表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
麗人賢者の薬屋さん  作者: 江本マシメサ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/46

謎の脅威

 怪植物、メルヴは完治したようで、葉っぱもツヤツヤ、根の部分も張りが戻っていた。なので、鉢から出すことになった。

 ウィオレケが引っこ抜く。


『プハー!』


 メルヴはすっきりしたというご様子。

 風呂場で泥を落とす。水分はすべて吸収していた。

 メルヴは頭を下げて、ウィオレケにお礼を言う。


『スッキリシタ~。アリガトウネ~』

「いや、別に」


 鉢に埋まっていたからか、歩こうとしたらふらつく。

 ウィオレケは溜息を吐きながら、手を貸してあげた。


『坊チャン、優シイ……』

「別に、普通だから」


 メルヴとウィオレケは手を繋ぎ、居間へと戻って行った。


 ◇◇◇


 昼食後、御一行は問題の店に向かった。

 高級宿より徒歩十分ほど。

 美人なリンゼイに、全身鎧なクレメンテ、美少年なウィオレケに、二足歩行の草と猫という一団は、ひたすら目立っていた。

 おかしな組み合わせなので、すれ違う人々は目を合わせないようにしている。


 せっかちなリンゼイは先導するクレメンテよりも速く歩くので、ウィオレケはメルヴを両手で抱えて移動する。

 道案内のクレメンテはなぜか置いていかれる。


「……リンゼイさんは物件をご存知なのでしょうか?」

『知らないと思う。でも、勘で探しちゃうんだよね』


 それでたまに迷子になる。

 その一言を聞いて、クレメンテは慌ててリンゼイに追いついた。


 宝石店から路地裏に入ると、花壇や木々などで綺麗に整備された小道に出る。行きあたった先は小川。その角を曲がったら、数軒建物がある。一番奥にあるのが、今回クレメンテが探し出した物件だ。

 褐色の屋根瓦と白い壁、出窓には透かしの花模様があしらわれている。

 三階建てで、築三十年には見えない綺麗な外観であった。

 リンゼイは建物を見上げ、ぼそりと呟く。


「ここ、いる・・わね」

『う~ん、まあ、いる・・ね』


 メルヴは何も感じないのか、葉を揺らすばかり。

 ウィオレケはルクスに訊ねる。


「ルクス、何か魔眼で覗けないか?」


 ルクスは耳をピンと伸ばし、ぐっと目を凝らしつつ尻尾を振りながら魔眼の力を展開させる――が。


『あ~、いや、たぶん私より高位の存在だわ。無理。なんも視えない』

「ええ……」


 それを聞いたリンゼイは杖を取り出した。ウィオレケはメルヴを地面に下ろし、異空間に収納していた杖を手にする。

 クレメンテは魔剣の柄に手をかけた。


『いや、倒す気まんまんじゃん!』

「だって、害を与えていたんでしょう? 高位の存在ならば、なおさらこちらの話を聞くとは思えないわ」

『いやいや、高位の存在だから、諦めるとかの選択はないのかと』

「ないわ」


 ちなみに、ウィオレケだけは交渉のために杖を出したのだと、補足していた。決して、力ずくで解決しようとは思っていなかったと。


「とりあえず、相手の出方を見てからね。無理そうだったら、即撤退。危なそうだったら、ルクス、転移魔法で逃げる手伝いをしてくれるかしら?」

『それは、まあ、いいけれど』


 他の人にも、同意を求める。クレメンテは聞くまでもない。リンゼイのすることに、コクリと頷くだけだ。一応、確認はしていたが。


「ウィオレケ、あなたは?」

「精霊か妖精か知らないけれど、きちんと敬意を払って、絶対に喧嘩を売らないこと」

「わかっているわよ」

「怪しい……」


 しかし、リンゼイが「大霊薬に懸けて」と口にしたので、それを信用することにした。


 まず、リンゼイが杖でコンコンと取っ手を叩く。

 すると、バリッと電気が走った。


 発生した雷撃は地上からリンゼイの目の前を通過し、天に上がっていった。


『わ、わ~お!』

「あねう、これは……」

「ふうん。さっそくの歓迎ってわけ?」


 リンゼイはクレメンテに目配せをする。

 即座に意思の疎通を図る。


「クレメンテ、せーので行くわよ?」

「リンゼイさん、わかりました」

『ん? せーの?』


 ルクスとウィオレケは理解できず、首を傾げる。


「せ~のっ!!」


 かけ声と同時に、足を上げるリンゼイとクレメンテ。

 足は前に突き出され、衝撃を受けた扉は蹴破られた。


『ひ、ひええええ!!』

「なんてことだ」


 メルヴも両手を挙げ、『ワア!』と驚く。


 倒れた扉の向こうは、無人である。

 かつて商売をしていたから、棚があり、代金を支払うカウンターなどもあった。


 誰も足を踏み入れていなかったので、内部は埃だらけ。


『っていうか、魔法に力技で対抗するの、止めようよ』

「姉上だけじゃなく、兄上まで、本当にひどいな」


 ルクスの願いは聞き入れらえることはなかった。二人はすでに、次なる行動に移していたからだ。

 まず、クレメンテが足を踏み入れる。

 一階部分に誰かがいるような気配はなかった。


「上のようですね」

「ええ」


 クレメンテは野生の勘で、建物の中の存在を読み取った。


「げほっ、げほっ!」


 ウィオレケは埃を吸い込み、咳が止まらなくなっていた。


『坊チャン、大丈夫?』

「あ、ああ、平気……」


 メルヴが心配そうに覗き込んでいた。


「昔から、埃っぽいところにいると、こんな風に、げほっ!」

「ウィオレケ、あなた、外で待っていなさいよ」

「嫌だ」


 リンゼイも頑固だが、ウィオレケも相当な頑固者である。

 姉弟は睨み合い、互いに引かない。

 クレメンテはオロオロするばかり。

 ルクスが仲裁しようとした瞬間、メルヴがピッと挙手した。


『メルヴニ任セテ!』


 そう発言したのちに、メルヴは円を描くようにスキップを踏む。


『ふん~ふんふん♪』


 何やら聞き取れない鼻歌のようなものを歌っているうちに、魔法陣が浮かび上がる。

 じわじわと発光しだし、霧のようなものを漂わせた。


「あ、すごいこれ」

『浄化魔法だ!』


 メルヴが発動させたのは、その場の空気を浄化し、埃を除去する浄化魔法。

 埃だらけの部屋は、淡く発光する光の霧に包まれて、綺麗になっていった。


 霧が晴れると、室内はすっかり清潔となり、埃一つない空間となる。


「メルヴ、すごいな、お前は」

『エッヘン!』


 褒められたメルヴは、腰に手を当てて胸を張り、誇らしげな様子でいる。

 ウィオレケはわしゃわしゃと、頭部の葉っぱを撫でた。

 嬉しそうにするメルヴ。


 これで、先に進めるようになる。


 メルヴは建物まるまる浄化したようで、どこもかしこもすっかり綺麗になっていた。


『よかったね、ウィオレケ!』

「ああ。メルヴのおかげだ」

『エヘヘ~~』


 平和な掛け合いをするウィオレケらとは違い、リンゼイとクレメンテの顔は険しい。


「これは、たぶんですが、よくない存在ものがいるようです」

「私も今、そう思っていたの」


 リンゼイは気を引き締めるよう、注意を促した。


 二階にもいなかった。残りは三階である。

 クレメンテはなんらかの気配を読み取り、階段を上る前に魔剣を抜いた。リンゼイは呪文を唱える。


『あ、すみませんリンゼイさん、家の中では火気厳禁』


 しかし、すでに戦闘態勢に入っているので、ルクスの注意など耳に届いていなかった。


「結界を張っておこう」


 ウィオレケは家が焼けないよう、結界を張る。


「まあ、姉上の魔力のほうが高いから、焼け石に水かもしれないけれど」

『わ、私も結界張る』

『メルヴモ、オ手伝イスルネ!』


 三名による結界の重ね張りを行った。これで恐らく、リンゼイが暴れても大丈夫だろう。


『ふう。これで大丈夫』

『メルヴモ、頑張ッタヨ!』

『リンゼイが脳筋大爆発魔法を使っても、一発くらいなら耐えるよね』

「姉上っていったい……」


 改めて、実の姉を恐ろしく思うウィオレケであった。


 一行は三階へと上っていく。部屋は四つに区切られており、見て回ったが、どこも不在。

 最後の最後は、屋根裏部屋である。あまり広くない。立って歩くことは不可能だ。

 身を屈めつつ進んだ。ついに、問題の輩を発見したのだが、そこにいたのは――。


『フハハハハ! 我は雷の大精霊、レイである!!』

「は?」

「これは……」


 建物を占拠する謎の存在は、自称雷の大精霊であった。しかし――。


「何このドブ鼠」

『な、なんだと、この人間の娘風情が!!』


 なんと、レイは鳥籠の中に入っており、茶色い鼠の姿をしていたのだ。

 髭と鼻先をヒクヒクさせながら怒っているが、鼠の姿では迫力に欠ける。

 人の手の平にちょこんと乗りそうな、可愛らしく小さな存在であった。


 鳥籠の下にある魔法陣を見たら、今までどういうことがあったのかリンゼイには理解できた。


「なるほどね」

「リンゼイさん、何かわかりました?」

「ええ。このドブ鼠、失敗した召喚術の影響で、ここから動けないみたい」


 リンゼイの推測では、未熟な魔法使いが自らの実力以上の精霊を召喚した。

 力を抑える魔道具の籠と媒介のドブ鼠まで準備して、召喚には成功したものの、魔力が尽きてしまったのか、大精霊に怖気づいてしまったのか、逃げ出してしまったのだ。

 そこから、三十年近く、雷の大精霊レイはドブ鼠の姿で閉じ込められたまま。

 しかし、僅かな外への干渉力を持っていたので、人に対し嫌がらせをしていたと。


『うっ、うっ、俺も、辛かったんだよおおお!!』

「ふ~ん」


 めそめそと泣き始めるレイ。しかし、契約者がいない以上、どうしようもない。


『人間の娘。せめて、ここから出してくれないか? ずっと、閉じ込められたままで、気が滅入っているんだ』

「駄目よ。あなた、そんなことしたら、全力で人に復讐をするでしょう」

『チッ!』


 リンゼイは容赦なかった。


『リンゼイ、どうするの?』

「封印を強めましょう」

『おい、クソ、止めろ!!』


 あまりにも雑な扱いに、ウィオレケは気の毒に思う。

 けれど、相手は大精霊。

 ルクスや筋肉妖精のローゼのように、心優しい存在ではないのだ。


「いったい、どうすればいいのか」


 ウィオレケがそう呟いたら、メルヴがテポテポと歩き、レイの前にやって来る。


『ん、なんだ、お前は?』

『メルヴダヨ』


 いったい何を言うつもりなのか。

 一行はメルヴを見守る。


『な、なんだよ?』


 メルヴのつぶらな瞳に見つめられ、レイはたじろぐ。

 メルヴは片手を挙げて、元気よく言った。


『雷ノ鼠サン、メルヴト、オ友達ニナロウヨ』

『は?』

『オ話シヨウ』


 メルヴは躊躇うことなく、レイの鳥籠の中に手を入れた。

 握手を求めて来たのだ。


「メルヴ、危な……!」

『ウィオレケ、ここは任せておこうよ』

「でも……」


 心配そうに見守る中――意外にもレイはメルヴの手を握り返した。


『ま、まあ、どうしてもというのならば』

『ワ~イ、アリガト~!』


 メルヴとレイは友達になった。

 雷の大精霊レイは、案外陥落しやすい性格だったのだ。


「ま、しばらくは様子見ということで」

『そうだね。メルヴに任せよう』


魔法陣の大精霊はそのまま屋根裏に放置となる。


『エ?』

「ん?」


 メルヴの声に反応して、リンゼイ達は振り返る。


 屋根裏部屋から、レイの姿がなくなっていたのだ。


「ど、どういうことなんだ?」

『もしかして、怨念だけ残っていたとか?』

「もしくは、精霊の負の感情だけを召喚していたとか」


 メルヴは、精霊をも浄化してしまったのだ。


 こうして、謎の怪奇現象は解決した。

 リンゼイ達はここを拠点として、活動することになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ