」

『メルヴニモ!』

「いいけど」


 リンゼイの指示に従い、花蜜鳥を解体していく。

 メルヴは羽根を手先の葉で素早く抜いていた。意外と仕事が早く、あっという間に丸裸状態となる。その後、クレメンテが虹色の皮をナイフで剥ぎ、腱と軟骨も切り取る。

 これにて、素材の確保は完了した。


「みんな、ありがとう。お疲れ様」


 ウィオレケはヤレヤレと首を振り、クレメンテは嬉しそうに頷いていた。

 メルヴは万歳をして、任務完了を喜ぶ。

 ルクスは泥だらけになったので、早くお風呂に入りたいと叫んでいた。


 ◇◇◇


 帰宅後、リンゼイはさっそく薬作りを行った。

 まず、作業を手伝ってくれる助っ人を召喚する。


 杖を掲げ、呪文を唱える。すると、どこからともなく小さな光球が現れ、蕾を照らしだした。すると、しだいに綻びだす。

 ふんわりと開いた巨大な花の中から、人影が浮かんだ。

 出てきたのは、厳つく筋肉質な薔薇の妖精――ローゼ。


『お呼びでしょうか?』

「ええ、悪いわね。さっそくだけど、昨日話をした化粧品作りをはじめましょう」

『かしこまりました』


 今から作るのは、『花のフロル・美容液セロム』。

 材料は、数種類の薬草、花の魔石、ロカイの胎座、花蜜鳥の皮膚・腱・軟骨、精製水、リスリン甘酒、蒸留薬酒。

 花蜜鳥以外は、ほとんど市場で入手できる品ばかりだ。スメラルドが買って揃えていた。


 まず、花蜜鳥の腱を大鍋で煮込む。これは肌の弾力を上げる効果があるものであった。

 魔術で火力を上げていき、ぐつぐつと沸騰させた。

 濁った白いスープ状ものが完成する。

 スープは何度も精製した。若干の獣臭があるので、消臭効果がある薬草を入れるのも忘れずに。

 最後に粉末状にしたロカイの胎座を入れて、混ぜ合わせた。

 ロカイの胎座は美容に効果があるものである。


 次に、花の魔石を粉末状にする。ここで、ローゼの力を借りるのだ。


 大きな乳鉢に拳大の魔石を入れて――。


『ふんぬ!!』


 拳で砕いていく。


 粉末状になった花の魔石を、大鍋に入れてさらにぐらぐらさせる。

 最後にリスリン甘酒と蒸留薬酒を、ロカイの胎座と鳥を煮込んだものをよく混ぜたら完成。

 透明な瓶の中に注げば、鮮やかな美容液の色映える。

 仕上げとして、物質保存魔術をかけたら完成だ。


 ルクスの魔眼で視てもらい、きちんとできているか確認してもらう。


『リンゼイ、品質も問題ないみたい!』

「そう。ありがとう」


 これにて、花のフロル・美容液セロムの完成だ。


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