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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
三章:新しい旅立ち
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十八話:赤い円でよろしくぅ!

 拾ってきたテーブルには、野の花が添えられている。少しでも生活に彩りが出るようにと考えた陽子の配慮だ。

 欠けた湯呑を、女装趣味の変態野郎……もとい、サクラの前に置いてやる。中身は貴重な緑茶のティーパックを煮出したものだ。


「あ、これはどうも、素敵なお嬢さん」


 そう言って、にっこり笑うのはサクラだ。どう見ても、陽子より年下の少女にしか見えない辺り、詐欺だと思う。


「陽子、です」


 なんとなく、自己紹介するのは憚られたが、一応しておくのが礼儀だと思う。


「そう、陽子さんね。覚えておくよ」


 覚えられてしまった……!

 なんとなくだが、彼に覚えられたら厄介ごとしか舞い込まない気がする。


「それで」


 茶に口を着けたサイハテが、話を戻す。


「ん?」


 サクラもそれを見てから、茶に手を伸ばす。毒が入っていないか確かめさせたのだろう。一つのポットから湯を入れたし、湯呑はサクラに選ばせた。

 この辺りの警戒っぷりは、流石、サイハテの元仲間だ。


「俺になんの用があって訪ねてきたんだ?」


 先程の暇だから会いに来たと言うのは建前で、本音があるのだろう。


「んんー、流石だねジーク。僕の事よく解ってる」

「産まれた時からの付き合いだからな」


 嫌そうなサイハテとは対照的に、サクラの方は嬉しそうだ。この様子から察するに旧友に会いに来たと言うのも、あながち嘘ではないようだった。


「ま、会いに来た要件は君が本物かどうか見極めるのが半分かな」

「……ジークの名前を騙る人間が居るんだな」

「いーっぱい居るよ」


 サクラが何気なしに齎した情報に、サイハテは不愉快そうに鼻を鳴らす。


「名を騙っても意味がないだろうに、下らん」


 ぴしゃりと言い切ったのが、面白かったのか、サクラはコロコロと笑って見せる。自分がどう笑えば男が喜ぶか知っている、言わば娼婦の手練手管をマジマジと見せられる。


「安心して、ちゃーんと、処理しておいたからさ」

「そうか」


 物騒な単語一つにさえ、眉を動かす事はない。相変わらずのポーカーフェイス、日本語で言うと仏頂面を見て、サクラは再びお茶を啜った。


「もう半分は、君が本物だったら渡したい情報があったから、ここに来た。多分、僕らの進退に関わる話だ」

「ほう」


 初めて、サイハテの表情が動く。


「国会議事堂の核シェルター、地下44階に国民2500万人と役人どもが眠ってる。とある人物の遺伝コード待ちでね」

「確実な話か?」

「明日、陽が東の空から昇る位にはね、未起動だった自動兵器達も動き出している。彼らは今居る人間達全てを排除して、自分達だけの楽園を生み出す気だよ」


 その言葉を聞いて、レアをちらりと見ると、彼女は凄い勢いで首を左右に振っていた。

 どうやら、彼女が封印されてからの計画だったようだ。


「遺伝コードの持ち主、そいつの名前は?」

「中田俊三。72歳。関東工科大学院、脳工学科の名誉教授だよ」


 その名前を聞いたレアが反応した。

 拳を強く握り締めて、何かに耐えているような反応だ。その様子に気が付いたのは、サイハテとサクラだけだろう。


「そいつは何をやった?」


 サイハテはあくまでも冷静だ。


「んー、こんな世界にした張本人。とでも言えば通じるかな。彼は逮捕された後、政府と取引した。レア博士の研究データ。それを対価に彼は将来の帝国での地位を保証された……けど、甘かったようだね」


 視線がレアを捕える。


「研究データと言うのはレアの頭脳そのものか」

「そうだよ、捕まえて、解体(バラ)して、機械に組み込む気らしいね」


 殊更可笑しそうに言い放つサクラに対して、サイハテは盛大に溜め息を吐いた。

 一方の目的はサイハテの安否確認で、もう一方はレアが目的だったらしい。ここまで吐いたのだ、こいつの裏切りを警戒する必要はないだろう。


「……それで、お前は俺に何を望む」


 サイハテもいい加減疲れてきたので、懐に手を伸ばし、紙巻煙草を一本取り出して咥えた。

 ライターを取り出したサイハテを手で制して、サクラは指先に火を灯す。火が、煙草の先を軽くあぶり、ゆっくりと紫煙を燻らせる。


「ジーク、お前がやろうとしている事に一枚噛ませろよ」


 煙草を吸うサイハテに対して、悪そうな笑みを浮かべるサクラ。これが目的だったかと、天を仰ぐしかない。


「こっちの方が面白そうだからか?」

「それ以外何があるのさぁ」

「はっはっはっはっは……お前はそう言う奴だったよな」


 バナナの皮が落ちていれば必ず踏んで滑り、スイッチがあればとりあえず押す生まれながらのエンターテイナー。それがα9、コードネームはネイト。自称本山サクラと言う人間だ。

 サイハテが確固たる判断基準を持っているように、サクラも面白いか、面白くないかと言う判断基準を持っている。

 と言う訳で、物凄く疲れたように、サイハテはがっくりと肩を落とす。ついでに頭も垂れる、これ以上ない位の落ち込みようだ。アメリカ人が裸足で逃げ出す程のオーバーアピールだ。


「……ま、良いだろう。今度は任務抜き、純然たる商人として俺に協力してくれるんだな?」

「ん、んー。やっぱりジークは話が早いや」


 疲れ切ったサイハテとは対照的に、サクラは楽しそうではある。


「ではではお近づきの印に……君が行こうとしている場所。海上の自衛隊基地の情報なんて如何かな? 安くしておくよ、支払いは赤い円でよろしくぅー!」


 きゃっきゃっと笑うサクラを見て、サイハテは再び、大きなため息を吐くのだった。


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