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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
三章:新しい旅立ち
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四十一話:サイハテ死す(大嘘)

「百二十度の方向から、剣戟らしき音が聞こえマス」


 ハルカの指示に従って、レアは車を走らせる。

 細い木位ならぶつかっても、向こうがへし折れるだけでこちらにはなんの被害もないが、レアが抱えきれない位大きな木に、ぶつかってしまっては行軍が不可能となる為、大変気を使っていた。

 それも気になるが、陽子の状態も心配だ。

 魂が抜けたように一点を見つめて、膝を抱えたままの体勢で微動だにしない彼女は、まるで屍のようであった。


「大分、音が大きくなって参りまシタ。レア様、戦闘準備ヲ」


 しばらく走っていると、大分近づいたらしい。

 ハルカにそう言われて、自分なりに心構えを持つが、役に立つことはないだろう。サイハテが苦戦するような相手だ、研究者である事以外は、なんの特徴もない幼女であるレアが何か出来るとは思えない。

 そして、熱源探知の映像に、サイハテと、その戦っている相手が映し出される。

 よろけながら逃げ回る人物に輝く敵味方識別信号(IFF)と、それを集団で追い詰めようとする、人間に比べて低い体温反応。


「いっ!?」


 驚愕の声と共に、急停車させるレア。

 衝撃で倒れた陽子が何があったのか尋ねるように、運転席のレアへと視線を向ける。


「さいじょーのあいて、せんとーよーさいぼーぐ?」


 後ろの陽子を見つつ、尋ねた。


「……そうよ」


 その返事にレアは絶望する。

 戦闘用サイボーグと言うのは、頑強な電磁結着装甲と、小型核融合炉によって生み出される莫大なエネルギーをパワーに変えた怪物兵器だ。

 単騎で戦車に匹敵する歩兵と言った方が解りやすいだろうか。

 映像の影から見る限り、崩壊前の時代末期に生産された軽サイボーグのようだが、それでも一個人が対抗するには不可能だと言われる性能なのだ。


「レア様、アタシの57mmでは破壊は不可能デス。西条様を回収して、逃走しまショウ」


 EMP系の武装があれば話が別なのだが、そんなものここにはない。

 レアの頭脳は、この場の最適を素早くはじき出す。館山に向かうのは大幅に遅れてしまうが、サイハテを失うよりはずっとマシであり、ここは撤退するべきなのだ。


「……はるか。えーあいの、ばっくあっぷ」

「とうに済ませておりマス。後部座席にまっさらなAIを置いてありマスノデ、あたしは殿を」


 そう言って、銃座から笑顔を見せてくるハルカを見て、レアは唇を強く噛んだ。


「あなたのしは、むだにしない」

「人の為に壊れるのが、アタシ達の誉れにてございマス。レア様、どうか、心穏やかに」


 そう言って、ハルカは跳躍して戦場へと向かって行った。

 レアは何か考えているのか、後頭部を掻き毟っている。

 道具の矜持を聞かされて、何か思うところでもあったのだろうか、涙を流すまでは行かなかったが、何かに堪えるように、唇を噛んでいた。

 そのやり取りをじっと見つめていた陽子が、唐突に口を開く。


「あれを壊せばいいの? どうやって壊すの?」


 映像では、サイハテとハルカが背中合わせになって飛び交うサイボーグの嵐の中で堪えていた。


「……れーるがんなら、そーこーのうすい、わきばらにめいちゅーすれば、なんとか」


 しかし、そんな事は不可能だ。

 距離は七百メートルもあり、サイボーグ達は時速三百キロメートルで三次元軌道を行って二人を攪乱している。

 あれに、弾丸を当てるなんて不可能なのだ。


「そっか、簡単じゃない」


 夢遊病患者のようになった陽子が、ガウスライフルを持って銃座へと昇っていく。

 その姿を唖然としたような表情で、見つめるレアは、声をかける事なんてできなかった。不可能だと言いたくなったが、そもそも陽子は人類の次に現れた支配者、新人類(ニューマ)原点(オリジナル)である可能が高い。


「もしかしたら」


 出来るかも知れない。

 レアは銃座から目を外して、食い入るように熱源探知装置の映像を見つめる事にした。








 ハルカが空を飛んできた。

 全裸でボロボロのサイハテを見て、随分驚いたようだったが、そこは機械である、優先事項に従ってサイハテの援護に入ってくれる。


「ここはアタシが時間を稼ぎマスノデ、西条様は撤退ヲ」


 背中合わせになりながら、サイボーグ達の剣劇を防ぐ。これで大分死角が減ったと言ってもいいだろう。この命が持つまでは耐えきれそうだ。


「ああ、そりゃ不可能だ」


 しかし、サイハテはハルカの撤退具申を却下する。


「足を斬られた、走れん。立っているだけでやっとだ」


 その言葉の通りに、彼の足を見てみると腿がばっくりと割れていた、溢れる血の奥に白い大腿骨が見えている程の重傷で、立っているのがやっとと言う言葉通りの意味だ。


「……そうデスカ。申し訳ありマセン。死出の旅路にはお供致シマス」


 せめてもの餞たる言葉だったが、言われた本人が怪訝な表情をしている。


「あぁ? 何言ってんだテメェ。俺はここじゃ死なねぇぞ?」


 血を流しすぎて、普段の優し気な声色ではなく、戦士らしい粗野な口調になったサイハテの言葉に、今度はハルカがプログラムに従って怪訝な表情をする番だった。


「どう考えても死にマスヨ?」

「いいや、死なねぇな。陽子とレアが来てるんだろ?」


 陽子とレア、なんて言われても彼女達がこの状況で役に立つとは思えない。


「彼女達に何かを期待するのは、酷デス」


 二人がここに来ても死体が増えるだけだ。


「見てりゃ解るさ。なるべくそこから動くなよ」


 その言葉と同時に、空間に紫電と閃光が走った。

 閃光は地形や樹木を利用して飛び回るサイボーグのわき腹に突き刺さり、粉々にしてしまう。

 それを皮切りに次々と紫電の矢が降り注いで、一瞬で撤退を判断したサイボーグ達を撃ち抜いていく。全て一撃必殺(ワンショットキル)であり、こんな事を出来る狙撃手を、サイハテもハルカも一人しか知らない。


「ま、陽子ならこんなもんだろ」


 刀を鞘に収めて、嬉しそうなサイハテが語る。

 前後左右にふらつきながら、笑みを形作って、彼は天を仰いだ。


「後で……褒めて……やらな……くちゃ……な」


 そのまま彼は倒れ伏した。

 随分酷い失血をしていたのだ、仕方ない事なのだろう。気絶しても、どこか嬉しそうな彼に、今の陽子の状態を伝えるのは少し、気が引けた。

サイボーグはもう出さないを決めた。強すぎる。


かと言って、その内また出てきそうなんですけどね。

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