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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
三章:新しい旅立ち
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拾伍話:死にたいなら死ねばいい、俺は知らん

 レアは語る。


「くわしくしらべないと、わからない。けど、あなたのいでんでーたが、にゅーまばーす、につかわれた、かのーせい、たかい」


 新人類創生機、老人の思惑で人類を滅ぼす一歩手前まで事態を悪化させた悪魔の機械式レトロウイルス。

 それと同じ遺伝子が陽子の体を形作っている。


「あなたにも、こころあたり、あるはず。あなた、このせかいでも、びょーきにならない」


 文明の進歩と共に病原菌は強くなる、人類が強くなって繁栄すればするほど病気も強くなる。

 今は西暦2500年で、陽子は西暦2041年生まれの人間だ。進化した病原菌に対応する抗体はまず存在しない。そう、人間にかかる病気に罹らないのだ。


「で、でも……それだったら、レアやサイハテも病気になってないじゃない……」


 当然の指摘が飛ぶ。


「さいじょーはえふがたねつびょーに、かかったことがある。あなたにかくしていた。ぼくはこのじだいのにんげん。びょーきにはならない」


 レアに関してはそれだけではない。

 遺伝子操作が一般的な時代だったので病気に罹らない遺伝子を保持しているだけだ。


「いじょーのこーさつから、ぼくはかがくしゃとして、なぐもがにゅーまであるとそうてーする」


 新人類は現人類から突然変異、それはもう今までの進化行程を鼻で笑うような変異で生まれた存在だ。もう現行人類とは違う存在と化している為に、人間が罹る病原菌に感染しない。


「……そう、そうなのね」


 陽子はがっくりと肩を落とした。

 自分が人類文明を滅ぼした、それはほぼ確定だ。知らぬうちにやった事だとしても、許される事ではない。

 震える手で、ホルスターから拳銃をひっぱり出して、初弾を装填する。


「な、なぐも?」


 レアの声が聞こえるがもう気にしていられる余裕はない。

 こんな辛い時代にしたのは自分、そしてあの哀れな兵士(サイハテ)をこの地獄に叩き落したのも自分なのだ。

 蟀谷に銃口を突きつける。


「ねーちゃ! だめ!!」


 悲鳴のような叫びに、初めて聞いたなと的外れな事を考えながら、陽子は引き金に手をかける。

 拳銃を持った腕が凄い力で引かれる。それに驚いて陽子は引き金から指を離してしまう。手から拳銃が離れて、引いていたサイハテの手に納まる。

 サイハテはいつもの仏頂面で、拳銃から弾薬を引き抜いていた。陽子の視線とサイハテの視線が混ざる。

 先に視線を外したのはサイハテだ、弾薬を抜いた拳銃を陽子に投げ返し、そのままレアの頭に拳骨を落とした。

 鈍く、痛そうな音が屋上に響くと同時に、レアは頭を抱え込みしゃがんだ。


「言い方を考えろ」


 たった一言、諭して導くような声で言った。


「ごめんなひゃい……」


 それだけでレアを反省させた、自分の言い方が不味かったのを解っているのか、すっかり涙声である。


「よし」


 それ以上深く追求する事はせず、サイハテは陽子へと向き直る。再び視線が交差する、サイハテの感情のない瞳と、陽子の感情が消え失せた瞳が混じり合う。


「なんで?」


 先に口を開いたのは陽子だ。


「何がだ」


 質問に質問を返すサイハテ、テストなら赤点だが主語がないのだからこれで正解だ。


「話、聞いてたんでしょ」

「ああ、聞いていた」


 その返答に、陽子は歯を食いしばった。


「だったら……!」


 怒鳴ろうとして、気が抜けた。


「あんたを地獄に放り込んだのは、私じゃないの」


 その言葉に、サイハテは目を閉じた。

 かつて陽子は言った、それではサイハテが可哀そうだと。


「違う、君のせいじゃない。己惚れるな」


 サイハテの口から出た言葉は安い慰めでも、三文芝居の説教でもない、強い拒絶だった。


「俺はあの時死んでいなかった。体が保存され、復元できる技術があったのならば、俺はいずれ違う戦場に放り込まれていた。今、俺がここに居るのは決して君のせいなんかじゃない」


 だから、己惚れるな。


「文明を滅ぼしたのも君じゃない、君を悪用した誰かがやった事だ。君にそんな力はない」


 だから、己惚れるな。


「そもそも、君はそんな事出来ないだろう」


 陽子にそんなコネがある訳でも、力がある訳でもない。サイハテは陽子の無力さを訴える、確かに陽子は特別(スペシャル)だ。

 銃器の運用、及び命中精度に関してはサイハテを……いや、既存人類を遥かに上回る数値を出している。と、言うより、どんな銃器でも陽子が銃弾を外した所を見た事が無い。


「君の射撃技術は素晴らしいの一言に尽きる、だが、それがどうした。君が最高制度の自動小銃を持って、ビルに立てこもったとしよう。それで、君は何人殺せるんだ? 何を壊せるんだ? 精々、殺れても数百人、それっぽっちで君は誰かに殺される」


 故に、陽子にそんな力はない。


「もう一度言ってやる、己惚れるんじゃない」


 小さな十代の少女に、人類は滅ぼせない。例え、その遺伝子が人類全てを抹殺するように出来ていても、たった一つの生き物に、最大数を誇る単一種族の人間を滅ぼせやしない。

 そこまで言われて、陽子は下唇を噛んで俯く。


「……ふん」


 サイハテは鼻を鳴らすと、陽子の前に拳銃を置いてやった。弾の入ったマガジンは既に挿入されている、遊底を引けば、薬室に弾丸が装填されて撃てるようになってしまう。


「死にたいなら、もう止めん。後は好きにしろ」


 冷たく言い放ち、テントの設営に向かってしまう。戦友の好とやらで一度は止めたが、二度目を止めてやる程、サイハテは甘くはない。

 後に残されたのは、鼻を啜っているレアと、体を抱いて震えている陽子だけだった。


 なろう名物SEKKYOU入りやしたー!

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