諦めも大事
ダンジョンでの修行は大成功と言えた。
ポーションや司祭達のお陰で大きな怪我をした者はいない。結構な無茶でもあったが。皆が何かしら得たはずだ。
元々のレベルが高いヘラ、ロッテ、ミッシェルを除いて。この3人はレベルも上がらなかった。
ただし、ヘラとロッテはマッシュとの戦いでスキルのレベルが上がったようだ。
ミッシェルはスキルも上がらなかったうえに自信を喪失している。未だに「剣が、槍が、弓を」とブツブツ言っている。皆には幻影の館に戻ってもらった。
ダンジョンで入手した物は高い金を払って鑑定してもらう。勿論口止め料込みである。使えそうな武具やアイテムは所持して、それ以外はオークションにかける。
挑んだダンジョンの公開されている攻略階層は43階。40階以降は大型種が跋扈する異常な空間だった。
罠も敵を呼び寄せる物か、敵のいる場所へ転移させる物が多かった。攻略が進まないのもわかる。
つまり、誰も踏み込んでいない場所なのだ。
お宝がザクザクである。
さらにマッシュが今まで倒したスカルドラゴンの骨や爪、牙もあるだけ貰ってきた。スカルドラゴンの骨や爪は他のドラゴンの骨や爪からしたら魔力の含有率は低い。さらに倒す過程で骨や爪がそのままでは使い物にならなくなる事も多い。それでも骨を粉末にした物は薬や道具に使用できる。簡単に砕けない骨を粉々にするという手間が待っているため、大した値段はつかないが。
500年分だったのですでにリング内の9つの空間のうち5つが骨で埋まった。この中でどれだけがそのままで使えるのか。
芋・米・麦の焼酎、1升瓶30本が代償だ。得をしたと言える。
家では平井信正が待っていた。複数の情報屋から情報を買って精査まで済ませていた。その上で最新の情報を上書きしている。非常に優秀である。
まずは国内情勢。
バラン公爵が王都を抑え、王女達について大敗した貴族達を支配下に入れた。さらに王女達と第2王子に勝った事で勢力を拡大し、バラン公爵領の周辺貴族もバラン公爵に味方している。
第1王子は軍を集めてアテナイ軍と対峙している。
敵の物資不足をついた戦いではないか、と言われている。
第3王子は相変わらず村を占拠している。
村を治めていた男爵を斬ったため、周辺の貴族は兵を集めて身を守っている。
さらに、王国北部のスカーレット伯爵婦人が連合を組んで独立を宣言。
そのうえ、「愚者」として有名な国王の弟プリンバイン大公が『正統な王位の奪還』を宣言。
他にも動向を明らかにしない貴族が沢山いるため、国内は混沌としてきていた。
・・。
何、このカオス。
オークション屋からは告知を含め1月後にオークションを開くと報せがあった。ダンジョンモンスターから手に入れた素材はすでに売り払っている。
白金貨12枚、金貨41枚、銀貨54枚。
持っていたお金が白金貨2枚と金貨295枚、銀貨69枚だった。その中から情報料として金貨200枚が出ていく。これで今後も1ヶ月間は最新の情報が入ってくる。そして幻影の館で使う食材も買い込んだ。
しめて金貨50枚。2ヶ月は余裕で持つ。
残りは白金貨14枚、金貨86枚、銀貨123枚。
金貨、銀貨は自分達の食費などに出ていく。
さて、この状況でどう戦争をする?
大量の竜牙兵で戦うか?
・・・。
地平を埋め尽くす竜牙兵。
うん、魔王軍だ。新しい魔王だね。
司祭4人や神殿騎士18人も動員できない。
神殿は中立であるという建前がある。抜け穴はいくらでもあるけど。
かといって100人ちょっとで戦うのか?
・・・。ミッシェルがいればイケるかも知れない。
いや、ミッシェルに大虐殺をさせるわけにもいかない。仮にも天使族の大天使だ。
兵を雇うにも金がいる。しかも今は内乱の最中でどこも兵が足りていない。グルーンに至っては復興のために人手も足りない。
そのため、奴隷も高騰し始めている。
・・・。
精鋭による奇襲。それで王城を奪還する。
それしかないか。