二十九話:地下へ行こう
アスファルトがひび割れ、そこから背の高い草が生えている。
イネ科の植物だろうか、種類はよくわからないが、その属である事は間違いないだろう。
車載機銃を取り外して、手持ちの火力としたハルカが戦闘を歩き、その背後にレアが続いて、陽子はサイハテと一緒に後方警戒を行っていた。
全員が口を閉じて、静かに移動する様は奇妙な光景だが、ここは人間の管理から外れた廃墟である。何が飛び出してくるか分かったものではないので、全員、強い警戒心を持って移動している。
フェーズ1の感染変異体ならば、拳銃でも十分に対処可能だし、フェーズ2などの強化型でも、ハルカの持つ機銃で、対処できる。
キロピードやビクラブのようなフェーズ5だったらお手上げだ、逃げるしかない。
「西条さま、ここカト」
滑らかなコンクリートで覆われた、半円形の倉庫の前で、ハルカは止まり、そう口を開いた。
周囲に、感染変異体の姿も、怪しい物音もない。どうやら、ローリングタートルはきっちりと仕事を果たしていたようだ。
「ああ、そこだろうな」
などと言いつつ、サイハテは錆びた金属製の引き戸の前まで移動する。
塗られていた錆止めの塗装が剥がれ、地金がむき出しになった。頑丈そうな金属の扉だ、朽ちた今でも生半可な爆薬では開かないだろう。
鍵は電子錠ではなく、複数の鍵穴が付いた、古臭いサムターン式の錠前だ。数は三つ程で、構造を見る限り、同時に開かないと鍵が開かないタイプだ。
「だが、甘い」
と言って、ハルカの腰に結わえている刀を引き抜いて、スイッチを入れた。
紫電が刃に走り、金属を叩いて鳴らしたような澄んだ音が響き渡り、刃に高周波が通る。
対高周波処理された塗料は剥がれ落ちているので、この刀でも十二分にこじ開けることが出来るだろう。扉の隙間に刃を突き立てて、扉を施錠している閂のようなものを切り落とす。
「ハルカ、右の扉を引け。陽子、扉の前でショットガン構えてろ、何か出てくるかも知れない。レアは陽子の後ろで警戒」
「わかりまシタ」
「ん」
「んー」
三者三様の返事を聞いて、三人が言われた通りのポジションについたのを確認してから、サイハテは扉に力をかける。
「引けっ!」
錆びた扉と、扉を動かすためのレールが擦れて、嫌な音が周囲に響き渡った。
慌てて耳をふさいでしゃがむレアと、眉間に皺を寄せた陽子を視界の端に捉えつつも、サイハテは思い切り引っ張って、扉を開き切る。
数十年もたまっていた埃が、衝撃で舞い上がって、陽子とレアが咽た。
電気が死んでいるので、武器庫の中は真っ暗だ。
「暗いな」
懐中電灯で中を照らすが、何も残っていないように見えた。
「……何もないわね」
いつの間にか隣に並んでいた陽子が、目を凝らして中を覗いており、落胆の表情を浮かべている。
「このあたりは、ていこーすることも、できなかった。はず」
鍵だってウイルスの上陸以来開けられていないのだろう、扉が朽ちるまで誰かが開いた痕跡なんてなかったのだ。
「……何故武器が入っていない?」
だが、事実として、ライフルラックには何も下がっていない。
本来なら小銃が並べられていてもおかしくはないのだが、もぬけの殻であった。
「わかんない」
レアも首を傾げている。
陽子とレアが揃って首を傾げているのをしり目に、サイハテはとある以上に気が付く。
「……いや、おかしいぞ」
視線の先は足元に降り積もった埃だ、入口に向かってゆっくりと埃が移動している。
「何故入り口が一ヵ所しかないのに、ここに風が流れている?」
陽子が埃を摘まんで空中で離してみると、サイハテの言う通りに入口へと向かって流れていった。
なるほど、確かにこれはおかしいと陽子は頷いた。
「どこかに出口があるのね?」
「そうだ」
サイハテは懐中電灯を持って、倉庫の中を歩き回って、すぐさま、風が流れてくる方向を見つけ出す。床板に偽装された隠し扉、と言うより、人為的に開けられた穴を床板に似せた何かで、偽装したのだろう。
ブーツでそれを叩くと、反響音が聞こえた。
「陽子、着いてこい。ハルカ、レアと一緒にここを保持してくれ。俺達がローリングタートルを撃破した音はワンダラータウンまで聞こえているはずだ」
「了解しまシタ。警備ルーチンは如何いたしまショウ」
「見敵必殺だ」
「了解デス」
きょとんとした表情の陽子に、猟銃と、クリップで保持した弾薬を突き出す。
「俺にショットガンを、君は後方で援護するのが役目だ」
「え? ああ、うん……」
おとなしく猟銃を受け取って、ショットガンと弾薬を渡してきた。
レバーを動かして、初弾を薬室に装填する。使い心地は随分良さそうだ、威力の高い対人焼夷散弾をばら撒く、殺傷能力の高い武器と言えよう。
「暗所での戦闘は危険がつきものだ。君の援護に期待する」
相変わらず、なんで私を連れていくの? とでも聞きたそうな陽子に対して、そう言ってやる。
「頼りにしているぞ」
「……う、うん」
総合評価が1000ポイント超えが見えてきました。
そうですね、超えたらジークの妻の話でも書きますか。




