さらばグスタ
荷物を隠した小高い丘でルーナを降ろす。
「あの。貴族様とどこかでお会いしましたか?失礼ながら覚えていなくて、ですね。」
ルーナが覚えているはずがない。ルーナからしたら会うのは初めてなのだから。
「すまない。俺は君の事もマリアンやジェシカの事も良く知っている。いや、良く知っていた。だけど君は俺の事は知らないはずなんだ。」
ルーナからしたら謎の発言だろう。
また冒険者達の悲鳴が聞こえる。残って黒狼の死体をあさっていた連中だろう。
「この先にある村には寄らずに拠点に戻れ。」
それだけしか言えない。ルーナからしたらオルファンは見知らぬ戦士でしかないのだから。
残っていた冒険者達は死に、オルファンだけが残される。まだ見られている。黒狼か。
今回はマリアンやルーナ達とは他人でしかない。
その悲しみと怒り、ぶつけさせてもらおう。
「ウオォォーン!!」
大きな遠吠えが平原に響く。黒狼達が引いていく。
黒狼にも振られてしまったようだ。
街道を行く商人と交渉をして黒狼の死体を引き取って貰った。こういった場での商売だ。高くは売れない。16体を銀貨150枚で売却して、この先の村までの護衛を銅貨50枚で請け負う。
既に護衛がいる商人だったが、黒狼が出るなら護衛が欲しいとの事だった。この商人には前回は会っていない。恐らくは残念な事になっていたんだろう。
わすが数時間だけの護衛で銅貨50枚。
馬車に揺られての村までの旅となった。
商人と別れた後はグスタの街を目指す。野宿をして到着したグスタの街も懐かしい。
ついフラリとスラムに行きたくなる。だが、スラムの住人もオルファンを知っているはずがないのだ。
街を回るがマリアンはこの街では人気者のようだ。若手のホープであり急成長している。住民達からも好かれている。誰から言い寄られたとかが話題になる事も珍しくないようだ。
ジェシカは便利屋扱い。戦闘では援護しかできないため、普段は雑用係り。住民もジェシカの事を知らない人が多かった。
ルーナはかつては人気もあった。今ではいつ引退するか、宿代が払えなくなって夜逃げするか、程度の話題しかない。
屋台のオッチャン達から色々な話を聞く。
知らなかった3人の姿。未練が出る前に金だけ稼いで街を出よう。
賞金が懸かった魔物を狩り台車で運ぶ。わずか3日で金貨8枚以上。悪くない。だが稼ぎ過ぎると面倒がおこる。それは前回経験している。そうなる前に街を出るか。
今の資金は金貨10枚、銀貨167枚、銅貨83枚。
次は脱法都市グルーンで稼ぐか。
やり直しの世界ではまだ10日も経っていない。
自分が知る次の危機はゴブリン帝国だ。それまでには強くなりたい。
街の出口で出陣する軍隊と冒険者達を目撃した。
「黒狼が出たって言うんで、領主様とギルドが共同で討伐するんだとよ。」
幸い出陣する部隊の中にはマリアン達3人は見当たらない。さらばグスタ。さらばマリアン、ルーナ、ジェシカ。
3人とは今回は連れ添えなかった。はっきり言えば寂しい。だが命を救う事はできたのだ。良しとしなければ。
グスタを離れ脱法都市グルーンを目指す。かつての拠点。されどオルファンを知る者は誰もいないのだ。気をつけなければ。
旅路は問題なく終わる。懐かしきグルーンよ。
戻ってきたと思ってしまう感覚。以前使っていた宿は敢えて使わない。どんなボロが出てしまうか。道行く知り合いに「やあ!」と声を掛けたくなる。
部屋は鍵つきの素泊まりで1泊銀貨1枚。広い1人部屋であり部屋で何をしようが自由だ。清掃を依頼する際は別途銅貨80枚。金はかかるが探索者達からは評判は良かった宿だ。
この宿を拠点にオルファンは金稼ぎを始める。
そうゴブリンの乱獲である。荷車を引いて都市の外に出る。ゴブリン帝国のゴブリン達を襲い、荷車一杯になれば都市に引き返す。この作業を1日に3往復から4往復。
わずか5日でオルファンは都市では有名な存在になる。
「ゴブリンの天敵」
稼いだ金貨は200枚を超えた。
だが、最初の電脳のセールで爆買いをするにはまだまだ稼がなければならない。
オルファンの銭闘は始まったばかりである。