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麗人賢者の薬屋さん  作者: 江本マシメサ


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空中戦!

 リンゼイ御一行は身支度を整え、出発となる。


『空路は魔物に襲われる確率大なので、一応魔物避けの結界を張るけれど、紙装甲とか、そんな感じなので、ご理解を』

「わかったわ」

「ルクス、無理のない程度にね」

「よろしくお願いいたします」


 ルクスの言葉に、リンゼイ、ウィオレケ、クレメンテが各々反応を示す。

 赤竜――レンゲが着地できる広場まで移動し、名前を呼んだ。


「レンゲ~~!!」


 竜の雑な召喚方法に、ウィオレケはぎょっとする。


「あ、姉上、まさか、それが竜召喚なのか?」

「そうだけど」

「嘘だ!」


 ウィオレケがそう叫んだ瞬間、空に黒い点が浮かび上がる。レンゲがやって来たのだ。


「う、嘘だろ……!」

『まあ、リンゼイだから』


 そうとしか、説明できない。


『あ、そーいえば、ウィオレケの竜は?』

「僕はいらないから、断った」

『え!?』


 アイスコレッタ家では、七歳の誕生日に竜の卵を贈られる。自分で管理して、孵化させるのだが、ウィオレケは要らないと言ったのだ。


『ど、どうして? 竜って、貴重だし、使役できる人なんて、ひと握りなのに』

「だからだ。僕は、竜を得るに値しない。宝の持ち腐れになる」


 ウィオレケは言う。実力があって、竜の力でたくさんの人を救えるような人に譲ってほしいと。


「母は僕のことを、変わり者だと言った。でも、後悔はしていない」

『そっか』


 リンゼイのように、家から飛び出してさまざまな冒険をする者には竜は必要だろう。

 けれど、ウィオレケのように、部屋で勉強し、知識を得ることも喜びを見出す者に、竜は必要なかったのだ。


 そんなことを話しているうちにレンゲは接近し――どっかりと着地した。

 皆が乗りやすいよう、地面にぴったりと体を密着させ、伏せの姿勢を取っている。


「あ、姉上、メルヴはどうする?」

「布に包んで、レンゲが首から提げるしかないわね」

「大丈夫なのか、それは?」

「平気よ、たぶん」


 リンゼイは道具箱から布を取り出して、ウィオレケに手渡す。

 布の中心に、メルヴを置いた。

 くるくると巻きつけ、持ち手を作った状態でしっかり結ぶ。途中で解けないように、クレメンテにもう一度結んでもらった。

 持ち手部分をレンゲの首に通し、ぶら提げる形にする。


「メルヴ、すまないが、しばし我慢してくれ」

『ワカッタ!』


 メルヴはピシっと、手を挙げて返事をする。

 かなり揺れるだろうが、鉢を手に持ったままレンゲに跨ることはできないので、苦肉の策であった。

 もしも、極度に怖がるようであれば、鉢を背負うしかない。ウィオレケは怖かったら教えてくれと、メルヴに言っておく。


 そして、リンゼイ、クレメンテ、ウィオレケの順に跨る。ルクスはリンゼイの外套の中へと潜り込む。


 レンゲは翼をはためかせ――飛翔した。


 ウィオレケは初飛行であった。

 空に上がるまでは気圧の変化で辛かったが、飛行が安定したら気持ち悪さも消えて、目の前の景色にただただ感動する。


「うわ、すごい!! 姉上、竜って、すごいんだね」

「そうでしょう?」


 子どもらしくはしゃいでいる声が聞こえたので、リンゼイは頬を緩めていた。

 一方、レンゲの首からぶら提げられていたメルヴは――。


『ワ~イ!』


 左右に揺れながらの飛行であったが、案外楽しんでいる様子だった。怖がる気配はない。

 ウィオレケもひと安心である。


 青空の中、すいすいを進んで行く。

 結界を張っているので、風の抵抗も受けない。レンゲは安定した飛行をするので、乗り心地も良かった。


 だがしかし、そんな安全飛行を脅かす存在が現われるのである。


『リ、リンゼイさん?』

「何?」

『魔物、近づいているっぽい』

「なんですって!?」


 魔物避けをしている上での接近なので、中位以上の魔物となる。

 攻撃の頼みは、リンゼイの魔法しかない。


 リンゼイは指先をパチリと鳴らす。

 すると、空中に小さな魔法陣が浮かび上がり、中心部から杖が現れた。柄を手に取ってくるりと一回転させ、槍を構えるかのように握った。


『……リンゼイ、わかっていると思うけれど、きちんと魔法で倒してね?』

「わかっているわよ、それくらい。それよりも――」


 リンゼイはルクスに、魔眼で魔物の情報を探るようにと命じる。


『いや~、私も千里眼なわけじゃなくて……』


 もっと接近しないと視えない。

 ルクスは身を乗り出して、目を細めた。すると、魔物の姿を捉えることができた。


『あ、うわ~~』

「何がいたの?」

人喰獣マンティコア

「はあ!?」


 まさかの、高位魔物であった。

 人喰獣マンティコア――獰猛な気質を持っている。

 体は血の鮮やかな赤。頭部は口が大きく裂けた人の顔のようで、呪われた者のなれの果てだとも言われている。背中に大きく黒い翼を持ち、四足の手足には鋭い爪を持っていた。

 発見をされたのは半世紀前。討伐に派遣された部隊の大半を壊滅させたという記述が残っていた。


『リンゼイ、あれは尻尾の毒がやばいから!!』

「知ってる」


 対人喰獣マンティコアとの戦闘で一番気を付けなければならないのは尾の毒だ。

 外側に反り返った大きな針からは毒の含んだ体液が飛んでくる。その液体に触れたら最後。即座に意識を失い、飲み込まれてしまうのだ。


『来た! ってか、早っ!』


 前方より、人喰獣マンティコアの姿がリンゼイらにも目視できるようになる。

 黒い翼をはためかせ、迫って来ていた。

 顔面は女性のもの。裂けた口から鋭い牙を覗かせ、眼球は前に押し出されていて恐ろしい。


 まず、レンゲが先制攻撃をする。

 炎の球を作り出して、ふっと軽く息を吹きかけるように、人喰獣マンティコアに向かって放った。

 しかし、魔法で作った盾に阻まれてしまう。

 続けて、リンゼイも炎魔法を展開させた。空中に浮かんだ魔法陣より、火柱でできた杭を打ち付ける術式であったが、これも防御されてしまった。


『結構、賢い奴なんだ』

「面倒な奴!」


 その後、何度か魔法を放ったが、どれも魔法壁を張って防御されてしまう。

 リンゼイはチッ! と舌打ちをする。


『リンゼイ、舌打ちはちょっと……』

「今はどうでもいいでしょう!?」


 リンゼイはウィオレケを振り返り、あるお願いをした。


「ウィオレケ、空中に氷で足場を作って」

「作って、どうするんだ?」

「直接殴りに行くのよ!!」


 リンゼイの踏み出す方向に、氷魔法で足場を作れと言うのだ。

 可能だが、危険だからできないと断る。


「あいつ、魔法は防御するのよ。だから、直接攻撃じゃなきゃ――」


 ここで、想定外の第三者が口を挟む。


「あの、私が剣で斬りつけますので、隙ができたら魔法で攻撃するというのはどうでしょうか?」


 いい案だったが、リンゼイの魔法だと、クレメンテを巻き込んでしまう可能性があった。


「その辺は、上手い具合になんとか……」

「クレメンテ、下手したら死ぬんだ! もっと考えて――」

「でも、このままでは、全員死にます」

「!」


 クレメンテの言葉に、ウィオレケは言葉を失う。

 リンゼイはクレメンテを見る。コクリと頷くのを見て、言った。


「やりましょう」


 ――作戦開始である。


 まず、リンゼイとレンゲが炎の球を作り出し、人喰獣マンティコアの気を引く。

 その間に、クレメンテはウィオレケの作った氷の足場で、空の上を駆けるのだ。


 一歩踏み出すごとに作り出される氷の床。一度触れたら消えてなくなる儚いものであった。後退することは許されない。そんな作戦である。


『クレメンテ、すごい!』


 慣れない空中戦であったが、クレメンテは果敢に挑んでいた。


『どうして、あんなに怖いもの知らずなんだろう』

「あんなの、怖いに決まっているじゃない」


 リンゼイの言葉に、ルクスはハッとなる。


『そうだよね……』


 大英雄も人の子なのだ。万能ではない。

 少しでも気が楽になるように、ルクスはクレメンテに祝福の魔法をかけた。


 一歩踏み出すごとに、ウィオレケは氷魔法で足場を作り出す。

 二人の息はぴったりであった。


 ついに、クレメンテは人喰獣マンティコアに接近する。

 早速、即死毒を振りかけようとしたが、ウィオレケが氷魔法で凍らせた。


 クレメンテは魔剣を抜き、人喰獣マンティコアの首元をめがけて、斜めに振り下ろす。

 前方からの魔法に気を取られていたのか、回避できなかったようだ。

 クレメンテの一撃は首を跳ねて飛ばす。

 凄まじい悲鳴を上げながら、頭部は落下していった。

 それを、リンゼイは炎魔法で焼き尽くす。一瞬にして、塵となった。

 クレメンテは腕を捻り、剣を一回転させたのちに、続けてもう一撃。

 今度は、胸を切り裂いた。鮮血がぶわりと、空を舞う。

 首を失ってなお、人喰獣マンティコアは空を飛び続けていた。

 姿勢は斜めになっていたが、落下する様子はない。


 毒尾を振り上げてきたが、それすらもクレメンテは斬り捨てた。

 ここでやっと、人喰獣マンティコアが落下していく。

 しかし、ホッとしたのも束の間のこと。


 最後の力を振り絞り、人喰獣マンティコアは急上昇してきて、クレメンテに体当たりをしたのだ。


 体のバランスを崩したクレメンテは、氷の足場から落とされてしまう。


『クレメンテ!!』


 ルクスは叫ぶ。リンゼイは奥歯を噛みしめた。

 ウィオレケの魔法は――間に合わなかった。


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