反撃の狼煙
オルファンの魔法で負傷者が戦列に復活し、連合軍は盛り返していた。
「ここも土嚢で塞ぎます。オルファン王も第2塁壁の中に戻ってください。」
「いや、このまま敵を押し返す。私を気にせずに作業をしてくれ!!」
今、側にいるのは長沼三徳と鬼人8人だけ。恐竜人は少し離れた所で暴れている。
「このまま第1塁壁の外に出れば10万を超す魔物がいる。長沼三徳、死んでくれるか?」
「死地を任せられるは武士の誉れ。オルファン様、ようやく死ねと言えるようになりましたな。」
そこまでの覚悟はまだない。だが死にたがってる人を止めるだけの重さもオルファンにはない。
第1塁壁で無事な所に上る。
敵を減らせ、敵を減らせ。
敵の大軍を滅ぼす大火を掲げろ。
万を超す数多の矢を放て。
思い描くは天を埋め尽くした火矢。
「赤壁の大火」
上手くいった。初めての成功だ。
見渡す限りの敵が燃えている。
魔力を使い果たしたようだ。倒れそうになるが踏み留まる。連合軍の将兵が見ているのだ。魔力回復薬を2つ取り出して飲み干す。
「連合の将兵よ!ヤマト王国国王オルファンが反撃の狼煙をあげたぞ!!竜殺しオルファンに続く者は誰だ!!」
この火の海が消えた時が反撃のタイミングだ。
生き残った魔物や範囲外の魔物はまだまだいるはず。
「手柄をあげよ!!生き残れ!!このオルファンがサーザン王国の酒を買い占めてやる!!勝利の美酒に酔うために働け!!」
「サーザン国王よ!戦場を離れて勝利の宴の準備をされよ!!ここに集いしは各国の勇者!!ならば勝利は約束された!!」
「勇者達よ!!火が消えたら攻め込むぞ!!我らが魔物を狩るのだ!!思いしらせてやれ!誰が狩人なのかを!!」
我ながら良く口が回る。
兵士達にしばしの休息と興奮を与える事ができた。
後は・・・。
火の中を蠢くナニカ。それは人の形をしていた。それは火の中をユックリと移動していた。
「ロックガーディアン」
体長3メートルの人型の魔物だ。
全身が岩で構成され、歩みは遅いがそれ以外の動きは早い。出会ったら逃げろ、と言われる存在。
オルファンが対処しようとした時に笑い声が響き渡る。
「ハッハー!!ヒーローの登場ネ!!ミーに任せたまえ!!」
勢い良く飛び出したのは筋肉男。
いきなりロックガーディアンを殴り付けた。
ロックガーディアンが動きを止めて殴り返す。
殴り合いが始まった。
どれだけ続いただろうか。
魔物の脂で燃えていた火もほとんど鎮火している。
それでもまだ殴り合っている。だが勝敗は明らかだ。ボディを殴られ続けた魔物と顔を殴られ続けた筋肉男。とうとう筋肉男が吹っ飛ばれた。
「ナイスファイトだったぜ。」
倒れたまま親指をあげている。
頭の中まで筋肉なのだろうか。
オルファンは精霊ノームに仕事を頼む。ロックガーディアンの足元が消え、落とし穴へと落ちていった。あの重さなら上がってこれないだろう。
「「「「「「「「「「あっ!」」」」」」」」」」
沈黙が支配する。今まで誰も考えなかったのだろうか。
消えた火の向こうからやってくるもの。
それが最後の相手だ。まだまだ万を超える敵がいる。大型の魔物も見える。
砂が渦巻く。現れたのはサンドワーム。馬車すら飲み込む砂漠の悪食。ギルメニ軍を食い散らし、敗走させたモノ。それが10体。
「各軍、投石と矢の準備をしろ!!頃合いを見てヤマト王国の長沼三徳が先陣をきる!皆の奮闘を祈る!!」
各国の将軍が集まり、オルファンに要請が入る。
「我らにも手柄を立てさせていただきたい。」
「ヤマト王国だけに手柄をとられては、国に戻ってから嫁に怒られてしまう。」
「俺はこの戦いが終わったら幼なじみに告白しようと思っている。名を残す機会をくれ!」
それは死亡フラグと言う。
問題はやはりサンドワームだ。
後は長沼三徳に死んでくれと言った俺の立場くらいか。華やかな死に場所は用意できないかもなぁ。