十七話:女装趣味の変態野郎だ
ワンダラータウンのあばら家、廃材と廃材を廃材で繋ぎ合わせたような外観の家は、サイハテ達の拠点だった。住めば都、なんて言うが、都は都でも戦国時代の京を思わせるような凋落っぷりの家屋だが、それでも、体や気を休めるのはここだけしかなく、そうなると愛着と言う物が湧く。
その愛着の湧いた襤褸屋に、サイハテの機嫌を最悪にする元凶が居た。
褐色の肌に、流れるようなブロンドの髪、いたずらっ子のような好奇心の強いグリーンの瞳がサイハテを捉えている。
「やっほー、α33」
サイハテでも、西条でも、ジークでもない呼び名が呼ばれる。好んで名乗ったことのない名前を呼ばれ、サイハテの額に青筋が浮かぶ。
小さな褐色の少女は、そんな様子を見て両手を叩いて笑った。
「……α9。なんでテメェがここに居やがる」
唸るような声に、陽子は身を震わせる。
「それはこっちのセリフだよ。君、死んだよね? なぁーんで生きているのかなぁ……」
α9と呼ばれた少女はその怒気に呼応するように、殺気を飛ばす。先程のいたずらっ子のような風貌は身を潜め、まるで飢えた肉食獣のような雰囲気へと変貌している。
「おっかしいなぁ。僕は確かに君が吹き飛ばされて死ぬのを見たんだけど……黄泉路に逝けず、迷ったと言うなら、もっかい殺してあげよっか?」
肉食獣が、笑う。
機銃座に乗ったハルカが、銃口をそっと肉食獣へ向けるが、彼女はその射線からサイハテを盾にするように移動した。
「ほざくなよ、オカマ野郎。テメェに俺が殺せるものか」
オカマ?
と、陽子は眉を顰める。女性ではないのだろうか。彼女、いや、彼は。
「あー。そんな事言っちゃう? 死にたいのに死ねない矛盾・ザ・憶病者がそれ言っちゃう?」
鈴を転がすような声から。
「吐いた唾は飲めねぇぞ! ジィィィィィィク!!」
野太く逞しい声に変貌すると同時に、サイハテに襲いかかり。
「せいっ」
「ぐはぁ」
パンチ一発で轟沈した。
吐き捨てられたガムの様に地面へ落ち、痙攣するα9。どうやらサイハテの旧友らしいのだが、その旧友に対して、本人は容赦なくトドメを刺そうと拳銃を向けている。
「ま、待った! ジーク、それはないんじゃないかな!? 一応これでも君を助けようとしたんだけどね! 恩人に対して、それはないんじゃないかなぁ!?」
ガバリと起き上がって、命乞いを始めるα9。その様子を見てサイハテは、仕方なくハンマーを下げた。
発射準備完了の合図である。
「まままままま、待って!? 本当に待って!? 僕と君は家族だろう!? なんでそんなに容赦ないの!?」
「俺に家族はいない、俺はガラスの胎から産まれた」
実に容赦のない言い分だ。
「……もう一度聞く、なんでテメェが生きている」
唸るような声に、α9が怯えた声を上げる。
「僕も殺されたんだってば!! セーフハウスごと、気化爆弾で!! なんで生きているかなんて、僕に解る訳ないだろう!! 神様じゃあるまいし!!」
その返答を聞いて、ちらりとレアを見た。
レアは首を左右に振っている、此奴を蘇らせた間抜けはレアではないと言う事だ。即ち、此奴は敵の可能性があるとサイハテは判断する。
「そうか、それで、お前は今何をしているんだ?」
冷たい視線を向けると、α9は憤慨した。
「君に会いにきたんだよ!! 暇だから!!」
その返答を聞いて、思わず押し黙る。
そう言えばこう言う奴だったと、思い出していた。行き当たりばったりで行動するアンダーカバー、金儲けと装備調達をやらせれば天下一品の工作員。それがα9と言う男だった。
思わず溜め息が出た、脱出する際の飛行機の調達はコイツがやったが、結局、脱出する羽目になったのはコイツのせいだったなと、思い出に浸る。
悪気はないのだろう、拳銃を収めて、手を差し出してやる。
「まぁ、いい。お前はそう言う奴だったな」
差し出された手を見て、一気に喜色満面へと変わるα9。
「うへへへへへ! さっすがジーク、僕の友! 解ってるぅ!」
手を取り、引き上げられたα9はとても嬉しそうだ。つい先程、サイハテを殺そうと考えた人間には見えない。
声色もすっかり乙女へと戻っている。
「そんでさ、ジークジーク」
「なんだよ」
「そこのお美しい御嬢さん方は誰? 君の恋人? 我らがジークにも春が来ちゃった? ぷっぎゃー! おもしれー! また裏切られるんじゃないのぉ?」
再び、拳が落ちた。
「うぐぉぉぉぉぉ……殴る事ないじゃん……」
頭を押さえて、涙声のα9。
「喧しい。俺の仲間に失礼な事を言うな」
サイハテの言葉を聞いて、α9の震えが止まる。
「……へぇ。君に仲間」
再び、ゾッとするような声色と共に、陽子とレアへ視線が飛んだ。サイハテがたまにやる、ガラス玉のような目を向けられ、思わず身が竦む。どこまでも見透かしてしまいそうな、曇りと生気のない瞳が、二人の姿を映し出している。
「へぇー、成程。ふぅーん、いいんじゃないの? 確かに、君が仲間と言うのも頷ける」
何が頷けるのだろう。
「だろう?」
対するサイハテはどこか得意げだ。
圧倒され、見定められ、怯えた二人には既についていけない世界になっている。
「サイハテ、そろそろその人が誰だか紹介してほしいのだけど……」
陽子は意を決して話しかける。
「ん、ああ……女装趣味の変態野郎だ」
「なんだよその紹介!! 第一変態は君だろう!!」
紹介する気のないサイハテに一頻り怒鳴ると、その女装趣味の変態野郎はこちらを向いて、恭しそうに礼をした。
「初めまして、小さな御嬢さん達。僕は元最初の番号付きの本山サクラと申します。以後、お見知りおきを」
そう言うなり、サクラと名乗った変態はこちらに向かって投げキッスを送ってきた。
妙にセクシーな動きに、陽子は思わず身を仰け反らせてしまった。
男の娘登場!
尚、商人枠の模様




