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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
三章:新しい旅立ち
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三十七話:朽ちた戦士達

 風切り音が首筋を掠めた。

 どこまでも鋭い必殺の太刀が三振り、サイハテの首球を狙っている。その状況で刀一本しかない己は非常に頼りなく思える。

 死ぬわけにはいかないと、久しぶりに思ったが、この状況だと流石に厳しそうだ。


「……」


 相も変わらず、サイボーグ達は表情の分からないメットの向こう側から、サイハテの事を見つめている。ここまで粘られたのは初めてなのだろうか、少々困惑しているようにも思える。

 無線機を作動させても、ノイズが聞こえるだけで、向こう側と繋がる気配はない。


「お前らさ、後何人いるんだ? 正直、お前らが最後だと、こちらとしても有り難いんだが」


 懸念する要素はそこだけだ。

 こいつら相手なら、まだ何とかなる。

 しかし、到底無傷では勝てない相手であり、まだまだおかわりが来るのなら、サイハテは死を覚悟しなくてはならない。


「……」


 サイボーグは答えない、まるで、サイハテの言葉など聞こえていないかのように、振る舞っている。

 先程の一尉は、まだ昔の事を喋ったりするが、こいつらはそんな様子すらない。容赦なく踏み込んできて、首を刈ってやろうと剣を振るだけだ。

 彼らは避難民を守る為に、少数でここに踏み止まった英雄と呼んでも遜色ない奴らではあるが、こんな最後はあまりにも酷いとは思う。

 恐らく、感染変異体との戦いで、電子頭脳のどこかが故障してしまったのだろう、最早、近くに寄るもの全てを殺すだけの機械となってしまっている。


「左翼が喜びそうな状態だな。貴方達は」


 左翼がとっ捕まえて、これが自衛隊の正体です。と、喜々として晒し者にする風景が脳裏に浮かんだ。

 彼らは自分の意見を通すためなら殺人だって厭わない集団である。

 まぁ、彼らも死んでいるか、サバトの元にいるだろうから、そんな目には合わないだろうけど、やはりここで殺してやるのが、最大の手向けであろう。


「皆、パンデミックの時に死んだ。避難民を守って死んだ。貴方達は英霊として、後で靖国に祀ろう。だから、安心して殺されてくれ」


 壊れた機械ではなく、戦死した兵士として死なせてやるべきだ。

 サイハテは奪った刀を構えて三人を見据える、今まで背後を取らせないように立ち回ってきたが、それではこちらもジリ貧になってしまう。故に、自分の体を囮にして奴らに隙を作らせる。


「さぁ、来い。殺してやる」


 血を流し過ぎて、声に覇気がない。

 胸から溢れる血は、未だに止まる気配がなく、刻一刻とサイハテは死に近づいていく。どっちにしろ、これが最後の攻防だったのだ。


「……」


 サイボーグの一体が切り込み、残りの二体が側面と背面に回り込む。サイボーグの身体能力を使った一瞬の包囲に、様々な手練れがやられてきた。

 どんなに強い人間でも、背後側面から攻撃されてはたまらない、故に、サイハテは今まで包囲されないように立ち回っていたが、今回はそれをやめて、攻撃に転じる。


「ぬぐっ!」


 受け太刀した衝撃で、胸から血が噴き出す。

 衝撃で傷が広がったのだろう、先程よりも痛みが酷くなっているが、靄がかかった頭がはっきりしたので問題ない。

 歯を食いしばって、相手の太刀を絡めるように回して、自分の刃を滑らせる。踏み込む間合いは大足で一歩、すり足に合わせれば一歩半だ。

 そのまま絡めとるようにして刀を持った手を切り落とす。


「……ァ」


 切り落とされたサイボーグの喉から、吐息のような、金属がきしんだような声が漏れた。

 背後からは後ろに回り込んだサイボーグが肉薄してきており、切り落とされたサイボーグは大きく飛んで逃げようとしている。

 だが、サイハテの方が一手早く、平突きを相手の頭に叩き込んだ。

 一人は倒した、だが、後二人はまだ生きており、その内の一人はもう直ぐサイハテを切り刻める位置にまで移動できる距離にある。

 だから、手首が付いたまま落下中の刀の柄頭を蹴り上げて、背後に迫るサイボーグの頭へと突き入れた。


「……後一人」


 崩れ落ちた二人から刀を回収して、二刀流を披露する。

 刀を構えた先で見たのは、逃げていくサイボーグの背中だった。高く育った雑草をかき分けながた森へと姿を消そうとする奴を見て、サイハテは一瞬唖然としてしまう。

 ぽかんと空いた口を閉じて、逃げる奴を追う事にする。


「こ、こら! 待て!」


 奴の背を追って、二分程走った先にあったのは、様々な武器の箱がおかれた円形に掘られた広場であり、周囲の地形や樹木に隠されるように存在している。そこには逃げた奴が刀を構えて待っていた。


「……やっちまった」


 やはり、頭がぼうっとしていたらしい。

 周囲からはにじみ出るように、光学迷彩で隠れていたサイボーグが出現しており、その数はなんと二十三人。

 控えめに言っても、死ねる数だった。

 サイボーグ達が一斉に刀を構える音が響く。


「……ふっ」


 そんな中でも、サイハテは不敵に笑って見せる。


「すごくヤバい。どうしよう」


 でも策なんてもうなかったりする。


「助けてくれる人を募集中ですっ! アットホームな職場で働きませんか!? 年二回の昇給ありです!! 福利厚生の厚い職場です!」


 とりあえず好待遇をチラつかせてみるが、よくよく考えたら敵は自衛官だ、公務員だ、そして全てが士官であった。


「……今なら女子中学生と女子小学生のパンツプレゼントォォォォォォォォォォ!!」


 もう破れかぶれなので、敵に切りかかる事にした。

本人は至って真面目な発言

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