十話:超いらねぇ
二人の間に沈黙が流れる。
沈黙を破ったのは陽子の投げた小石が、水面に落ちて立てた音だった。
「殺される為、ですか?」
「そうよ」
また一石、海へと向かって投じられる。
「……わかりマセン」
再びの沈黙の後、ハルカが絞り出したのはその一言だった。
「アタシのメモリーには、生き物は生きる事を優先するはず、とありマス。でも、西条さまは……」
悩む姿はまるで人間そのものだ。
戦闘用メイドロボ、なんてふざけた名称だが、彼女の感情制御等は人間のソレと変わりなかった。
「サイハテは、もう戦いの中で死ぬしか救われないのよ。そうじゃないと背負ってきた物が全部無駄になっちゃうから。そうじゃないと、報われない」
膝を抱えてブスくれる陽子。
「このままだと、アイツはもう一度ジークに成っちゃう。私が、あんたが、レアが、力のない人間達が……アイツを殺す。サイハテって言う人間を殺して、ジークなんてふざけた象徴にしちゃう」
陽子は馬鹿ではない、ジークの名が、この時代でどんな物であるかは理解している。
自由と平和の象徴、崩壊前に作られたイメージはこの時代にも形を変えて根付いている、それは弱者がすり寄るには十二分に魅力的なものだと言う事も。
「私はそんな事、絶対にイヤ」
決意を固めた少女の瞳に、機械式メイドは何も言えなかった。話す言葉を持たなかったとも言える。
「ぶえっくしょい! うぉわあああああああああああ!?」
サイハテのクシャミにより、天井から脆くなった床材がボロボロと落ちて来た。固い鉄筋コンクリート製である、直撃すれば頭蓋骨を凹ます程度の威力はあるはずだ。
直撃を避けるために飛び込んだ店舗はお望みの電気屋だったのが不幸中の幸い、怪我の功名とも言えるだろう。
「ひ、ひぇ~~~~~~……」
男、西条疾風年齢定かではないは終末変態の恐怖と鉄帽の大事さを知った。
何はともあれ、45口径拳銃弾が残り三発となった為、ここで冒険が打ち切りになったのは良い事だ。
サイハテが向かった先はイモガイの群生地で、大漁だった。
伏せた床からゆっくり身を起こすと、サイハテは店内を見渡した。
「……随分、小さいんだな」
電気屋はあまり来た事はないが、ショッピングモールの電気屋自体は初めてである。自分の記憶にある電気屋と比べて、と言う意味だ。
朽ちた洗濯機があるレーンを歩きつつ、物珍しそうに商品を見て回る。
(全自動洗濯機に、お米の炊ける洗濯機……おお、オーブン付き洗濯機とかあるじゃないか! 超いらねぇ!!)
見て回ったものは狂気しか感じないラインナップだった。未来人は何を考えてこんなものを作り上げたのだろうか。
次にサイハテが差し掛かったのはパソコンのコーナーだ、腕輪のように装着できる小型パソコンが主流だったようだが、生憎使えそうなものはない、全部潮風によって朽ちている。
回収して薬品で分離すれば資源程度にはなりそうだが……持って帰っても二束三文だろう。
「……む?」
次に見たのは庭のお手入れコーナーだ。
まるでルンバのような芝刈り機だが……傍にあるのはひょっとしなくても外で使う発電機ではなかろうか。
(だが、壊れているな……バックヤードに新品があるかも知れない。行ってみるか)
サイハテが知っているガソリン式の発電機より大分小型で、水素式らしい構造だが、複数持って帰って直列で繋げば電力確保は容易だろう。
そう考えて、サイハテはバックヤードへと歩いて行く。
九話のコピペミス分




