共通言語
ようやくお迎えが来たか!?と喜んだのも束の間、視界が暗くなり、咄嗟にヨルを抱え込む。次いで衝撃。何かと確認すれば、赤茶色の引き締まった身体を持つ猟犬らしきものに強襲された模様。倒れこんだ身体の上に乗って威嚇してくるのでいつがぶりといかれるか気が気でない。
「よくやった!アノン!!」
やや高めの声がこの犬らしきものを褒める。こんな状況でも、聞こえてきた言語が日本語なことにほっとしてしまう。
「貴様、このエッラの森でなにをしている!密猟者か!!」
「…あの…まずこの犬をどうにか…」
「答えろ!!!」
「密猟者者じゃないです!何もしてないです!!」
「何もなしにこんなところに来る奴があるか!密猟者だな!!」
このひと結論ありきで話してない?
「ムッ…お前女か…?しかもやけに軽装だな?」
気づくのが遅い!しかし助かった!
「そうです!まだ年若い非力な女の子です!密猟なんてできやしません!持ててもせいぜい米俵くらいですよ!無理です無理!!」
ここぞとばかりに私非力ですよー女の子ですよーアピールをしてみる。しかし、女の子と称していいのは一体いくつまでなのか。19歳…?いや、まだいける。
「うむ…うむ。アノン、彼女を放してやれ。密猟者ではなさそうだ」
一先ず疑いが晴れたようで何よりである。ほっとしたのはいいものの、最初に庇ってからずっと私の身体の下敷きになっていたヨルの存在を思い出し、慌てて退く。
「…ヨル、あの、ごめんね?」
顔を窺ってみると、その表情はやはり無であったが、微かに眉間に力が入って機嫌が悪そうにも見える。私が悪かった…悪かったよ…。
「ッ!!その子供、まさか魔族か!!?貴様、密猟者ではなく奴隷商だったとは!!」
ええ!また新たな誤解が…!?どれい…奴隷か。最初に首輪を見たときからまさかと思ってはいたけれど、そのまさかだったのか。奴隷なんて人権団体が黙っちゃいないぞ。というか、この世界魔族とか存在するファンタジーな世界だったのね。
「いや、奴隷商でもないです!この子とはこの森でぐ・う・ぜ・ん!出会いまして!奴隷商なんて非人道的なことをするはずがないでしょう!」
「奴隷商が非人道的…?貴様何を言っている?奴隷商自体は国の認可が必要ではあるがちゃんとした職業だぞ」
ちょっと何言ってるか分からないですね。
「この場合、問題なのはその子どもが魔族である、ただその一点だ。一体魔族なんて不吉なものどこから仕入れてきたのかは知らないが、禁制品だぞ。それを売買するというなら数年牢で過ごすことになる」
「…」
「…」
急に出てきた禁制品や牢という言葉に呆然としてしまう。口も半開きでポカーンとした顔をしている私は相当間抜けだったに違いない。騎士はしばらく無言で私の顔を眺めた後、大仰な溜息を吐いた。
「君が何者かは知らないが、よほどの常識知らずの阿呆だということは分かった」