4月 (*゜▽゜*)ワクワク
斎藤美也16歳、今日は高校に入って2年目の最初の日。
目覚まし時計が鳴る前に張り切って起き上がり、時間をかけてボブカットの髪と、お気に入りのブレザーとチェックのスカートの制服を整えた。
今年の私は気合いが違うのだ。
去年1年、楽しくなかったわけじゃない。部活仲間の、絵里、小万智、真菜恵という、毎日お昼も夕方もどれだけしゃべっても話し足りないくらいの親友もできた。
だけど女子でつるんでばっかりの毎日でいいのか?いや、良くない。
小・中学時代、少女漫画を読んでイメージしていた様なキラキラした高校生活を過ごせていない、と気づいてしまった私。
そんなわけで、いつもより少し早めの電車に乗り、意気込んで学校へ向かった。
学校に着いてまずはクラス替えの掲示を見に行く。
今年は3組か。
あっ!
「絵理!!一緒のクラスー!」
近くでニヤニヤしながら待っていた絵理に抱きついて喜ぶ。
嬉しい!やっぱり馴染みの友達がクラスにいるのはすごくホッとする。
絵理は背が高いから抱きつきがいがあるなぁ。
「美也おはよう。おーよしよし」
ほっぺをムニムニ掴まれる。
何故かいつも絵理には猫みたいに扱われるにゃー。
トンっ。
「おっと」
「あ、ごめんなさい」
じゃれてたら人に当たってしまった。
「わわっ」
「あ、美也!」
振り返って謝ろうとして足がすべった。
「あぶねっ!」
ギュ
「ひゃっ」
手を出してくれた後ろの男子にしがみついて何とか転ぶ事は無かったけど、必死に抱きついた先はその人の腰だった・・・!
「わ、ごめんなさいー」
すぐに手を離したけど恥ずかしくて顔が上げられない。
大事なとこは触ってない!・・・よね?当たったかな。
「いや全然。当たったとこ大丈夫だった?」
ぎょっ。
「はいぃっ、変なとこは触ってません多分!大丈夫です!」
「ぶははっ!」
「何言ってんの、あんた」
絵理にはたかれる。
「うう、ごめんなさい」
「ほら行くよ。ごめんねーこんな奴で」
引きずって行かれた。
気を取り直して入った教室でHRが始まった。入ってきた今年の担任は数学の塩谷という30過ぎくらいの男の先生だった。数学は苦手だから、あんまり関わり合いたくないなあ。
「受験は高2からが勝負だと思って、普段の授業をまずきっちり受けること。でも、この1年は君達次第でかけがえのない輝かしい時間になる。思いっきり楽しむ努力を惜しむなよ」
いい先生じゃないか!
なんだか、数学でも何でもできそうな気がしてきた。
生徒も一通り自己紹介が終了し、私の声が裏返ったのを除けばみんな無難な挨拶だった。
今日すでにリセットボタンを押したい。
休憩をはさんで、またHRが始まった。次はクラス委員を決めなければならないはずだけど、塩谷先生が妙な事を始めた。
「まず、2列の前後で6人グループを作ってもらう」
ところで今回のクラスは名前のバランスが悪い。男子は相川から始まり、秋田、阿刀田、井上とア行が8人もいるのに、女子は小野田、貝原と来て斎藤のサ行の私が3番目という有様。
つまり、私は1番目のグループに当たる。ちなみに小野田は絵理の事だ。
グループを作るべく机を動かして、6人なんとなく会釈をする。絵理と目が合ってお互い首をかしげる。一体何がはじまるのか。
「これで6グループできたな。そうしたらこれからテストを配るぞー」
えーっ!!
っという抗議の声もものともせずそれぞれのグループにテストが配られた。
塩谷先生は真面目くさった顔つきで
「はい、これから30分で力を合わせて問題を解いて。これはこの1年の明暗を分けることになるかもしれないテストだから、心して掛かるように」
と、のたまった。
「うーん、とりあえずやろっか。よろしくお願いしまーす」
「よろしくー」
まずは、真ん中の席の秋田くんが仕切ってくれるようでホッとした。眼鏡をかけた、なかなかの秀才顏のイケメンだった。
「うわー、英数国、化学、物理、世界史、と最後特別問題だって。マジなテストだ」
絵理が問題を覗き込んで嫌そうに教えてくれる。
秋田くんが提案があると言って手を挙げた。
「それぞれ得意そうな問題にチャレンジしてみない?」
「いいね、できるか分かんないけどそうしよう」
すぐに女子2番目の貝原さんがのった。「でもそしたら私は国語がいいな」
あ、国語取られた、けど上目づかいが女子っぽくてすごくかわいい。仕方ない。
「うん、女子から選んでくれて良いよ。あと二人はどう?」
「私は化学かな」
絵理ならそう来ると思った。
「じゃ、じゃあ私は英語で!」
「オッケー、俺らどうする?俺、物理でもいい?」
「おう、じゃ数学行くわ」
「てことは俺世界史ね。うーん、大丈夫かな〜?」
秋田くんは物理、相川くんが数学、阿刀田くんが世界史と決まったようだ。
なんとか割り振り決まったけど不安だなー、と眉をひそめていると相川くんが声をあげた。
「とりあえず10分それぞれ考えて、無理そうならみんなで考えようか」
「そうだね!それがイイね」
ほっとしてすぐに声をあげて相川くんを見ると、ちょうどこちらと目が合った。
「ぶはっ!」
笑われた!なんで?
ってこの笑い声聞き覚えがあるよ!
とにかく集中、と英語の問題に取り組んだ。
問題は全て選択問題だった。英語は単語の並べ替えでどれが一番正しい文章か、というもの。多分これだというものを選んでみたけど、この問題ちょっと違和感。
10分程経って、みんなそろそろ顔をあげる。
「どう?できた?」
秋田くんがまとめてくれて、それぞれ何となく文系理系に分かれて見直す。
「これかそれか迷ってるんだよね。なんかひっかけっぽくない?」
絵美が化学の問題を相談していた。
「いや、多分こっちで合ってる」
「俺もそう思うよ」
理系組は何だか頼りになるな。文系の3人は「これ大丈夫かな」「うーん多分」「良いんじゃね?」なんてあやふやな事を言っていた。
「あと、最後の問題だよね。みんなで考えようよ」
「最後の問題、ある意味激ムズじゃない?」
「問題、校長先生の趣味はどれ?
G:釣り、H:ゴルフ、I:山登り」
「知らねーよ」
みんなが考えてる間に、私は他の問題を見直してみる。
もう、勘でやるか。みたいな感じになった時、手を挙げてみた。
「もしかしたら、なんだけど」
みんながこちらを振り向いた。ちょっと緊張して顔が赤くなったかも。
「斎藤さんどしたの?」
秋田くんが聞いてくれる。
「この問題の選択肢、ちょっと変でしょ?アルファベットがバラバラなんだよ」
「確かに、G・H・Iなんて回答あんまり見ないよね」
うんうん、と貝原さんが頷いてくれた。
「うん、私は英語の問題で、P・Q・Rだったから余計におかしいと思ったんだけど。何か単語になってるのかなって」
「なるほど、今出てるのが合ってるならA・A・D・N・R・Tか」
秋田くんがこれまで回答で出てきたアルファベットを並べてくれた。
「それで、美也は何の単語だと思ったの?」
絵里に聞かれた。
「多分、なんだけど。radiant、なんじゃないかなって」
お、という顔をした人もいれば
「何それ、どういう意味?」
と、阿刀田くんが聞いてきた。
「キラキラとか輝くって意味があったと思う」
「絶対それじゃん」
「ナイス!それで行こう。そしたら、『I』の山登りだな」
秋田くんが最後を埋めてくれる。
「さすが、英語担当。やるな」
相川くんが親指を立ててニッと笑った。
時間が終わって、先生が正解を発表する。
なんと、全問正解は私たちのグループだけ!
「イエー!」
「俺らすげー」
なんて拍手し合いながら喜びあった。
そうしたら、先生がニヤリ、と笑った。
「そこでだ。今年の1年を輝く年にする為に、こういうしっかり者に引っ張って貰いたいなと思う訳だ」
何だか嫌な予感に顔を見合わせる。
逆に、がっかりしていた他のグループの人達の顔が上がってきた。
「クラス委員と、今年のメインイベント、修学旅行委員をそれぞれ2名このグループから出して欲しい。それで、残りの2名はそのサポート役になる」
「おー!!」
周りはみんな他人事として盛り上がってしまった。私達は机に突っ伏す。
「もちろん、他の委員もあるからそれぞれのグループに振り分けるぞ!最下位は教科担当だからな」
「えー?!」
なんて言ってるけど当たり前でしょう。
「さあ、グループごとに話し合え!」
グループで向き合って、さっきとは違ってお互い苦笑いになる。
「なんか、ごめんね」
私が単語を考えた為に大役が振られてしまった事を思えば、項垂れて謝らずにはいられない。
「いや、あれは先生がひでえよ」
阿刀田くんが即、応えてくれた。
「斎藤さんのせいじゃないよ、他の問題もあったんだし」
貝原さんもそう言って肩を叩いてくれた。
「あの先生なかなか策士だね。美也、気にすることないよ。ところでさ」
と、絵里が秋田くんの方を向いた。
「さっきの感じだと、クラス委員って秋田くんが適任じゃない?」
「だよな」
相川くんも同意する。うんうん私も同感だ。
「あー、まあ、やってもいいよ。去年もやったし。そしたら小野田さんもクラス委員やってくれる?」
「しっかり者同士、すごくいいと思うです!」
絵里にもぴったりなので張り切って賛成する。
あ、裏切り者って顔で私を見た。
「うーん、わかった。やるよ」
「決まりな」
パチパチ、みんなで拍手する。
よし!
「わ、私!修学旅行委員やってもいい?、かなあ」
思い切って立候補してみた。
貝原さんがびっくりした顔でこちらを向いた。
「いいの?すごい助かるけど。さっきの責任感じて?」
「ううん、今年は何かやりたかったから」
「そしたらお願い〜。良かった、私ちょっとパスしたかったんだ」
笑ってオッケーと返事をした。
「そしたら俺も。修学旅行委員やるよ」
もう一人に相川くんが手を挙げてくれた。さっきぶつかった人だと思うんだけど、私だって気づいてるのかなあ。
気づいてなければいいな。
「おー!俺、部活あるし委員は無理だけど、なんかあればめっちゃ盛り上げるから!よろしく頼むわ」
阿刀田くんが大きな体で相川くんの肩をがしっと掴んだ。
「おお、こっちも頼むわ」
ちょっと痛そうにした後、相川くんは笑って私の方を向いた。
「斎藤さん、パートナーよろしくな。なんか縁があるよな」
「よろしく。あの、さっき」
わたわたと言い訳しようとしたら、腰をかがめてこそっと耳元で囁かれた。
「触られちゃった仲でもあるしね」
「えーっ!やっぱり当たってた?!」
あっと口を手で覆って相川くんを見上げると
「ぶははっ!」
また笑われた。
そのすごく明るい笑顔が印象的だった。
こうして、私の“高2”が始まった。