トラブルのにおい
冒険者組合からの呼び出しは突然だった。
最初から上からであり、高圧的である。
万見仙千代が無礼として追い返したのも仕方がない。
そして朝食をとっている時に押し掛けてきた。
「貴様がオルファンか!!
貴様のせいで!!」
わめいているジジイがこの街の支部長。
要約するとお前達に斬られた冒険者達はこの街の主戦力だった。おかげで戦力が足りない。
お前達が討伐し過ぎるせいで冒険者と組合が稼げない。おかげで酒が不味い。
謝罪として金を寄越せ。冒険者になって自分の命令に従え。マリアン達はお前にはもったいない、寄越せ。
うん、馬鹿ですね。
本多忠純がまだ寝ているのが救いです。
「ワシの言う事が聞けんのか?」
ジジイが手をあげるとムサい男達が剣や槍を構えて入ってくる。即座に仙千代や重政が反応して構える。睨み合う事になってしまう。
「この数と戦う気か?正気とは思えんな。」
「冒険者組合が脅すんですか?」
「冒険者は自己責任。この程度は揉み消してやるわい。」
クソジジイだ。
突然血が舞う。
起きた本多忠純が2階から飛び降りて抜刀したのだ。数人を斬った後に「で、何してるんだ?」と聞いてくる。覚悟がない冒険者から逃げ出していく。
残ったのは血で汚れた食堂だ。
こうなるとこの宿には居られない。
ベッドのある宿としては安くて助かってたのに。
迷惑料として金貨1枚を置いて宿を出る。
血とか壊れた食器とかご免なさい。
本多忠純がいい場所があると案内したのがスラムだ。すでにマリアン達は怯えている。
しばらく歩くと数十人に囲まれた。
仙千代達が警戒する。
「おかえりなさいませ!!」
「おう。」
は?
軽やかに歩く忠純に驚く。
「コイツらは儂の配下だ。」
夜な夜なスラムで人を斬って勢力を拡大して「本多党」を組織したという。よく見ると女子供もいる。
拠点には本多忠純が囲う情婦もいた。
皆を観察する。
女子供ほど痩せている。
服もボロボロだ。
6歳くらいの女の子なのにズボンしか履いてない子もいる。
忠純やスラムのまとめ役に話を聞く。
忠純は夜になるとこのスラムで酒や食糧を振る舞い、敵対者を斬っていたそうだ。
犯罪者グループではなく、住人グループといった感じか。もちろん売春をする者や盗みをする者もいる。しかし、個人での活動に留まる。
本多党の勢力はこの広いスラムでは中堅以下。
組織的な勢力には及ばない。
選択肢は2つ。街を出るか、スラムに残るか。
街を出た場合は本多忠純はこのスラムに残るだろう。反対に玄広恵探はスラムにいたくなさそうだ。
皆を休ませて建物を出て考える。
ここは忠純の勢力圏内、出歩くくらいはできる。
月を見る。赤い。
スラムに残ればスラムから出ていく事が難しくなる。しかし、冒険者組合とのトラブルを解決しないまま街を離れると、今後どんな嫌がらせがあるかわからない。
目の前にボロボロの薄着の少女がきた。
「助けてください。本多様がいなくなると私達はまた奪われる側になります。また水だけの生活になります。」
助けてはあげたいが。
「お願いします。」
今度はやつれた女性だ。胸があらわになっている。
「お願い。」
あの上半身裸の少女だ。
根負けする。
自分は女性には勝てないようだ。
次の日スラムに残る事を発表し指示をだす。
「玄広恵探は冒険者組合を探ってくれ。反撃をする。万見仙千代は拠点と女達の護衛を。」
「勢力を拡大する。方針は小さな勢力を呑み込む。
これは本多忠純に任せる。今まで通りだろう。」
「買い出しに行く。稲津重政は護衛を頼む。」
さぁ、活動開始だ。