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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
三章:新しい旅立ち
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二十五話:飯岡受信所

 小高い木々が生えた森の空を、一機の飛行ドローンが飛んでいた。

 人間が抱えられる程の小ささで、情報を読み取るカメラと、情報を送受信するアンテナ。それとプロペラやそれを動かすモーター位しか積んでいない、簡素な物だ。

 向かう先は海上自衛隊が使っていた受信所と呼ばれる基地で、早期に発見されぬよう、木々のすれすれを這うように飛行していた。

 しばらく森を映し出していたドローンだったが、ある場所を境に景色はガラッと変わる。

 まるで、巨大なロードローラーで均したかのような乾いた大地が、受信所を中心に広がっており、この時代からすれば異質な光景であった。

 そのまま画面を注視していると、そのロードローラーもどきを発見する。


「……なんだありゃ」


 サイハテが思わず口を開く。

 それほど、そのロードローラーもどきは異質だった。

 受信所の周りを見回るかのように転がりまわる、金属製の球体。異質は異質だが一言で説明が終わってしまう、所謂出落ち要員とも言える存在だ。


「……あいつから貰った情報と全然違う」


 あいつとは女装趣味の変態野郎の事で、奴はここにいる自動機械の事を亀と言っていたが、画面に映っている自動機械はどう見ても球体である。


「さいじょー、みてれば、わかる」


 頭を悩ませ始めたサイハテに向かって、レアが口を開く。

 見ていればわかるとはどう言う事だろうか、彼女の言葉に従って、画面に視線を戻すと丁度、ドローンが球体に接近するところだった。

 距離は三百メートルほどだろうか。

 突如として金属球体に亀裂が入り、足や武器が展開されて、四足の亀へと変形した。


「…………………………」


 なんと言う無駄な機能だろうか。

 出来るから作ってみました、なんて技術屋のロマンが詰まった一言で作られたかのような兵器だな。と、サイハテは素直に関心してしまう。

 既にドローンは対空ミサイル(AAM)に撃ち落とされており、画面には砂嵐しか映されていないが、最早そんな事はどうだってよかった。問題は変形機構と言う、ロマン溢れる割には強度を下げる上に部品数を増やすだけの機能を搭載した兵器だ。


「あれ、君の所が作った兵器か?」


 こんな変な物を作る知り合いは、レアの所しか知らない。


「ちがう」


 だが、違うらしく、心外だとでも言いたそうな視線を、サイハテに向けて来ている。


「あれは、いぎりすのまるち・うえぽん・しすてむず。の、へーき。なまえ、ろーりんぐたーとる」


 つまりはだ。

 あれは珍兵器の一種だと考えても良さそうだ。

 恐らく、パンジャンドラムの親戚か何かだろう、転がっていたし、何となく失敗作の香りがする上に、無駄に高級そうだ。


「珍兵器の割には、随分と火力が充実していたな……」


 砂嵐のモニターを操作して、撃墜前の映像を呼び込み、ローリングタートルが全ての武装を展開した所で停止させる。

 画像は荒いが、何を積んでいるかどうか位は理解できるだろう。

 そして、先程の行動で、奴はレーダーなどの探知機器が不調だと言う事も理解出来た。三百メートルまで近寄られないと迎撃行動を起こさなかったからだ。


「……大口径のバルカンが二門。対空ミサイルポッドが一つ、あとは榴弾ロケットと対洗車ミサイルか? 真正面からは戦えないな。流石に」


 正面からやればミンチにすらならず、塵になる火力だ。

 これがサクラの言っていた、目覚めるための準備という奴だろう、予想ばかりで不安しか残らないが、恐らく、施設に近寄る生き物を警告なしで攻撃するプログラムを組んでいるのだろう。


「レア、こいつの装甲はどんな物だ?」

「てもちのかりょくじゃ、きずつかないくらい」

「なるほど、分かった」


 つまり、レアは撃破を避けろと言っている。

 だが、あそこにある装備を根こそぎ持っていく為には、サイハテ達が乗っているジープを、受信所まで持っていく必要があるのだ。


「……んー、弱ったな」


 撃破ができないなら無効化するしかない。

 しかないのだが……不整地に強い足を持ち、分厚い装甲に守られた火薬庫のような奴を行動不能にするのは厳しい。


「さいじょー、ぼくをやつまではこんでくれれば、ていしさせることなら、できる」

「却下」


 そもそもレアを運びながら接近して取りつくのは不可能だ。

 サイハテ一人なら奴に取りつく事自体は出来そうだが、そこに行くまでにレアを落としてしまうだろう、彼女はただ犬死する羽目になってしまう。


「私がここから狙撃して、気を引きましょうか? そうすればレアを担いでいても接近できるんじゃない?」

「却下」


 ミサイルとロケット、タングステン弾の雨霰で一瞬で蒸発しそうだからだ。


「あたしがその役をやりまスカ? 直撃しなケレば、耐えれマス。メイビー」

「却下」


 メイビーでは却下するしかない、こんな所でハルカの火力を失う訳にはいかない。

 とにかく、奴自身をどうにかできないのならば、周囲を利用してどうにかするしかないので、サイハテはサクラに集めさせたボーリングデータや、地形図を眺め始める。


「………………………………なんとか、出来るかも知れない」


 真剣な表情をしていたサイハテが、突如として顔を上げる。

 一筋の光明が差し込んだのだ。


「いいか、作戦なんだが」

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