それは死
街の各所で戦闘が行われ、魔物達はその数を確実に減らしていった。
だが、数で襲い掛かるアンデットも、物理無効のゴーストも、破壊を撒き散らしたオーガも、街を燃やす火蜥蜴も時間稼ぎでしかなかった。
中央に設置された巨大な魔法陣。
そこから死が現れる。
『ドラゴンゾンビ』
ドラゴンの知恵と理性を失い、瘴気と死を振り撒く存在である。
「ウオオォォン!」
辺りに濃密な死の気配が満ちる。
絶望の夜は終わらない。
死を告げる咆哮は都市を駆け巡った。
「クソッ!女達を連れて逃げるぞ!!あれと戦ったら死ぬ!!」
オルファンの本能が叫ぶ。
戦うな!逃げろ!!あれは死だと。
未だ屋敷までは距離がある。
急げ!急げ!!急げ!!!
永池達、後を進む侍達は避難してきた女達と合流していた。
「さすがは妙林尼殿か。このまま都市の外へ出られよ。混戦になれば何が起こるかわからぬゆえな。」
女達は無事に避難する。だが、携帯電話などない世界だ。それを知らせる術はない。
永池達も駆けるしかなかった。
その巨体は離れていても確認できる。
数人の探索者が挑んでは骸へと変わる。
「これは・・・、マズイですね。住民の避難を優先しましょう。神殿には戦闘の要請をしなさい。」
「私は残るわ。皆を逃がして。」
都市の代表2人もいつもの余裕はない。
逃げる、逃げる、逃げる。
屋敷には誰もいなかった。すでに避難していたようだ。ならば逃げるのみ。
「ダァッ!」
聞こえるはずのない赤ん坊の声。
足が止まる。
「ダアブ!!ダァッ!ダァッ!」
倒れている女性の顔をペチペチと叩く赤ん坊がいた。
関係ない、俺には関係ない。
「パパパ」
抱き上げた子供の映像が頭にフラッシュする。
「本当にお父さんが好きねぇ。」
笑うツマ。ツマ?ツマ?つま?
「うわあぁぁぁ!!」
女性に駆け寄りポーションを振り掛ける。
「ダアブ!!」
ペチペチと叩く赤ん坊にわずかばかり女性が反応する。
「グルウゥ!」
オーガが2体現れる。侍達が間に入りオルファンを護ろうとする。だが、
「子供を傷付けるのは貴様か!」
オルファンが鋭く踏み込み剣を振る。
「子供を泣かすのは貴様か!」
オーガの口に剣を突き立てる。
まずは1体。
もう1体は?
「まだです!!」
オーガはまだ生きていた。
オーガの腕が切り落とされる。2本の槍で貫く。
「油断めされるな。」
織田信実が槍を引く。
まだまだ精進が足りないようだ。
もう1体もすでに退治されていた。
響く聖歌。謳われるは神を讃える聖なる詞。ドラゴンゾンビを三重に囲む神殿関係者。
脱法都市グルーンは力ある者が集う場所。
力なき者が傷付く場所。
ゆえに神殿は戦闘向きの者より、誰かを助けられる人を集めてきた。今回はそれが災いした。
瘴気を押し戻し、闇を払う。だが、ドラゴンゾンビの巨体を押し留めるものではない。すでに20人を超える神殿兵が噛まれ、尾で薙ぎ払われて死んでいる。さらにブレスによってシスターにも犠牲者が出ている。年若いシスター達は迫る死に怯えていた。
誰かか声をあげる。
「あれは・・・、オルファン様?もしや、助けに来てくださったの?」
「オルファン様!!」
名を呼ばれる。どうやら本当に厄介事だ。




