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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
三章:新しい旅立ち
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幕間:西条さんちの日常

大変遅くなりました。

苦情及び詳細は活動報告にて、お願いいたします。

 ワンダラータウンの貧民街、そこにある庭付き襤褸屋で、時の変態、西条疾風ことサイハテは珍しい事に紙束を前にして唸っていた。

 あーでもない、こうでもないと適当に削られた鉛筆で、後頭部を掻いては悩み、疲れ果てたように嘆息する。


「なにしてるの~?」


 そんなサイハテの様子を見ていた陽子は、彼の隣からひょっこり顔を出して、紙束をのぞき込む。そこに書かれていたのは、様々な数字だ。

 陽子の目には、それが大変珍しく映った。

 彼女が生きていた時代には使われていない経理書式だったからだ。PCでの書式に特化した物ではなく、人間が計上する事に主眼を置かれた、古臭い物だ。


「拠点を手に入れた際の計算だ。今ある食糧や弾薬なんかの計上も含めている」


 鉛筆を放り投げたサイハテが答える。

 彼にしては珍しく、物事がうまく進んでいないらしく、どこかイラついているようにも見えた。


「ふーん?」


 そんな彼をしり目に、陽子は書類を手に取る。

 拠点の概要は聞いているのだろう、様々な物品などの名前が書き連ねており、陽子が手に取った部分だけでも頭が痛くなりそうな位だった。


「で、なんでこんな事してるの?」


 紙束を元あった場所へと戻し、問う。


「書類仕事は暇な時間にやるものだからだ。向こうについてから、初動が遅れたら事だからな」


 遅れたら事、とサイハテは言うが、それがどんな事態を引き起こすかなんて、陽子にはわからなかった。そもそも安住の地を手に入れたなら、少し位ゆっくりする時間だってあるはずだ。とは思うが、口にすることはない。

 サイハテの行動に、無駄は少ないからだ。

 その少ない無駄の一つが変態行動だというのは、考えないことにした。

 室内で煙草を吸おうとしたサイハテの口から、紙巻を取り上げると、彼は不満そうに口を開いた。


「……一本くらいいいじゃないか」


「平和な時はだーめ、体に悪いでしょ」


 こう言われたら、サイハテは閉口するしかない。

 煙草に利がないとは言わないが、確かにデメリットも多い。できることと言えば、罰の悪そうな表情をして、頬を掻くこと位だ。

 そんなことをしていたら、眼前にコーヒーが置かれる。


「同じ嗜好品なら、こっちの方が健全よ」


「……そうだな」


 完敗を喫してしまえば、コーヒーを啜る位しかやることがない。

 憮然とした表情でコーヒーを啜るサイハテを見て、微笑むと、陽子はお茶を入れた湯呑を持って、彼の対面に腰掛ける。

 片目を開いて、陽子の様子を確認しただけで、サイハテは何かを言うでもなく、黙って口から離したマグカップを見つめていた。

 相も変わらない、ガラス玉のような無機質な瞳を向けている。気味の悪い姿ではあるが、そのような彼も嫌いではない陽子がいる。


「……あんたって、わかりやすいわよね」


 机に肩肘をついた少女に、そんなことを言われては、片眉を跳ね上げるしかない。


「わかりやすい? 俺が?」


 そんな事を言われたのは初めてであり、諜報が生業だったサイハテにしてみれば、死活問題だ。考えていることが読まれやすいスパイなんか、居てはいけないのである。


「そうよ、さっき考えていた事。当ててみせましょうか」


 得意げに指を振る陽子に、苦笑いを返して続けるように促す。


「このコーヒーはいつ淹れたのか! そしてどうやって持ってきたのか! でしょう?」


 笑顔が凍り付く、ぴたりと当てられてしまったからだ。


「そんな深刻そうな顔しなくていいの。あんたに飲ませる為に、最初っから持ってきていたのよ」


 その答えには自分で行き当った。問題はそこじゃないと言いたいが、この笑顔を曇らせるのは忍びないので、口を紡ぐ。


「これだけ長く付き合ってれば、あんたの事なんてわかるわよ。あんたは自分のことを私によく話してくれたし、そこから推察する位は私にだってできるんだからね」


 推察からの答え、それなら確かに頷けなくもないが……そこまで話していたかどうかは、首をかしげるところである。

 しかし、陽子の得意げな表情を見ていれば。


「そうか」


 としか言えなくなる。


(なんだかんだ言って、俺も甘っちょろい)


 そんな事を考えて、サイハテは再びコーヒーを啜り、一息吐く。

 少女に懐かれる気分は悪くないし、今日はしっかりとパンツ泥棒(日課)をしてきたので、陽子に嫌われる要素は少ない。

 たまにはこんな日も悪くないと思いつつ、出発までの少ない日常を過ごすのだった。

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