第一異世界人発見…?
迷子になった時は下手に動かない方がいい、と昔聞いたがそれは異世界でも適用されるのか。
つらつらとくだらないことを考え、現実から目をそらしつつも夜の森をわしわし歩く。街灯がなくても割と先がよく見えるのは満天の星空のお陰か、真っ赤なお月様のお陰なのか。
「ふんふふふーん、はんはーん…」
夜の森って暗いし静かだし正直怖いので、気を紛らわせるために小声で歌ってみる。小声なのは怖い人がいた場合に気づかれたくないので、念のため。
そろそろ誰か…金髪のイケメン騎士とか出てきてもいいころじゃない?それで遅れてしまい申し訳ございません異世界からの客人よ、ってなって私は異世界からの巫女で使命が云々、共に過ごすうちに愛が芽生えて…、みたいな王道パターンないですか、そうですか。
そうして暫く1人寂しく歩いていると川のせせらぎが不意に聞こえてきたので、走る。川とか海とか水辺が近くにあるとわかると何故人は走り出したくなるのか、謎。
「ほぉ…」
其処には決して大きくはない、緩やかな川が流れていた。星明かりを受けて水面が煌めき、美しい。思わず感嘆の息が漏れる。しかし、その時かすかな違和感を視界の端に感じた。
暗闇に目を凝らしてよく見ると、其処には倒れ伏す小さな人影が…ってえぇ!第一異世界人発見の喜びに浸る間もない緊急事態なのでは!?
とりあえず走って近づく。小さい。まだ幼い子どものようである。
「おぉーい、いきてますかぁー…?」
声をかけながら、様子を見る。かすかに呼吸はしているらしい。苦しかろうと軽率に仰向けにしてみると、露わになったその異様な姿に息を飲んだ。
ざんばらな黒髪は幾日も洗っていないのだろう、ベタりとしていて、嫌な匂いがする。しかし、それよりも気になるのはその顔の右目付近から鼻までの辺りに広がる奇妙な瘡蓋のようなものである。皮膚が変異したものなのか、赤黒く、岩肌のようにゴツゴツと盛り上がっていて、それが小さな子どもの顔を不気味なものにしていた。そして首元には皮の首輪のようなものがつけられている。
ろくな扱いを受けていなかったことは一目でみてとれた。面倒な事情がありそうだ。そしてこの顔の瘡蓋はなんなのか、伝染する病気なら軽率に近づいた自分も危ないのでは?とりあえず見なかったふりをして放っておこうか?
様々な思考が一瞬で脳裏に渦巻く。自分の身が一番可愛い、危ない橋は渡りたくない。しかし、見知らぬ場所で1人という状況はどうしようもなく心細く、孤独だった。
得体の知れない子供でも側にいて欲しいと思ってしまうくらいには。