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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
三章:新しい旅立ち
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14話:ニューマクイーン

 結論から言えば、碌な装備がなかった。

 考えれば結構当たり前のことで、このブラックマーケットでは決死の防衛線が起きていたのだから、まともな武器は全部外に並べられて使用された可能性の方が高い。


「結局、こんな物しか集まらんかったな」


 サイハテはプラスチック爆薬を手で弄びながら、言う。

 空にしてきた背嚢、及び弾薬ポーチにはこれでもかとばかりに弾薬が詰め込んであり、ここに放置されていた弾薬箱にも弾薬が詰め込まれていた。


「そうね、まともな収穫と言えばこれ位かしら」


 陽子が手に持っている物を掲げる。

 レバーアクション式のショットガンだ、なんと銃剣付き。


「うむ、それは君が持つといい」


 サイハテ好みの良い銃だが、背に腹は代えられない。遭遇戦に置いて陽子とレアを守り切れる自信はなく、それなら自衛して貰う他ない。

 銃器は少ないが、弾薬は集まった。

 これなら最低限の戦力は発揮できるなと、サイハテは探索計画を頭の中で浮かべる。


「それじゃあ、帰りましょうよ。レアが退屈そうよ」

「ああ」


 視線を送るとレアは壁に寄りかかって船を漕いでいた。

 荷物を担ぎ、序でにレアまで担いでおく。懐中電灯を手に持って、視線でハルカに合図する。

 電力源兼送電板の彼女が離れると、神殿は再び暗闇の中へと戻ってしまう。まだコンテナの中に弾薬がたっぷりと残っているが、もうここに用はない。

 サイハテ達は帰路へと着く。

 懐中電灯の灯りを頼りに、漆黒の道を行く。


「暗いわ」


 陽子が文句を言うが、発電所自体がもう存在していないので仕方ない事だ。人類にとって、闇は友ではないのだから。


「なに、行きに安全を確保したのだから、帰りは楽だ。帰りはよいよい、行きは怖いだな」

「逆とおりゃんせ?」

「そうだ」


 あれは本来、行くのは楽だが帰りは困難だ、それでも通りなさいと言う歌詞で、ちょっとした人生を語る歌となっている。

 歌っていた童達はそんな事思いもしなかったのだろうが。


「んー」


 肩で眠っているレアがサイハテの頭を叩く。


「五月蠅かったか、すまんすまん」


 童に怒られてしまったので、黙って歩く。

 結局、暗いだけで何があった訳でもなく、容易く警備室へと出る事が出来た。何かが出た形跡や、来た形跡は存在しない。

 緩やかに歩いていても、何かに出会う事もない。何事もなく、屋上に出る事が出来た。


「……む」


 外はすっかり暗くなっており、水平線の彼方に太陽が顔を隠しつつある。


「ゆっくりし過ぎたわねー」


 あっけらかんと言い放つ陽子を一瞥し、サイハテは顎に手を当てる。どうやら探索に時間を食われ過ぎたようだ。

 よくよく考えなくとも、コンテナの山を開いては閉じてと繰り返したのだ、これ位時間がかかるのは当たり前だろう。


「ここで野営しよう。陽子は飯の準備を頼む」


 だが、準備は万端だ。

 この世界では何が起こるか解らない故に、車には常にテントと調理器具を積んでいる。


「サイハテ、今夜何食べたい?」


 指示だけ残して、さっさと野営の準備に入ったサイハテの背中に、問いが飛ぶ。


「腹いっぱい食えればなんでもいい」


 陽子の色気ある問いに返した返答は、随分と色気のないものだった。


「君の飯はなんだって美味い」


 頬が膨れ上がった陽子は、すっかり不意打ちを受けてしまう。照れ隠しに何か出来た訳でもなく、サイハテは係留してあるジープへと向かってしまった。

 大荷物を担いだサイハテの昇降で、縄梯子が軋んでいる。

 次に顔を出したのはサイハテではなくハルカだ、サイハテと入れ違うように調理器具やテントなどを担いで登ってきたらしい。


「アタシはテントの設置に移りマスガ、その前にご用命はございマスデショウカ」


 陽子の前に、調理器具を置いたハルカは、そんな事を宣っている。


「んー、それじゃ、材料を取ってきて頂戴。キャベツの箱に入っている缶詰三つと、みかんの箱を持ってきて」

「かしこまりマシタ」


 そう言うなり、ハルカは再び階下に戻って行った。

 膝を抱えると、じくりと右目が痛む。

 あの時もそうだった、サイハテの夢を見た時も夢の中で右目が痛んだ。この右目は昔からそうなのだ、危機や悲しい事が起きるちょっと前に、じくりと痛む。

 この痛みを放置すると幻覚が見え始め、そして何か悪い事が起きたり、見えたりしてしまう。


「なんなんだろう、これ」


 幼少期からの付き合いだ、鬱陶しいとは思うが、慣れたものだ、痛みは問題ない。


「なぐも」

「うぇっひゃい!」


 考え事をしていたら、レアが顔を覗き込んでいた。


「そのめ、いつからそう?」


 その眼とは右目の事だろうか。


「物心ついた時から、痛むのよ」


 ちなみに陽子の右目はぼんやりと赤く光っているが、本人は気が付いてないようだ。

 陽子の返答を聞いて、レアは笑みを形作る。


「そう」


 背筋が凍るような邪悪で歪な笑みだ、とても幼子がしていい表情ではない。唖然としている陽子に、背を向けたレア。

 その背にたまらず声をかけてしまう。


「こ、この目はなんなの?」


 向かう先はサイハテの居るジープがある階下だ、呼び止めなくてはならない気がした。


「ひゅーまんだい、かんせんへんいたいを、うみだす、ういるすには、おりじなる、そんざいする」


 いつもの抑揚のない語りを見せ、レアはこちらに顔を向ける。


「それはぼくも、しらないことだった」


 レアは人類絶滅機の研究に関わってはいない、彼女が関わったのはそれを無効化する新薬の研究だ。知る由がない。


「ひゅーまんだいは、ほんらい、にゅーまばーす、とよばれる、しんじんるいを、うみだすけんきゅーだった」


 レアは語る、それはサイハテに語った事と遜色ない事実を、陽子に突き付ける。


「あなたは、にゅーまくいーん。けんきゅーのぼたいとなった、しぜんはっせーした、しんじんるい」


 その言葉に、陽子は頭を殴られた気分になる。

 何しろそれは陽子の遺伝子が人類を滅ぼしたと言っても過言ではないのだから。


 文明を終焉させちゃった系ヒロイン、陽子。

 尚、本人の過失でもなんでもないもよう。

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