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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
序章:傾いた総合病院
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六話

 町の大通りは四車線であった、周囲には電気屋など、大きな建物を必要とするお店が並んでおり、傾いたビルがアーチを作り上げて、大通りに影を落としている。アスファルトの罅割れから顔を出した青草が、風に煽られてゆっくりと揺れた。

 沢山の放置車両の間を、陽子とサイハテはのんびりと歩いて抜けて行く。

 サイハテの見立てでは、直せそうな車は存在しなかった。それどころか直し方すらわからない車両が多々存在している。モーターカー、ハイブリットカーなんかはいい方で、明らかにホバーで走っていそうな車や無限駆動が付いた車までもがあった。

 陽子は車を直せないかなんて聞く事はしない、何しろ触れれば崩れそうな位に錆びた車ばかりだからだ。まぁ、車は五年も放置すればオーバーホールが必要な事は知らないのではあるが……。


「あ、この映画。ここまで続編出てたんだ」


 そんな中、陽子は映画館のポスターを見てはそんな事を言いだした。

 隣に立ってポスターを見てみると阿部ンジャーズ24と題名が書かれているのが確認できる。


「アメコミの映画か。主将(キャプテン)はこんなに長く戦ってたんだな……」


 サイハテの時代でもやっていた映画である、それの続編がここまで続くとは驚きだ。


「へぇ、サイハテも映画とか見るんだ?」

「君は俺を何だと思っているんだ……」

「え、スパイって言う位だから常に世界中を飛び回ってるのかなって」

「諜報員にも休日位あるさ」

「ふーん」


 あまり興味なさそうな言葉に、サイハテは肩を竦める。

 他にも他愛のない事を話しながら二人はゆっくりと川にかかる橋へと歩いていくのだ。

 話している内容は陽子の時代でやっていた阿部ンジャーズの内容で、それは中国内戦を舞台に阿部達が活躍する物語であったようで、それを話している最中に陽子は唐突と質問を繰り出した。


「ねぇ、サイハテが生きてた時代って日中開戦確実って言われてた時よね? 確か、運良く中国内戦が勃発して日本は戦争を免れたのよねぇ……私、運良く内戦が勃発するとは思えないんだけど」


 陽子は映画の話から、なんとも答えにくい事を聞いてくれる。サイハテも思わず苦虫を噛み潰したような表情になっている。


「そーだなー、内戦を起こすにも武器や弾薬、それを扱う知識に戦争継続の為に莫大な資金が必要だからな。特にあの時代は戦車やら戦闘機やらやたら高級品だし、内戦相手の中国は押しも押されぬ大国だったからな。尚更金が必要だ」


 それを弾圧されている少数民族が用意できるとは考え難い。


「へぇー……日本一国でも厳しそうな位には、お金かかりそうよね」


 またまた答え難い事を聞いてくれるなと、サイハテは脳内でぼやく。こう言った歴史の裏側は知る必要がない事が多々ある、特に陽子のようなお日様の下で生きる少女は殊更そうだ。

 興味深々と言った視線を向ける陽子に、サイハテは小さく溜め息を吐くのであった。


「日、米、英、仏、印、独、露、パ。この国を聞いて答えを当てられたら、君は賢いな」


 ただ答えるばかりでは詰まらない、ちょっとしたなぞなぞを出す。


「なるほどね、戦後に分割された中国の復興支援を行って、何故か未曾有の好景気に沸いた国家群が協力していたのね」


 陽子の納得が言ったような表情に、サイハテは曖昧に笑っておく。そして彼女に知らなくてもいい知識をもう少しだけ授けてやろうと口を開いた。


「復興支援と銘打って、ありゃただの市場独占だ。所謂WWⅡ以前のブロック経済みたいなもんだ。分割された国も八つになっただろう?」

「……うへぇー、国同士の付き合いってドロドロしてるのね」


 誰が知らない民族のどうでもいい独立とかを莫大なお金を払って支援するのだろうか、お金が返ってこなきゃ誰もそんな事やらないのは自明の理だ。


「そりゃな、国ってなんで存在していると思う?」


 もう一度肩を竦めたサイハテ。彼はそんな事を尋ねてくる。


「え、えーっと……多分、纏まって、他国の人間からお互いを守ったりする為かな?」

「理由の一つだな」


 サイハテが求めている答えはこれではないのだろうと、陽子は再び首を捻る事となる。ほかにも言語の為だとか、昔からそうだったからなんて答えが浮かんだが、これも求められた答えとは違うような気がする。


「わかんないわ、お手上げよ」


 五分位唸ってみたが、陽子には答えが浮かばなかった。


「正解は纏まる為に都合がいいからだ、人間ってのは一人では金だってうまく稼げないし、増えるにもソロから相手を探すより纏まった所から誰かを見繕った方が便利なんだ。金を稼いで明日の糧を得る為に、男女のお見合いの為に、そして力が強いだけのバカがそれを邪魔しない為の抑止力に、そうやって纏まって纏まって纏まり続けて巨大な群れとなったのが国家だ。言わば人類が発展する為の超巨大なシステムだな」


 サイハテの語る言葉は一つの答えであった。人類が発展する為の巨大なシステム、その言葉は陽子にも非常にしっくりきたのだから。


「……言われてみれば、資本主義国同士は仲いいもんね」


 表向きはな、そんな言葉は飲み込んでおく。


「そう言う事だ。東西冷戦なんかも、どっちが人類を発展させるために都合がいいか(便利なのか)を決めるシェア争いと言ってもいい位だしな。言わば窓達とりんごの喧嘩だ」

「窓達とリンゴの喧嘩? ……あっ」


 どうやら察してくれたようだと、サイハテはくつくつと笑う。製品同士の争いと主義同士の争いはよく似ている、敗れた方は小さな市場でひっそりとやっていくしかないのだ。戦うのは営業マン(ウォーリアー)兵士(ソルジャー)かの違いはあるが。


「でも、それならなんでその巨大なシステムが失陥したのかしら」


 車の割れた窓を覗けば白骨の一つ二つは容易く見つかってしまう、そしてその傍には必ずと言っていいほど自害に使われた拳銃らしきものの残骸が落ちているのだ。


「国家と言うシステムは金と言う電気と人間と言うハードがなければ動かない」


 サイハテはそれ以上は言葉を紡ごうとしない。


「……つまり、それのどちらかが欠けたってこと?」


 陽子の問いに、肯定の沈黙で返事をする。

 代わりにとサイハテは陽子の細腕を掴むとさび色のトラックへと連れ込んで口を押えこむのだ、視線はトラックの向こう側へと向けている……陽子はサイハテの腕を叩いて、騒がないからこれを外せと合図する。


「……どうしたの?」

「人間だ」


 首を傾げた陽子に、サイハテは小さな声で簡潔に答えてくれる。

 普通は喜ばしい事だが、どうにもサイハテの表情は険しく、状況は普通じゃない事が陽子にも窺える。腰のホルスターに差したSIGへと手を伸ばす。


「……様子がおかしいな。ありゃ誰かを追いかけてる」


 サイハテの言葉に、陽子も少し気になってトラックの影からちょこっとだけ顔を出すのだ。

 視線の先には猟銃のボルトアクションライフルで武装した人間が一名とポンプアクションショットガンを持った人間が三名存在している。

 まるで誰かを探しているように血走った眼で彼方此方を見渡して怒鳴り合っているのが聞こえる。


「あの餓鬼どこに行きやがった!?」

「おちつけ! 10歳位の雌餓鬼だ! そんなに遠くまでは行ってない!」

「餓鬼とは言え、久々の女だ。絶対逃がすんじゃねぇぞ、ボスに殺されちまう」


 後は好き勝手な事を叫びながら、男たちはこちらへと歩いて来ている。

 サイハテの目がすぅっと細まり、腰の刀に手を伸ばす。


「陽子、ここに居ろ」


 サイハテの言葉に陽子は驚いて振り返る、殺しちゃうの? なんて聞く前にサイハテの姿は既に見えなくなっていた。

 思わず、目が丸くなってしまう。耳元で囁かれた言葉に反射してすぐ振り返ったはずなのに、彼の姿はまるでそこになかったかのように消えていたからだ。


「はやいわよぉー……」


 小さな呟きは届いたかすらわからない、諦めてあの男達を見守るべきであると判断して、視線を元に戻す。

 驚く事にもう二人居なくなっている、残りの二人は気が付いてすらいない。そしてライフルを持った男が、音もなく背の高い草むらへと引きずり込まれて姿を消した。代わりに草むらから出てきたのはサイハテ、こちらからは丸見えであるが、男が周囲を見渡す度に死角になる場所へと身を隠している。

 通った場所の草すら揺れてないのは驚きである、あれじゃどう頑張っても気が付く事は不可能だ。

 そして背後まで忍び寄ったサイハテは男の首を一気に絞めるとテコの原理を利用して曲がっちゃいけない方向へと曲げるのだ。


「ああ、もう終わったのね」


 サイハテは立ち上がって陽子へと手を振っている。

 トラックの影から体を出すと待っているサイハテの元へと近寄る陽子、まさか銃器を持って警戒状態になった人間四人を一切気が付かれずに無効化するとは思っていなかった。


「あんた、凄まじいわね」

「こいつらがよわっちいだけだ」


 そう言うと、男の一人が持っていた猟銃を渡してくる。弾は弾倉を薬室に入っている散髪と、男のポケットに入っていた五発しかなかったそうだ。


「ありがと、こっちのが使いやすいわね」


 陽子は拳銃のホルスターをマジックテープで留めると、猟銃と弾丸を受け取る。


「900メートルまでなら必中させられるわ、援護は任せて」

「……そいつの射程距離は500メートル位だぞ」

「曲射弾道で当てるから心配しなくていいわ」


 今度はサイハテが舌を巻く番であった、スコープ無しで1キロ近い狙撃をすると言っているのだから驚きである。

 そんな事より、陽子は先程からずっと気にかかる事がある。


「ねぇ、あいつらが言ってたメスガキって……」


 死体の装備品を漁って、ショットガンを分解しては質のいい部品を組み合わせてるサイハテに陽子は遠慮がちに声をかける。


「助けて欲しいってんだろ?」


 こちらに視線すら向けてくれない、何せ奴らに接近して戦い、その救った子供も陽子も養うのはサイハテだ。


「……うん、サイハテが危険なのはわかってる。でも」


 それでも助けたい、自分の力ではなくて他人の力を当てにして。


「あーあー、皆まで言うな。大丈夫だ、しっかりと助けにいくつもりだからな」


 サイハテは俯いていた陽子の心情を察しているのかいないのか、ショットガンに弾を込めながらあっさりとそんな事を言い放った。


「でも、サイハテも危ない……」

「はっはっは、心配するな。これくらいの相手なら装備品が向こうから歩いてくるようなもんだ。人助けして、俺らも強くなって、ほら、WIN-WINじゃないか」

「その用法はちょっと違うと思うわ」

やべぇ、サイハテのスペック考えたらすっげぇ地味に終わっちゃう、全部サイレントキルで終わっちゃう、敵全部首絞め柔道CQCで終わっちゃう(焦燥)


よし、敵に文明の利器を与えよう!(そして始まる設定の破綻)

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