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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
三章:新しい旅立ち
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十六話:国母

 静かな食事が終わり、後は各々自由な時間を過ごしている。普段と違うのは会話がない事と、廃屋ではなく、朽ちたショッピングモールの屋上で各々が自由時間を過ごしていると言う事か。

 レアはしょんぼりと、陽子は相変わらず青い表情のままで、ハルカは収集したデータを編集する為にスリープモードになっている。

 世界がこうなった原因は陽子にあるかも知れない、レアが不用意に発言したこの言葉が、この静寂の引き金になった。


「……」


 サイハテは敢て言葉を発する事はなかった。

 人間はいつしか、自分ではどうにもならない事に遭遇する。誰かに助けを求めるか、それとも自分だけで立ち向かうか、どちらかを選ばなくてはならない。先程の陽子がやった自殺と言うのも一つの手段だが、それは逃げの一手だ。

 情けないとか、そんな理由ではなく、単純に、陽子にそんな道を選んで欲しくなかっただけだ。


(……頑張れよ)


 サイハテが置いたM1911をじっと見つめる陽子に対し、心の中で応援してやる。

 文明が滅んだのは自分のせいかも知れない、自分が産まれて居なければ、若しくは力を示す前に死んでいれば、こんな辛い世界になる事もなかった。

 自己の全否定、知性の高い人類だから陥る自己矛盾、一個の生命としてはあってはならない悩みに、陽子は直面している。


(その拳銃は君への救いだ、死んで欲しくはないが、冷静に考えて、死を選ぶと言うなら……もう俺は止めやしないよ)


 そんな道を選んで欲しくはない、だが、それでも逃げると言うのなら、もう止めはすまいとサイハテは海を眺める。

 こんな状況でも腹は減るものだが、何故だか食事を取る気はしない。


「……サイハテ」


 陽が水平線に隠れて、月が中天を突く頃に陽子が声をかけてくる。


「なんだ?」


 声のトーンはいつも通り。


これ(M1911)、返すから、私のそれ(SIGの弾)、返して」


 ついっと突き出される拳銃のグリップ。いつもの相棒、中華の頃から使っていた銀色のM1911(四十五口径)を掴むとサイハテはマガジンを返してやる。

 受け取ったマガジンをSIGに戻し、そのままホルスターへと戻す。


「答えは出たのか?」


 隣に胡坐を掻いた陽子に対し、問う。


「……出たわよ」


 不貞腐れたような物言いに、つい笑ってしまう。


「笑わないで。これでも必死に考えたんだから……聞いてくれる?」


 不安げな瞳が海を眺めているサイハテを映す。その視線はずっと遠くを見ているようで、ずっと昔を見ているようだった。

 彼女の頼みを断る理由はないと、頷いて返事をする。


「私、新しい国を作りたい」

「新しい国?」

「うん、外敵が居なくて、お腹も減らなくて、辛い思いが少ない国」


 少女が模索した道は、サイハテが選んだ道とは別の物だった。

 軍隊による統制ではなく、秩序を敷いて人を生かそうとする陽子に、サイハテは目を見開いて、少女を見つめる。

 随分と強い意思を宿らせた瞳が見えた。


「困難……いや、不可能だ」


 だが、その道は古代ローマが宇宙に行くが如しの難行だ。実質不可能に近いものだろう、何しろ人類の礎たる知識、技術の全てが失われているのだから。


「不可能なんてあるもんですか」


 だが、陽子はそれを切って捨てた。


「私は女よ。私が無理でも私が産んだ子が、産んだ子が無理でも、その子が産んだ子が、いつかその夢を叶えてくれる」


 遥か太古、最果ての時代から続くメカニズム。

 遺伝子(ジーン)を継がせる為だけではない、人類だけに許された永遠の継承法、模倣子(ミーム)を残し、時代へと託すのだ。


「だから出来る」


 そう言って、陽子は自身の胎を摩った。

 そこから産まれるのは、もしかすると、2500年振りの救世主かも知れない。

 かつての救世主は言葉と己の手で人を救った、救われてあれ、その一言で様々な人間を赦し、認め、導いた。

 いつかその言葉は、呪いに変わった、最も血を流した呪いの言葉に変わり果てた、だが、地獄の中でその言葉はどれだけ有難かったのだろうか。


「聖母……いや、違うな。君は国母になろうとしているのか?」


 陽子の言葉はそれに等しい、国を産むと言っているのと一緒だ。

 サイハテの疑問に対して陽子は優しく笑って教える。


「知らなかったの? 女って皆が国母なのよ。私達が産んだ子が国を作って、続けさせていくのよ? ほら、国母じゃない」


 一つの真理をここに得た。

 人が国を作る訳、国が続く訳、それを全て言葉にひっくるめられては、サイハテはぐうの音も出ない。


「……ああ、いい解決方法じゃないか。まさに、君にしか出来ない」


 確かに、産むと言う行為は男には出来ない。

 自分が出来る事なぞ、初めからなかったのだと、サイハテは自嘲した。


「……何他人事でいるのよ」


 答えを得て、ホッとしているサイハテは沫を食った。もしや、何か言い間違えたのだろうかと。


「私が産むのは多分、あんたの子よ。そんな予感がするの」


 サイハテの表情がこれ以上ない位の驚愕に変わった。

 手を出した覚えはない、そして出す予定もないのにこの物言いに驚愕する他なかった。


「な、なんで?」


 今、素が出たなと、陽子は確信した。


「だってさ、私にあんた以外に男いるの?」


 よくよく考えれば、当たり前の事である。一番近くて、最もマシなのが西条疾風だけと言うのだ。

 友人としてはいいが、痴漢や猥褻物陳列罪でとっ捕まりそうな男は女としても御免願いたいだろう。


「……消去法か」

「……残念そうね」

「少しな」

「少しなのね」


 陽子はすっかり苦笑している。


「……君に欲情したら、俺はロリコンじゃないか」

「あら、変態がそんな事気にするの?」

「ああ、ロリコンと変態は違う。ロリコンは変人で、変態は狂人だ。間違えないでくれ」

「どっちもロクデナシじゃないの……」


陽子・ザ・ヒーロー


ちょっとメガテンっぽくなってしまいました。

質問にもありましたが、各々のアライメントは

サイハテ:真なる中立

陽子:混沌にして善

レア:秩序にして悪

ハルカ:中立にして悪


陽子とレアは真逆の属性、相性最悪、二人きりで行動させると衝突します。

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