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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
三章:新しい旅立ち
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二十六話:陽子のお守り

「それじゃあ、あんたが一番危ないでしょう!?」


 ジープの車内に、悲鳴に近い金切声が響き渡った。

 ハウリングの残った耳に指を突っ込み、僅かに感じる頭痛に片目を閉じていても、陽子の興奮は冷めやらないようだ。


「かと言って、他に手立てがある訳でもありマセン。この仕事をこなせるノハ、西条様だけカト」

「はるかも、できないわけでもない。けど、はかいこーさくはさいじょーがいちばん」

「だけど……!」


 女が三人寄れば姦しいとでも言うように、陽子ハルカレアの三人は自分の考えを言い合っており、その様子をサイハテは黙って見守っている。

 結局、成功率が一番高いのはサイハテの案で、いくら言い合っていても自分の案に賛同するしか道がないと言う事を理解しているからだ。


「外で準備運動しているから、決まったら呼んでくれ」


 声をかけるが、返答はない。

 どうやら議論に熱中して、気が付いていないようだ。

 己の心が赴くままに語る陽子と、効率の良さと成功率の高さを論点に語るレア、相性の悪い二人だがその内話し合いは終わるだろう。

 どちらも、自身のプライドを優先するタイプではないからだ。

 それに。二人の役割もそこそこ危険なのだから、ここで話を拗らせてはならないと言う事を理解しているだろう。

 お互いにバカではないが、相性の悪さからぶつかり合うこともある。


「喧嘩出来る内にさせておけってな」


 子供の喧嘩に、大人が介入してもいい結果は出ない。

 彼らにできる事は彼らにやらせればいいのだ。

 しばらく待っていると、憮然とした表情の陽子が出てくる。手には修理されたガウスライフルを持って、どこか納得の出来ていない表情でサイハテを見つめていた。


「……あんたにしか出来ないからやらせるけど、私は納得しないから」


 できないではなく、しない。


「別にしなくていい。理解できているのなら、十分だ」


 屈伸をしながら返事をした。

 冷たい言い様だが、本当にそれで充分なのだ。

 兵士に納得は必要ない、命令された事に対し、サーイエッサーと返事し、実行する事だけが求められるのだから納得しなくてもいい。


「あっそ」


 ツンと顔を反らし、ガウスライフルを担いで、定位置に向かおうとする陽子の背に向け、声をかける。


「そんなに心配するな。俺が信用できないか?」


 サイハテの台詞に反応した陽子が、こちらに振り向く。

 唇をへの字に引き結んで、眉間に皺を寄せた厳しい表情だ。


「……信用してなかったら、こんな作戦させないわよ。心配してるの!」


 そんな事もわからないのか、なんて言いたそうな口調だった。

 怪我をして、痛く、苦しい思いをするのはサイハテだ。陽子はそれがたまらなく嫌だった、何もかも投げ出して、帰ろうと言いたくなる位の思いをしている。


「じゃあ、お守りをくれ。兵士には弾が当たらなくなるお守りってのがある」

「千人針の事? 今から用意は無理よ。十銭硬貨も、五銭硬貨もないし」


 死線を超え、苦戦を超える武運長久のお守りではない。

 サイハテは苦笑しながら、首を左右に振った。


「違う、それじゃない」


 じゃあ何が欲しいのだろう、陽子は首を傾げる。


「君の陰毛をくれ」


 陽子の表情が凍った。

 首を傾げたまま、呼吸まで止めているかのような凍結っぷりだった。


「なん、で?」


 一分ほどの硬直の後、陽子はようやっと口を開く。

 出てきた言葉は怒りでも羞恥でもなく疑問、人間誰しも、己の理解できる範疇を超えた事態に直面した場合、怒りよりも先に疑問を口にする。


「処女の陰毛は弾除けになる。処女は玉に縁がないからな」


 処女で無ければ、自分の恋人、妻でもいい。それらは自分の玉以外に縁がないからだ。


「……ッ! 下ネタじゃないのっ!!」

「下ネタじゃない、言葉遊びと言うんだ」


 それにだ。

 陰毛をもらえると言うのは兵士としてだけでなく、変態としても大変な栄誉である。このチャンスを逃すわけにはいかない。


「それで、くれるのか? くれないのか?」


 陽子はまだ何か言いたそうだったが、あまり時間がある訳じゃないので、畳みかけた。

 その問いに、彼女は顔を赤く染めて、地団駄を踏んだ後に決定を口にする。


「こっち見ないでよ!」


 どうやら、くれるらしい。

 まぁ、お守りを渡す事が出来るのは陽子だけだ。レアは生えてないので物理的に不可能で、ハルカはそもそもがロボットなので、女ではない、消去法で陽子にしかできない事だ。


「なんで私がこんな事……」


 衣擦れの音がし、


「恥ずかしいったらないんだけど……」


 何かを剃る音と、布の袋を開く音がして。


「……はいっ!!」


 背中に小さな巾着袋を投げつけられた。

 振り返って、落ちたそれを拾い、ついた砂埃を払う。


「有り難くいただくよ」


 ポケットに陽子のお守りを押し込みながら礼を言うと、彼女は顔を抑えながら駆け出していく。どうやら、齢十三の乙女には少々酷な行為であったらしい。

 何はともあれ、作戦開始である。

 ご利益のありそうなお守りも貰った上に、サイハテの士気は最高潮だ。

アイテム解説:陽子のお守り

目薬用の小さな巾着袋に入った、女子中学生の陰毛。

持っていると興奮する効果がある。

サイハテが使用すると食べる。

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