三十四話:朽ちた戦士3
「……ちっ」
ハルカは舌打ちをすると、機銃の銃身を取り外した。
真っ赤に焼けてしまい、暴発も多くなってきたからだ。
交換用の銃身は車の中であり、交換できる状況ではない。後は残弾の少ない57mm砲でここを守護するしかなく、今度こそ撤退を具申しようと口を開いた。
「レア様、最早ここを守る事は不可能デス。撤退を具申しマス」
ライフル弾がハルカに直撃するが、セラミック・スキン装甲によって弾かれる。
「でも、さいじょーはここをほじしろって」
「出来る事と出来ない事がございマス。これ以上、あたし単騎での保持は不可能デス」
歩兵達がこれ以上接近しないように、57mm榴弾を目蒙撃ちしながら返答するが、レアの表情は芳しくない。未だ、撤退するかどうかを迷っているらしく、唸るばかりで返事がない。
「レア様、ご決断ヲ」
そう言って、ついつい振り向いてしまう。
ハルカに、光学索敵以外の索敵手段は無く、その振り向きが仇となった。
一時的にでも止んでしまう砲撃、それでなくとも敵はジリジリと包囲を狭めるように接近して来ているのだ。この距離は十二分にロケットで狙える距離なのだ。
砲撃が止んだ僅か二秒の隙に、スカベンジャーの一人が立ち上がって、ロケットを構えた。
目標は武器庫の入口で仁王立ちするハルカだったが、彼らは武器を持っただけの素人だ。狙いはずれて、ロケット弾はハルカの頭上に命中してしまう。
「……っ! 危なイ!」
脆くなった武器庫の天井が崩れて、レアの頭上にコンクリ塊が降ってくる。大きさはレアより大きい瓦礫も混ざっていて、あれに当たってしまえば、小さなレアはすぐに死んでしまうだろう。
ハルカは咄嗟に動いた、突き飛ばせば良かったものを、レアが怪我をしてしまうかも知れない、なんて可能性が頭に過ぎって、突き飛ばす事など出来なかった。
瓦礫とレアの間に滑り込むように移動して、瓦礫からレアを庇う。
「……はるか?」
恐怖で強く瞼を閉じていたレアの瞳が開く。
その先にはいくつもの瓦礫に殴打されてはいるが、故障一つしていないハルカの姿があった。レアを押し倒して、四つん這いになって盾になったのだろう。
「お怪我はありまセンね? ……デスガ」
レアに怪我がない事を、殊更嬉しそうに笑ったハルカの表情が曇り、武器庫の入口へと視線を向けた。
入り口の向こうからアサルトライフルやハルカを破壊する為の杭打ち機を持ったスカベンジャー達が殺到しているのが見えた。
「万事休すデス。どうしまショ?」
対人焼夷散弾がサイボーグにぶち当たって、火花と火炎を散らすがよろける位で、あまり効果がない。それに、もう装填された弾がない。
サイハテはサイボーグから距離を取りつつ、ショットガンを捨てた。
45口径拳銃を引き抜こうかとも思ったが、どうせ効果がないので止めておいた。弾薬の無駄とはまでは言わないが、弾が切れたら無用の長物になってしまう、奴に装填する隙などありはしない。
「ァア……!」
気勢と共に踏み込んできたサイボーグの斬撃を受け流して、投げで地面に叩き付けてみるが、これもやはり効果がない。
人間相手ならば一撃で殺傷出来るように、頭を下にして投げたのだが、奴はけろりとしている。
ボロボロに錆びた装甲だと言うのに、蹴り二発、拳一発、投げ一回を加えても欠落する様子すらなく、今までの攻撃は無駄であったようだ。
「弱ったな……」
息も上がってきている。
脈拍も大分早くなっている。
そろそろ、パフォーマンスが下がり始める位、サイハテは疲れてきていた。
なのに、サイハテは未だに奴の技を見切る事が出来ていない、どうやら、サイハテの死後に創設されたサイボーグ剣術であり、対人戦に特化した剣らしい。
再び、奴が肉薄してくる。
「クソッタレ!」
ナイフで受けて、同じように受け流したが、とうとうナイフが壊れた。
刃よりグリップが持たなかったようで、グリップは二つに裂けて、刃は地面へと落ちてしまう。これでサイハテは正真正銘の素手だ。
拳銃は所持しているが、相手に効果はないので、引き抜く意味がない。
仕方がないので、久々に格闘へと移る事にした。
「こうなったら破れかぶれだ。かかってこい、相手になってやる」
選択した武術は薩摩空手と柔術、二つとも刀を想定した武術であり、昔の侍は戦場で実際に使用している由緒ある技術だ。
サイボーグが再び接近し、刃を振るう。
それを見たサイハテは、先程までと違って、相手の間合いへと押し進んだ。
「むおっ!?」
サイボーグが驚く。
先程まで戦っていた相手の戦法が百八十度違う戦法へと変化したからだ。
大きく踏み込み、自分の間合いが相手へと届くようにする。そして捩じった拳を相手の刃の側面へと突き入れ、相手の顔面に正拳突きを叩きこむ。
刀相手に開発されたカウンターだ。
だが、
「やっぱり効かねぇか……」
砕けたのは相手の顔面ではなく、サイハテの拳だった。
自分の威力だけでは足りないのなら、相手の突進も加えてしまえばいいとは考えたが、生身の拳と機械の体では、やはり、生身の方が耐えきれなかったようだ。
そのまま腕を相手に絡めて、サイボーグを投げ飛ばして距離を取らせる。
砕けた拳は皮が裂けて、血が滴り落ちている上に、骨が砕けて、拳を握れなくなってしまった。
「……このままでは」




