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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
三章:新しい旅立ち
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二十六話:ローリングタートル

 ローリングタートルは自動兵器である。

 高度なAIを搭載しており、山岳地帯で歩兵と協調することを主眼として開発された兵器で、戦車を上回る火力と、球体モードでの回転移動で高い移動力を誇る、ゲリラにとっては天敵とも言える兵器だ。

 強力な兵器なのだが、如何せん、その複雑な機構から整備性は最悪と言ってもいい。

 一度の出撃でオーバーホールが必要な変形機構は、戦場では故障が多発する。

 つまりはだ。

 大きな衝撃を与えて変形機構にダメージを与えれば奴は行動不能になる、出来れば球体の状態で故障してくれるとありがたい。

 陽子は、小高い丘の上で腹這いになりながらサイハテの言ったことを思い返し、大きなため息を吐く。


「本当に大丈夫なのかしら……」


 奴が旭市街へと走って行ってから一時間、陽子は不安と羞恥で一杯一杯だった。


『なぐも、そろそろ、さくせんかいし』


 舌足らずなのか、抑揚がないのか、よく分からないレアの声が無線機から響く。

 

「わかったわ」


 返答し、ガウスライフルを構える。

 スコープの向こうには鈍色の球体が、飽きもせずに転がりながら受信所を警備している。

 陽子のライフルでも、奴の装甲を打ち抜く事は難しい。高度な工業技術によって、どこ角度から打ち抜いても傾斜がかかっているため、どこから撃っても弾かれてしまうだろう。

 だが、レア曰く、武器を展開した後の接合部ならば、十二分に効果があるらしい。要するに陽子の仕事と言うのは、三キロメートル先の小さな接合部を撃ち抜いて、武器を欠落させる事であり、陽子以外には不可能な事でもあるのだ。


「……やってやろうじゃないの。ええ、やってやるわよ!」


 トリガーに指をかけて、大きく息を吸い込み、集中を増した所で、ローリングタートルの動きが変わった。恐らく、サイハテが陽動を開始したのだろう。

 展開してから数秒が勝負だ。



 ローリングタートルはジェノサイドモードで宇宙から投下された。

 宇宙には降下プラントと呼ばれる静止衛星が鎮座しており、これもAIによる自立管理で成り立っていると言う。

 現地に住み着いた武装勢力、及び感染変異体を全て排除した綺麗な日本に、かつての文明を再興しようと言う、なんとも自分達しか考えられない老人らしい考えだった。

 サイハテは、少し悲しかった。

 もう少しだけ、自分以外の事を考えられるような人間だったら、味方となり、奴らの尖兵として戦うことも吝かではなかったのだ。

 だが、老人たちの行動は自由と民主主義の守護者にとって、とても看破出来る状況ではなかった。

 故に、敵対せねばならない。死んでいった友の為に、己が打ち倒した敵の為に、彼らの死が無駄にならない為にも、かつて守った人々を殺さねばならない。

 森の中を突っ走りながら、サイハテは表情を歪める。


「ついてこい! エサはここだぞ!」


 背後には市街地から連れてきた大量のグール達が疾走している。人間の骨格強度で出せる限界速で走るサイハテが振り切れない速度で追ってきており、至って普通の人間にはとんでもない脅威だと言うのが理解できた。

 奴らは、サイハテが知っている世界最速の男より早い。

 遺伝子強化された強化人間たるサイハテ並みに早い。

 新人類創成機とやらは、成功していたら素晴らしい発明になったのだろう。

 だが、人類滅亡機となってしまい、その脅威は栄華の極みにあった人類文明すら消し去ってしまった。

 その敵がサイハテを追いかけて来ている、久しぶりのエサを貪ってやろうと膿混じりの涎を垂れ流しながら失踪している。

 この後、サイハテに出来る事なんて高が知れている、ただ、自動兵器に向けて走り抜けるだけだ。


「行くぞっ!」


 無線機に向かって叫ぶと同時に、森を抜けた。

 均された大地の向こうに、鈍色の球体が鎮座している。

 奴はサイハテの背後で失踪するグールの大群を発見し、こちらに向き直り、薙ぎ払おうと大口径のバルカン砲を展開した。

 瞬間、紫電を纏った矢がバルカン砲の接合部を撃ち抜き、巨大な武器は大地に落ちる。

 焦って展開されたようにも思える、二門目のバルカン砲も同じような結末を辿り、高度なAIは迫ってくるサイハテを最大の脅威と判断したようだ。

 武器を折りたたみ、球体になってサイハテを踏みつぶそうと転がり始める。

 予想通り過ぎた、最も効率的な殺し方をしようとするAIらしい行動に、サイハテは笑みを溢す。


「おらよっ!」


 均された大地に残る僅かな隙間、そこに滑り込むと、ローリングタートルはサイハテの真上を通りすぎ、後を追っていたグールの大群を引きつぶして、森にぶつかって派手な音を立てながら、木々に引っかかって止まってしまう。

 球体と言うのは、アドバンテージでもあり、デメリットでもある、一度止まってしまえば、加速に大きな時間がかかるのだ。

 その隙に、サイハテは受信所へと向かって駆け出してしまう。

 ローリングタートルも、慌てたように身じろぎし、数本の木を引きちぎってから追い始めるが、行動が遅すぎる。

 サイハテは受信所内へと侵入してしまい、レーダー機器が乱立する場所へと身を隠してしまう。

 ローリングタートルは思案する。

 中に食糧はない、奴も大した物を持っている様子がなかった、ならば、出てきた時に殺してしまえばいいと判断し、再び受信所の周りを転がることにした。

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