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戦場の風

「拙者は戦場の漢、共に逝こう。」

「武人たる儂が残るとでも?」

「奴等ごときに儂が殺せるかの?楽しみじゃ。」

次々と声があがり、6人の竜人全員が後に続く。オルファンは振り返る事もなく策を伝える。

「ゴブリン達は城攻めに夢中だ。その後背(こうはい)を突く。奇襲を受けてゴブリン達が混乱している隙にゴブリンジェネラル、ゴブリンナイトを討ち取る。」

非常に単純な策である。

「俺の護衛は必要ない。お前達が戦い易いように戦え。」

それだけだ。


硬い外皮を持ち、対魔法・対物理で高い防御力を誇る。力は他種族を圧倒し、小さいながらも炎のブレスを吐く。性格は誇り高く、詐術や裏切りを嫌う。

最強の種族を聞かれれば多種多様な種族があがるだろう。近接肉弾戦に限っても竜人以外の種族の名もあがる。だが、『最良の戦闘奴隷は?』と聞かれれば多くの人が竜人と答えるだろう。

その答えが目の前にあった。


ゴブリン達の背後を突いたオルファン達の突撃によりゴブリンが空を舞った。竜人が何かをするたびにゴブリン数体が吹っ飛ぶ。勇気あるゴブリンの攻撃も攻撃ごと叩き潰されている。

「ジェネラルやナイトはおらぬか!!」

今ミンチになったのがゴブリンナイトです。

圧倒的強者の出現にゴブリン達の目に怯えが浮かぶ。その敗戦を許さぬとばかりにゴブリンジェネラルがその巨体を現した。

悪いが交戦の準備すらさせない。まともに戦えば今はまだオルファンよりゴブリンジェネラルの方が強いのだから。

魔力で身体を強化し踏み込む。魔力をブースター代わりにして、剣を振り抜いて一気に駆け抜けた。

想像以上の衝撃に両手が折れている。

両手が揺れる。プラーン、プラーンと。

対するゴブリンジェネラルは首が消えていた。

「ゴブリンジェネラル、オルファンが討ち取ったぞ!!」

精一杯の声を張り上げる。


痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。

内心はそれどころではない。

おかしな汗もダラダラと滝のように流れている。

レベルアップのアナウンスなど聞く余裕はない。

ハイポーションをイッキ飲みして骨折を治す。

次の敵はと剣を見れば、剣がグニャリと曲がってしまっていた。

紙一重の勝利だった。


ゴブリンジェネラルがいなくなろうとも、まだゴブリンナイトやゴブリンリーダー達がいる。混乱が収まる前に如何に敵を討てるかが大事だ。

だが都市側の反応は芳しくない。

都市側としては城門や城壁に群がるゴブリン達は健在なのだ。ゴブリンジェネラルどころではない。目の前のゴブリンが問題なのだった。

ましてや炎による煙と土煙で戦場を見渡す事もできない。戦場の空気に飲まれて全体を見渡す余裕もない。

「クソッ!負傷した!下がる!」

負けると判断して理由を付けて逃げ出す者もいる始末だ。


風が吹いた。


それはそれは一瞬だけだった。

戦場の熱気を振り払い、戦場を覆う煙さえも取り払った。すぐに煙は炎によって立ち上る。だが、城壁からも見えた。城壁からも見えた。

首を失ったゴブリンジェネラルや潰されたゴブリンナイトが。

それは一瞬だけであった。

でも、それで充分だった。


「ゴブリンジェネラルは死んでる!ゴブリンナイトもだ!!」

「俺達の勝利だぞ!!」

「もう少し粘れ!!美味い酒が飲めるぞ!」

都市の戦士達から声があがる。

風1つで戦場の勝敗が変わったのだ。


「ふむ。」

竜人の1人が立ち止まる。

「戦の潮目が変わったか。」

大きく息を吸い込み、戦場全体に響く怒号を放つ。

「儂は竜人が戦士ゲオル!!勇者オルファンがゴブリンジェネラルを討ち取ったぞ!!」

別の竜人も吠える。

「竜人ルゴフ也!!我等7人に続く者は無しや!!」


「「「「「「War!!War!!War!!War!!War!!War!!War!!War!!War!!」」」」」」

竜人6人が(とき)をあげる。

都市からも雄叫びがあがった。

ゴブリン達が人々の声に混乱を拡げ、攻撃の手が止まる。それを見逃す探索者達ではない。反撃が始まる。


ゴブリン達はゴブリンナイトを中心に幾つかのグループを作り出した。だが、それを指揮するゴブリンナイトが出した指示がバラバラであった。突撃を指示する者、防衛を指示する者、退却を指示する者。もはや軍ではない。

逃げ出すゴブリンを追撃すれば容易く討ち取れるだろうが、それをすれば都市の負担が大きくなる。今は戦場に残っている敵を討つべきなのだ。


城門から新たに100人程が出撃してきた。「暴風」ピーカー率いる探索者達だ。手練れが何人も混ざっている。ゴブリン達が下がり始めた。後退か退却かはわからないが勝利だろう。

「やはり戦場は良い。」

傍らの竜人が呟く。

ははは、戦場は嫌だよ。

勝敗が決まった戦場は夕日と血で紅く染まっていた。

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