村での戦闘
矢が狼を射抜く。
しかし、致命傷にはならない。
狼の牙がオルファンに届くかという瞬間に槍が狼の口から貫いた。
「貴様、阿呆よな。だが、気に入った。」
本多忠純は片手で狼ごと槍を高々とあげる。
気づいた夫婦が悲鳴をあげて駆け付ける。
「私の赤ちゃんは!?」
無事な赤ん坊を手渡す。
「だぁ!だぁ!」
無邪気な赤ん坊だ。
手渡した人差し指をギュッと握ってくる。
我が子を思い出して涙が流れる。
いや、そんな場合じゃない。
狼が次々と現れる。
「濡れた血の付いた狼が数体います。
先程の討伐隊が村に狼を引き連れたまま逃げ込んだのでしょう。」
仙千代が状況を分析する。
「儂が相手をする。貴様は主人と親子を逃がせ。
高所からならばその弓もやり易かろう。」
忠純が前に出る。
親子と共に逃げる。
広場には半狂乱の戦士達がいた。
狼もいる。
仙千代が槍で追い払う。
どの建物も戸を固く閉ざしている。
「入れる建物はありませんか?」
「私たちの家なら!」
夫婦の家に入る。
仙千代は屋根に上がる。
村は戦場と化していた。
次々と矢で射る。
狼も攻撃に気付くが、屋根の上までたどり着けない。広場付近にいた狼の数が10体をきろうとした時に狼達が引いていく。
「粘られたら矢が足りませんでしたね。」
額の汗を拭いながら仙千代は嘆息していた。
全身から血を流しながらも槍を繰り出す。
「貴様、悪くないぞ。儂を楽しませろ!」
どちらが獣だろうか。
何体を仕留めたか。
遠吠えが響き渡る。
それを合図に狼達が退く。
「チッ!逃がしたか。」
忠純の不満気な声が漏れていた。
広場や畑では狼の死体が集められていた。
そこに戦士達の集団が現れる。
「それは俺達のもんだ。立ち去れ。」
村人達を剣や槍で脅す。
「この狼はあん人達が倒したもんですがの。」
老人が抗議する。
「俺達が討伐を引き受けたんだ。
このまま帰れるか!!」
そう言って自分達に駆け寄って剣を突き付ける。
「おい、寄越せ!!」
彼等は25人。こちらは3人。
だが。
「だれに武器を向けた!」
咆哮一閃。
本多忠純の刀が男を斬り捨てた。
「なっ!!」
驚く戦士達の中に飛び込んで一閃。
命を刈り取る。
「仮にも儂の主人に武器を向けたのだ!死ねい!!」
驚いて逃げる戦士の背には矢が刺さる。
万見仙千代である。
残ったのは投降の意志を示した戦士と、腰を抜かして失禁をした3人の女戦士であった。
村人も恐怖で固まっている。
「すいません。この狼、いくらになりますか?」
穏やかなオルファンの声が酷く場違いであった。
狼は銀貨10枚。銅貨1000枚分になった。
さらに村からの謝礼が銀貨2枚出た。
ホクホクである。
とはいえ、村にも少なくない被害が出ている。
銀貨2枚を見舞金として渡す。
泣いて感謝された。
次に戦士達である。
彼等は近くの街の冒険者だった。
領主が出した狼討伐を数グループで引き受けたという。そして失敗した。
狼の死体を持って一部討伐成功にするために、死体を奪おうとしたらしい。首謀者はすでにあの世である。
戦士達の行為は強盗であり、その財産はこちらで好きにしていいと言う。この3人も街で村長の発行する文書と共に役人に引き渡せば犯罪奴隷にされる。そしてその身柄か代金が貰える。
奴隷が普通にいるのには驚いた。
この世界には人権はないようだ。
戦士達が持っていた硬貨は全部で銀貨4枚。
コイツら金ないじゃん。持ち歩いていなかったのか。
投降した戦士は身代金が払えるという。役人に引き渡して金で釈放してくれと嘆願してきた。
つまり金で自分を買い戻すわけだ。
相場の銀貨80枚にはなるらしい。
さて問題は女戦士3人だ。身代金はないらしい。
1人は30代半ば。1人は30代前半。1人は20代前半。
犯罪奴隷になれば20代の女戦士は娼館行きだろうと言われた。30代の2人の女戦士は鉱山か戦場で男達の相手をする事になるみたいだ。
そんな事を淡々と説明してくれる村人に驚いた。
この世界では普通なんだろうか。
売れば20代の女戦士は銀貨150枚から200枚。
30代の女戦士は銀貨80枚から100枚。
さてどうしよう。