My Happy Ending
「ここではないどこかへ行こう」
すべてはこの一言から始まった、奴は俺の背を押して夜の外へ連れ出した。
「っていうか、どこにどうやって行くんだよ」
背後には警察病院の正面玄関、大通りは車も少なくタクシーだって走ってない時間だ。
「いいから、いいからとりあえず歩いて近くの駅まで行くから」
そういって奴は俺の右手首を引っ張って歩き始めた。
この辺の地理はよくわからないから、駅も知名もまったくわからないから、病院から離れたら完全に迷子だ。
「とりあえず駅だな」
「駅はいいけど、どうすんだよ本当に」
奴はちょっと考えているのか、「ちょっと待ってて」と離れてコンビニに入っていった。
俺も人生の場末なんかじゃなかったら、こんな変なことに付き合う気なんか起きなかった。それぐらい俺は終わってた、全部、人生、生活、仕事。
奴も似たようなことを言ってた。
「おい!行くぞ、走れ!!」
ぼんやり待ってたらまた急に右腕をつかまれた。しかも勢いよく走り出していく、なんだ一体。
どれぐらい大通りを走ったのか、見かけたタクシーに手を上げる、緑のタクシーが一台幅寄せして止まる。
奴は俺を先に車内に押入れ、「とりあえず出して」と言って乗ってくる。
タクシー代なんかないぞ、俺は財布を病院に置いたまま出てきたんだ。
そういえばさっきからパーカーのフード被ってるけど、どうしたんだろうか。
「おい、タクシー代なんかないぞ」小声で潜めて話しかける。
「大丈夫だ、これ」ってパーカーの前ポケットから1万円札を数枚見せた、財布じゃなくてポケットに直入れとか見かけを裏切らない性格だ。
「なあ、どこまで行くんだよ」
「運転手さん、そこのコンビニ寄って」
俺は、ため息をついてシートに深くもたれた。
言われたとおり見かけたコンビニにタクシーが停車する。
「お客さん停車中も料金発生しますよ」
「お前乗ってて、待ってて」
昨日からひどい頭痛は夕飯後の薬が切れたのか、また痛み出してる。
奴はタクシーに駆け込んできた。
「車出して、速く!」
奴は運転手を急かして、車を通りに出させた。
10分ぐらい流して、突然降りると言う。
「お客さん、お代は」
「黙れ、おいあんた、降りろ」
おいおいおい、カッターナイフなんかどこで手に入れたんだ。
奴はタクシー運転手にカッターナイフを向けて、俺に降りろと指示したのだ。
タクシーを降りた途端、また右腕をつかまれ走れと言われる。
俺は頭の痛みで正直走るどころじゃなかったが、もたもたしてたら警察が来るから仕方なく走り始めた。
奴は走ってる間だいぶ息が辛そうだった。
病院を出て1時間だ、1時間のうちにタクシー詐欺とか笑えた。
「はは、お前金あるのに、しかもそっちのコンビニ袋酒だろ、どこで呑むんだよ」
走るペースから歩きにして、奴は振り返った。
「いいんだよ、どうせ逃げるしかねーんだ、最後ぐらい好きにさせろって」
「好きにって、」
奴は俺の言葉をさえぎって、「海行こうぜ、海の見えるところで酒呑もうぜ」とコンビニ袋をぷらぷらさせた。
「海か、もうどれぐらいまともに見てないんだろうな」
「あとは歩けば朝には着くだろ」
どれぐらい歩いたか、空が白んできたころ河口に行き当たった。
適当なベンチに座って、奴はコンビニの袋から酒のビンを取り出して、スチールの蓋を回し開けて口つける。
「呑む?」
俺は無言で奪い取って口つけた。
「俺、もう死ぬんだわ」
一息はいて、奴が続ける。
「頭の中に腫瘍があって、手術できない場所なんだってよ。ったく俺が何したんだっての、普通に生きてきて、突然死にますとか言われてさ、人生詰んだわ」
「俺は死に損ないだぜ、それで病院にいたの」
奴は少し驚いた顔で、「マジ?」と返したので、「ああ」とうなづいた。
「酒のアレルギーでな、昨日の夜運ばれたんだよ、今日診断聞いて今後酒飲んだら死ぬんだって言われたよ」
はっはははと乾いた笑いがもれた。
「お前、酒、飲んじまったじゃん」
「俺は警察官だぞ、酒呑まないでやっていける職じゃないんだよ」
奴は再び「マジ?」と引きつっていた。
「あーマジだマジ、お前はそういえば何で警察病院にいたんだよ?」
「俺は、引ったくりだとかでしょっ引かれて、取調べ室で倒れたらしい、で検査したら頭のなかに影があるって話だった」
「それで警察病院か」
話してる間にも奴は酒を呷っていた。
俺は時間次第で死ぬ状況だった。
「なぁ、死んだらどこに行くんだろうな」
朝日が昇り始めていた。
どれほど見つめたのか、奴のほうからビンが地面に落ちた音がした。
その音を最後に俺も目を閉じた。




