自転車が悪かった
水上 祈。19歳。残り少ないモラトリアム期を謳歌する女子大生である。
恋人なんていたことはないけれど、毎日大学に通って講義を受け、友人と親しく接し、夜は家族団欒の時間を楽しむ実家生であった、昨日までは。
「空に輝くあの真っ赤なお月様は一体…?そして私はなぜ鬱蒼と生い茂る森の中で1人…?」
why?どうしてこうなった。落ち着いて、一旦状況を整理しようじゃないか。そう、さっきまで家に帰ろうと河川敷を歩いていたんだった。その時どうやら後ろから自転車が接近していたらしい。至近距離でチリンチリンされるまで気付かなかったのは私が鈍感だったからなのか、自転車の走りが忍者並みの静けさだったからなのか。
あれ、というかあの自転車無灯火じゃなかった?いや、やつが危険運転してたかどうかなんて瑣末な問題にすぎない。
私はチリンチリンされて驚き、振り返って思ったよりも近い自転車の存在にまた驚いた。避けようとしたら勢いがつきすぎたのかたたらを踏んで河川敷を転がり落ち、川にどぼん。一瞬意識が遠のいて気づいたらここにいました、と。
「いやいや、ありえないでしょー…。」
ありえない、こんな非現実的なことあるはずがない。そう思いたいのに、お空に浮かぶ毒毒しいまでに赤い月がこれが現実だとでも言うように存在を主張してくださる。
「寒いし、夜だし、森だし…、あっ熊とかでないよね…?はたまた野党とか出ちゃう可能性もあり?」
この世界が異世界だとして文化レベルわからないし!見たことない空!植物!これが小説なら私は何か特別な力を持っていてこの世界に呼ばれたー、みたいな展開だけど、誰も迎えに来る気配なし!これから来るのか…?
「お家に…帰りたいです…」