終話:新しい旅立ち
全治半年の重傷を負ったサイハテは、驚く事に三日で全治二週間の軽傷まで復帰した。
砕けた骨は繋がり、骨まで達する切り傷も動いても問題ない位までには、塞がってきている。
この結果を見たレアが、サイハテは本当に人間かどうか疑ってしまう位の、回復速度であり、今日も元気に高速でラジオ体操している彼を見て、あんぐりと口を開けていた。
「生まれつき、傷の治りは早いんだ」
どうにも、強化人間としての特性ではなく、西条疾風個人の特性らしく、見舞いに来た本山サクラも呆れたような表情で、サイハテを見ている。
「はー、ジークは相変わらずだねぇ。そのまま死んどけばよかったのに」
「テメェが死ね」
悪態を着いた彼に、サイハテが襲いかかった。
重機のようなパンチに、サクラは一撃で沈黙する。
どうでもいいが、何故殴られて嬉しそうな表情なのだろうか。サイハテは基本的に容赦がない、一般人ならば死んでもおかしくない威力でぶん殴っているのに、彼は鼻血を垂らす程度のダメージで済んでいる。
「やっぱ容赦ないや、ジークはこうで無くちゃ」
「………………………………」
嬉しそうな彼に、流石のサイハテも呆れているようだった。
「んでさ、話は変わるけどさ。明日には発つんだろ?」
鼻にティッシュを詰め込みながら、サクラは尋ねる。
「ああ、陽子が戦闘中毒になった。早めに戦場に戻らないといかんからな」
流した汗で汚れた包帯を交換しながら、サイハテは答えた。
「だったら、一つ情報をやるよ。海岸線を通るのはやめときな。サバトの第二連隊が防衛線築いて、ジークを待ってるよ」
サクラの言葉に、サイハテは眉間に皺を寄せる。
高々一個人の為に、連隊を運用してまで防衛線を築くとは、奴らは一体全体何を考えているのだろうか。
「君は来た道を通って、新天地へ行くのさ。当然、向こうにも罠があるが、連隊と切った張ったするよりはマシ。そして、ジークが目的の場所に着いたら、ボクからプレゼントがあるってわけよ」
「お前からのプレゼントぉ? 前みたいな厄介ごとじゃないだろうな」
「相変わらず、人を信用しない奴だね。君は! じゃあ、もう一つだけ教えてやるか」
サイハテの疑いに、少女のような見た目と、少女のような声で起こってみせた彼だが、そこは長い付き合いなので、信用されるように、もう一つ情報を渡す事にしたようだ。
「罠を張っている奴はサバトのグラジオラス。そして、ソイツはジークの逃げられない過去だ。存分に思い出に浸ってくるといいよ。殺されなければねぇ!!」
煽るような文言を吐いたと思ったら、彼は大きく飛びのいて、自分のトレーラーに乗ってしまう。小さな体だと言うのに、とんでもない身体能力だった。
「楽しみにしてるよジークぅ。彼女を見たとき、君がどんなに苦しんでもがくのか。君は答えを出さなくちゃいけない、過去の罪を清算しなくてはならないんだ! それじゃあねー!! お大事に!」
見舞いに来たのか、煽りに来たのかさっぱりわからないサクラは、そう言い残すと、武器満載のトレーラーに乗って去っていった。
「あーーーーーー!!」
そして、家の中で安静にしているはずの陽子から、悲鳴に似た怒声が響き渡る。
「あいつ、私のガウスライフル盗んでいった!! ……いたたたた」
ドアから身を乗り出して叫んだせいで、傷に響いたのか、蹲る陽子から視線を外して、トレーラーの方を見つめると、陽子のガウスライフルをひらひらと振って、逃げていくサクラの姿が見えた。
確かに、受信所で様々な武器を手に入れたと言っても、うちの最大火力を盗んでいい訳がない。後で殺そう。
「……とにかく、明後日の朝には出発しよう。あまりここに長居していると、あいつが催促に来かねない」
奴は武器と厄介ごとしか運んでこないので、とにかく今は出発の準備を整えるべきだった。
いろいろな不安が残ってはいるが、ワンダラータウンとはそろそろおさらばするべきだ。サイハテは大きくため息を吐くと、準備の為に、ジープの荷台に弾薬や銃器を積み込む作業へと戻る。
全ては新しい旅立ちの為に。
三章これにて閉幕!
だけどエピローグがあるんだ、本当にすまない。