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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
三章:新しい旅立ち
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三十二話:朽ちた戦士1

 地下道を抜けた先には、森が広がっていた。

 先程の地下道は入り組んでおり、様々な場所へと通じる道があったのだが、サイハテは何か感じるものがあったらしく、ここへと(いざな)った。


「……やはりか」


 手製の地図を眺めながら、彼はつぶやいた。

 何がやはりなのだろうと思って、陽子が地図を覗きこむと、さっぱり分からなかった。地図上で自身の現在地を知るのは、技術の一つであるから、女子中学生が知っている事は少ない。


「えっと……何が?」


 なので、サイハテに教えて貰おう。


「ここはな。鹿島の工業地帯から来る隊商の通り道だ」


 言われてみれば、真新しいかはよくわからない陽子だが、轍があるのは認められるし、その辺りは定期的に利用されているのか、生えている草が少なく、地面がむき出しであった。


「……ここで襲われたのか」


 地下道の隠し扉から離れて、背の低い草むらの辺りに手を突っ込んだサイハテは、とんでもない物をひっぱりあげる。


「ひぃあ!?」


 陽子が悲鳴を上げてしりもちを着くが、サイハテは気にしない。

 持ち上げた腐りかけた生首を持って、黙って見分するだけだ。


「覚えてるか? こいつはあの隊商の頭だ」

「そ、そんなのわかるわけないでしょう!?」


 陽子に顔を見せると、悲鳴のような返事が来た。

 確かに、顔面は崩れかけていて、普通なら誰だか判別つかないな。と容易に少女のトラウマを増やしたサイハテは、反省する。


「悪い悪い」


 辺りの草を蹴散らすと、頭の持ち主らしき体を発見したので、首をそこへと戻してやる。

 腐っていると言うのに、切り口がほぼ一致した事を見て、斬首した人物は凄腕の剣士だったのだろうと、くだらない事を考えた。

 腐肉と腐汁のついた手を、水で洗い流して、再びショットガンを構える。


「……陽子、車から油を持ってきてくれないか?」


 銃を構えなおしたサイハテが、突如としてそんな事を言い始める。

 銃口は同じ方向に向けっぱなしで、視線もそこから外さない。サイハテの頬に、一筋の汗が流れているが、一体何なのだろうか。


「えっ、う、うん? いいけど」

「足跡を辿れば元来た道を引き返せる、絶対に振り向くんじゃないぞ。いいな?」

「う、うん……どうしたの?」

「わかったら走れ!」


 サイハテが発砲した。

 森しか見えない、何もいないはずの空間に弾薬がぶつかって、火花を散らす。それを見たサイハテが大きく舌打ちをして、陽子の足元にライトを放り投げては、怒鳴る。


「さっさと行けっ!!」


 陽子は反射的に、その声に従って、落ちているライトを拾って駆け出した。

 その気配を背中で感じつつ、サイハテは油断なく火花の散った空間を睨んでおり、そこに居た者は諦めたかのように、姿を現す。

 空間に紫電で走り、にじみ出るようにそいつの姿が現れる。

 朽ちた鋼の装甲に覆われた人型の機械、手にはボロボロになった高周波ブレードを持ち、ヘルメットのような顔をサイハテへと向けている。


「……ああ、ここまで来やがったか」


 ハウリングの入った男の声が、その人型から流れ出す。


「司令部は陥落したか……だが、ここより先は通さん!」


 どうやら、こいつはサイボーグのようだ。

 あそこまでボロボロになって戦う男だ、よほど背後に守りたい物があるのだろう。それにだ、機械の体はサイハテの肉体よりずっと強靭で、頑丈だろう。

 首元の装甲に、一尉の階級章があるが……自衛官だろうか?


「おい、あんた」


 とりあえず、会話は出来そうだと声をかけてみる。

 が、奴はこちらを警戒したようで、己に有意な間合いを保ったまま、ゆっくりとサイハテの周りを回っており、会話は望み薄だ。

 浅く息を吐いて、集中を警戒領域から戦闘領域まで高める。

 そして、高周波ナイフを引き抜いて逆手に持ち、防御の構えを取った。


「ここで、朽ちるがいい! 化け物め!!」


 サイボーグが動き出す。

 人なら五歩の間合いを、たった一歩で詰めてくる。

 サイハテの喉元目掛けて繰り出される刃を、なんとかしてナイフで防いだ。だが、奴は恐ろしい膂力でサイハテを吹き飛ばし、彼の体は容易く宙を舞い、木に叩き付けられた。


「……ッ!」


 防ぐのは無理だと直感する。

 先程のはたまたま防げただけで、次はナイフごと叩き切られる予感がした。

 サイボーグの能力はは驚異的だ。サイハテより早く、サイハテより力強く、サイハテより頑丈、最早体のスペックでは太刀打ちの仕様がない。


「貰ったぁ!」


 肉薄してくる。

 一瞬で弾丸のように加速する、奴の速度はそのまま質量となる。五歩で吹き飛ばされた、今の十三歩半の距離を加速されたら、どうしようもない。

 だから、受け流す事にした。

 迫ってくる刃を、ナイフの鍔近くで受けて、そのまま刃の上を滑らせて、後ろへと流す。

 江戸時代に発達した小太刀の技、敵を斬る事を主眼とした戦国剣術とは違い、己の身を守る事のみを考えた不殺の美学を持つ技だ。


「ふんっ!」


 気合の一声と共にサイボーグを蹴り飛ばし、距離を取らせる。

 非常に重かったが、所詮体重百数キロの物体だ。サイハテが吹き飛ばせない訳がなかった。

 奴は不機嫌そうに、刀を振って、構え直す。


「……これは長引きそうだ」


 サイハテが、思わずぼやいた。

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