6月v(^_^v)♪ウキウキ
高校生になってもやっぱり遠足は嬉しい。
今日は水族館でチンアナゴの喧嘩を見るんだー。
現地集合、現地解散というゆるい遠足なので点呼だけとって帰っちゃう人もいる中、私はノリノリで参加していた。
薄暗い館内を絵理とじっくり見て回る。
「魚の絵もそのうち描きたいな」
「いいね、絵理なら小さな魚が集まる話みたいなあったかい感じの絵本とか合いそうだな」
「美也には大きい魚を描いて欲しい。エイとか、鯨とか、ダイナミックで観てガツーンとくる様な」
「うーん、私も表現の幅を広げたいんだけどなあ。繊細な感じとかも出したい。だから今日はチンアナゴを見尽くしてやるつもりで来たよ。ほら、かわいい」
今日の主役、チンアナゴの水槽の前を陣取る。
「これで繊細?」
絵理には呆れられながらも、砂場から突き出したニョキっと突き出した姿に癒される。
ぼーっと水槽を見ていると、絵理の携帯が鳴った。
「うーん」
「どしたの?」
「良彦くんが昨日から風邪引いてて、今も様子聞いてみたら大丈夫とは言うんだけど・・・」
絵理の好きな人は、幼馴染のお兄さんだ。しかも、お兄さんのご両親が海外転勤で、一人暮らしのお世話を絵理がしているという見事に王道の展開だ。
「それは、絶対看病に行くべきだよ!風邪のお兄さんには悪いけど、最高のイベントじゃないか!」
こぶしに力が入っちゃうよ!
「でも美也一人にするのも心配だしな」
「私は全然いいよー。しばらくチンみてるし、美帆ちゃん達のところ行ってもいいし」
さあさあ、と絵美を水族館から追い出した。いい仕事した。
「お、斎藤さん。あれ、一人?」
しばらくして、まだチンアナゴを見ていた私は、男子数人と歩いていた相川くんに声を掛けられた。私服だからいつもと感じが違うな。
「うん」
「小野田さん今日来てたよな」
「彼女ちょっと急な野暮用でね」
「ぶはっ!おっさんか」
親指を立ててちょいちょいと合図した私にウケてくれた。
「晃、先に行ってるぞ」
「おー、後で行くわ」
「あれ、友達について行かなくていいの?相川くん」
「ああ、クラブの連中。後で合流する事になってるし」
そう言ってあっさりと私の隣に立った。
「それよりさ、コレずっと見てんの?」
「うん。チンアナゴ、かわいいんだよー」
「ふうん、『チンアナゴ』ねー」
相川くんがニヤニヤと笑う。
「また変なふうにとったでしょ」
「変な風って何?」
軽くにらむと、ぷっと吹き出した。
「また絵描くの?」
「まだ分からないかな」
「スケッチとかしたりしないんだ」
「うん。今日は見るだけ。ほら、喧嘩してる」
「本当だ、おもしれーな。こいつらの喧嘩ショボい!」
「では相川先生アフレコをどうぞ」
「『俺の回し蹴りをくらえ』」
「言わない!絶対出来ない!」
「あ、勝負ついた」
「勝ったのかな、これ。すごいドヤ顔に見える〜」
チンアナゴを見ながらしばらく2人で爆笑していた。
「晃くん!」
ちょっと離れた場所から女の子の声がした。
「そろそろ集合だよ、みんな集まってる」
相川くんが少し振り返って、
「もう少ししたら行くわ」
と答えた。
「もう、みんないるのに」
その声に私も振り返ったら、女の子が腕を組んで目が怖かったのでギョッとした。
「相川くん行きなよ、私ももうあっち行くし」
「おお、そっか。んじゃ、またな」
「ありがとね」
相川くんが行ったのとは別の方へ歩いた。
美帆ちゃんと、同じクラスの渡辺さんを見つけたら、秋田くんと阿刀田くんも一緒にいた。
「これからアシカのショーでも観に行こうって話になったんだよ」
さすが美帆ちゃん、遠足で男子と一緒に行動したりするんだね。私もついていく事にした。
「詰めて詰めて〜」
と言われて、席に着いたら秋田くんの隣になった。ぎゅうぎゅうに座ってるから腕が密着して緊張するよー。私汗かいてないかな。
でもすぐにアシカのショーが始まって、お辞儀したり手を挙げたりするアシカに夢中になったので隣は気にならなくなった。
「それじゃ、アシカ君と遊びたい人誰かいませんか?」
と、ショーのお姉さんが呼び掛けた時、ちょっと離れた席の団体が一斉に手をあげた。
「沢山いますねー、そうしたら、前から3番目の青い服のイケメンのお兄さん!」
はやし立てられながら出て来たのは、相川くんだった。あれはサッカー部の団体だったんだな。
「じゃあ最後にアシカ君にキスしてもらいましょう〜。ありがとうございました。記念品をお持ち帰り下さい」
アシカとの触れ合いが終わり、客席くらのかけ声に手を振る相川くん。
「相川ー!!」
二つ隣の阿刀田くんが大きな声で呼び掛けたらこちらに気づいたので、みんなで手を振ってみた。
あれ、今一瞬ムッとした顔したね。またすぐ笑顔に戻ったけど。
ショーが終わって、席を離れようとしていると
「なんだよ、みんなで集まってるなら俺も呼べよー」
と言いながら相川くんがやって来た。ああ、クラスで集まってるから仲間はずれと思っちゃったのか。
「よう人気者!いや、俺ら偶然一緒になっただけだぞ」
阿刀田くんが経緯を説明する。
「そうなんだ、なんだ。みんなこれからどうすんの?もう水族館出るよな?」
「昼飯でも食わない?どっかファーストフードとかで」
と秋田くんが、私たちの方を振り向いて言った。
もちろん、参加。
行く途中で小万智と真菜恵に会ったのでついでに巻き込んだ。
ハンバーガーを食べてみんなで沢山喋った後、解散する事になった。
帰る方向が違うので他の人と別れて反対方向へ歩いていると、後ろから声がかかった。
「斎藤さん、ちょっと待った」
あれ、相川くんだ。
「ど、どうしたの?こっちの方向だった?」
「いや、違うんだけど。えっとさ、コレ」
と、細長い袋を取り出した。
「さっき、アシカのショーの記念品貰ったら、それがさ。まあちょっと開けてみてよ」
私が開けていいのかな?と思いつつも中身を出す。
「ぶっ!!」
中から、チンアナゴボールペンが出てきた!
「ウケるだろ!?」
「めっちゃおもしろい!!かわいい!これ多分ケンカしてる時の表情だね」
「全然迫力ねえ」
またひとしきり二人で笑う。
「これ、やるよ」
「え?いいの?」
「うん、使って」
「いいの?嬉しい!ありがとう、持ち歩くよー!」
「おう。じゃーな」
と、手をあげて帰っていった。