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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
三章:新しい旅立ち
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二十二話:カラマワリ・ナグモリン3~天高く届けおとめの声よ~

 西条疾風一行がワンダラータウンに到着したのは、八月の半ば頃だった。

 彼らを出迎えたスラムの住人は、一様にちぐはぐな奴らだと感じた。何しろ、一人は若い癖に歴戦の気配を漂わせる戦士。

 一人は女と呼ぶには幼いが、飢えてなくとも垂涎(すいぜん)の少女。

 最後の一人は奇妙なちびっこ、笑いも怯えもしない不気味な幼女。


 この三人組が、如何にも高級車であると主張する馬鹿デカイジープを引っ提げてのこのことやってきたのだ。

 初めから男の危険性は留意の上だ、それでも、この一派の持ち物は全てが魅力的過ぎた。


 車も、男が持っている銀色の拳銃も、女も、この町で燻っている人間には決して手に入らないものばかりだからだ。

 誰かが言った。


「殺して奪ってしまおう」


 指を咥えて居ても、物欲と自分の惨めさが加速するだけだ。

 だから奪ってしまえばいい、男を殺るには手間がかかりそうだが、向こうは足手纏いを二人も抱えているのだ。

 複数人で襲えば容易い事だと思った。


 あの車とピカピカの拳銃、そして見目麗しい少女二人が――――一方は表情の変化がないので不気味だが――――居るのだ。十人位で襲っても釣りどころかやり直しさえできるのではないか。

 誰かはそう思い笑った。

 そして幸いにも、誰かに同調する馬鹿は増えていった。

 そんな馬鹿どもを見ていた、別の誰かがこう言った。


「あいつらには無理だろう、あの男は油断していない。常に気を張っている、襲撃する前に勘付かれて終わりだ」


 だが、どうだろう。

 誰しも、戦闘の後……それも完璧な勝利の後は油断するに決まっているのだ。疲労と油断、その二つを合わせれば自分達でもあの男を仕留められる。

 別の誰かは、生贄になる誰かを嘲笑う。


「せいぜい疲れさせてくれよ」


 誰か達は取れぬ狸の皮を目前にして、笑いあっていた。

 中心街へと向かう男が、こちらを見ているとも知らずに。


 男は車に乗って中心街を目指した。

 今日の宿を確保する為だ、先程、怪しい動きをしていた輩が居た為にスラムで夜を明かすのは危険だと、判断した為だ。

 結果は解り切っていた事だが、安全の為にも試さずにいられなかった。


 一見さんはお断りだと、三つある宿屋全てに言われ、男はスラムの庭付き襤褸屋へと住み着く。

 誰かは、夜になると武器を持って集まる。庭付き襤褸屋を解体する為ではない、男を殺す為だ。

 頭の中では瀕死にした男の前で、少女二人を犯す算段まで付けていた。


 足音を忍ばせ、夜の闇に紛れて、誰か達は襤褸屋へと接近していく。その動きは、あまりにもお粗末だった。

 武器は鈍器のみ、高い銃弾を使用する銃器などは、これまた高級で誰かには買えなかったのである。


 襤褸屋まで三十メートル程の所で、連続して発砲音が聞こえた。発砲音が途絶えたのは最初の射撃から僅か二秒、それだけで、八人の仲間が頭蓋に穴を開けられて、崩れ落ちている。

 一目見ただけで分かる、即死だった。


 ただ、集まっただけの仲間だが、計画を話し合い、酒まで酌み交わした誰かにとっては、これからも無くてはならない友だった。

 ふと、発砲炎が見えた方向を見る。

 そこには悪魔が居た、人とは思えない程のスピードで、こちらに向かってきている。


 手には紫電を帯びた刀が握られており、こちらを切り殺す事は明白だった。

 誰かは怯えた、だが、そんな事、男にはどうでも良い事だった。ただ、弾が勿体ないから切り殺す。

 本当にただそれだけ、慈悲など微塵もなく、男は誰かを切り殺す。


「頃合いだ」


 誰かが無様に殺される様を、別の誰かが見ていた。

 男は油断しきっていると別の誰かは思っていた、疲労こそさせられなかったが、見事な完全勝利だったのを確認している。

 これで、男は油断し、我々に殺される。

 そう思っていた。


「き、来ます!!」


 仲間の声で我に返る。

 油断していたはずの男は刀を構えて、既に仲間達を切り殺していた。

 男には油断も慢心も、微塵たりとも存在しなかった。何しろ、此奴らの存在にも既に気が付いていたからだ。


 男は最初から、奇襲させるふりをして、強襲する事と決めていた。

 今はただ、それを実行しているだけ、なんの感慨もない。ただの作業を男はしている。

 集めに集めた仲間が数秒でぶつ切りの肉塊に変わったと認識する頃には、別の誰かの前で、男は刀を振り上げていた。


 その時、神の悪戯か、若しくは奇跡か、男に対して月明かりが差した。

 ずっと曇天だった今日、初めて除いた月夜に、男の姿はありありと浮かび上がる。

 別の誰かは、男を知っていた。

 ワンダラータウンに姿を見せた時ではない、もっと小さな頃、古ぼけた写真と共に、ぼったくりの映画館で見たたった一つの物語、そこで知って、憧れて、現実に打ちのめされながらも、憧れだけは胸の奥に燻り続けた。


 そんな男が、目の前に自分を殺そうと立っていた。

 別の誰かの唇が勝手に動く。


「ジー……ク…………?」


 忘れなかった。

 否、忘れられなかった名前を呼ぶ。

 どんな強い奴が相手でも、どんなに困難であっても、常に任務を成功させてきた伝説の男が騙った名。

 掠れ声だが、確かにそう呼べた。


「……………………」


 憧れは、気にする事もなく刃を男へと振り下ろした。

 それを、おこぼれに与ろうと遠目で様子を見守っていた娼婦(おんな)達が見ていた。

 会話は聞こえなかったが、目の前の男が十二分に恐ろしい存在だと理解するしかない。

 娼婦達は蜘蛛の子を散らすように去って行く。

 彼女らは天に届けと言わんばかりに歌う。


「庭付き襤褸屋に殺人鬼が住み着いた」


 と。


副題がどんどんロボアニメっぽくなっていく

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