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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
三章:新しい旅立ち
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三十六話:受信所撤退

 手榴弾を投擲する。

 十七個の爆弾が放物線を描いて飛んでいき、あちらこちらで爆発した。

 手榴弾の殺傷力は爆発より、砕けた金属片によるものが多く、その破片は数十メートルは殺傷力を保ったまま飛ぶので、防ぐには伏せて祈るしかない。

 敵が散らばって、隠れるのが見えた。


「行くわよ!」


 ハルカを前面に押し出して、レアが続く。

 最後尾には猟銃を携えた陽子が続いて、後顧の憂いを立つ布陣だ。二人を車まで押し出して、陽子は途中の遮蔽物で、踏み止まらなくてはならない。

 二人を安全に車がある地点まで推し進めるのが、最も手堅く素早い案だ。

 爆煙と土煙をかき分けて、三人は進む。銃撃が飛んできたとしても、それは先程まで居た武器庫の中にであって、三人に飛んでくる事はない。


「うまく行きまシタネ」


 先頭を行くハルカが、そう呟いたのを無線越しに聞いた。

 そう、うまく行った。敵の包囲網に穴を開けて、そこを突破する事が出来た。だが、これからである。陽子は人を撃った経験が少なく、これより突進してくるスカベンジャー達を押し留めなくてはならない。

 二人が車につくまで、孤軍奮闘せねばならないのだ。


「後は任せて、二人は行って!」


 受信所の石門に隠れて、陽子は叫ぶ。

 猟銃のボルトを起こして、薬室に初弾を装填する。

 もう爆弾で出来た煙幕は晴れてしまった。後は陽子が銃を持って、奴らの突破機動を押し留める他ないのだ。


「陽子様、後武運ヲ!」

「すぐに、もどる!」


 二人の激励を背中に受けて、親指を立てる事で返事をする。

 ライフルを構えて、照門と照星を合わせる、狙うは足だ。

 陽子は無効化したいが、殺したくはないので、足を狙うのだが、こう言った撤退での殿では正しい判断であった。

 怪我をした生者は、ただの死者よりも足を引っ張る。

 突撃してくる、スカベンジャーの足を容赦なく撃ち抜いて、ボルトを引いた。


「……次っ!」


 悲鳴を上げてもがく男を見ると、申し訳なさでいっぱいになるが、こっちだって死にたくないし、皆が苦労した仕事の上前をはねられるのはたまった事じゃない。

 仕方ない事なのだと言い訳して、男を撃った。

 サイハテから借りた猟銃は今まで使っていた物と違って、いい物だと思う。銃身が長いから、リコイルもマイルド、ターゲットサイトも中距離用のアイアンサイトで、非常に狙いやすい物だ。


「大丈夫……大丈夫……」


 遮蔽物に身を隠して、敵の銃撃から身を守る。

 弾丸の掠った肩から血が出ているが、今は気にしている余裕がない。クリップで保持した弾薬を銃に押し込んで、再び敵に向かって引き金を引いた。


「何人いるのよ、全く」


 撃てども撃てども、敵が減った様子がないので、思わずぼやいてしまった。

 相も変わらず、猛烈な銃撃が陽子の隠れる石門に叩き付けられている。せめて連射できる武器が欲しいと思いながら、引き抜いた拳銃で接近してきた敵を三人撃ち倒す。

 武器庫に発射されたロケット弾は虎の子だったのか、陽子の隠れる門に飛んでくる事はない。

 奴等は遠巻きに銃撃を繰り返すだけで、接近してくることが減った、警戒されているのだろう。首に巻き付いたタコホーンへ手を当てて、無線機のスイッチを入れる。


「そろそろ着いたでしょ? いつ頃迎えにこれる?」

『てきが、くるまぬすもーとしてる。たいおーちゅー』

「よく解ったわ」


 向こうではハルカが奮戦しているのだろう。

 遮蔽物に隠れて銃撃を繰り返す男の肩を撃ち抜きながら、陽子は返事をした。そして、相変わらず、サイハテに無線は通じない。

 どこからか、妨害電波でも出ているのだろうか。と、疑問を抱きつつも、ここから移動するわけにはいかないので、陽子は敵に銃撃を加えて牽制しつつ、車の到着を待った。

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