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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
三章:新しい旅立ち
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八話:イモガイ

 死体から点々と続く真新しい足跡を辿り、サイハテは歩く。

 丸い足跡は奥へと続いており、どうにも、誘い込まれているような錯覚を覚えるが、そんな事はないはずだと自分に言い聞かせる。


(奴が得意なのは待ち伏せ、だが、あの遺跡漁りが死んでいた場所に待ち伏せが出来るような場所はなかった)


 何もない通路の真中で気づかれないように一撃、中々難易度の高い待ち伏せ攻撃だ。

 しばらく進んでいくと、唐突に足跡が途切れていた。

 周囲に待ち伏せしているような生き物も、擬態しているような形跡もない。移動中にこれだけ足跡を残す生き物なのだから、擬態する周りだけ足跡を消すような習性はないだろう。


(俺ならどこに隠れる? 何もない通路、一切抵抗されないように毒を打ち込むなら……天井か!)


 その思考と共に上を見上げると、そいつは居た。

 円錐型のド派手な甲殻の先から赤い目玉のついた触手と捕食器官を出して周囲を窺う貝類、此奴は……。


(イモガイか!)


 サイハテは思わず手近にあった瓦礫へと身を隠し、標的の観察を続ける。


(奴が使う毒はコノトキシン、ペプチド混合物から構成される神経毒だ。成程な、あのサイズが分泌するコノトキシンを喰らえば一撃で体の自由が奪われるのも納得だ)


 目の前にいる巨大イモガイは、サイハテと並べればほぼ同じ大きさだろう。奴は獲物を見つけると毒針を飛ばしてくる習性があり、その毒針は通常サイズでのイモガイでもウェットスーツを貫通する威力を誇っている。

 無論、通常のイモガイでもその毒は死に至る程度には強力な物だ。


(しかし、運が良かった。貫通力に劣る.45ACP弾では貫通力に不安が残るサイズだったな)


 そんな事を考えながら、先程拾った猟銃を構えて目標をしっかりと狙う。試射もしていない銃だから狙いに不安が残るが、あれだけデカイ目標を十メートル付近で胴体の真ん中を狙って撃てば外れる事はない。

 既に初弾は装填されており、後は引き金を引くだけだった。絞るように引き金を引くと轟音や閃光と共に弾頭が放たれて、巨大イモガイの胴体へと向かっていく。

 結果は、サイハテでも驚く他なかった。


「うそん」


 7.62mmNATO弾は遠距離からでも人間の頭蓋骨を粉砕する威力を誇る、別の部位に当たっても、まるで抉り取られたような傷跡を残す弾丸であり、その威力は申し分ない。

 だが、あのイモガイの甲殻はそれを容易く弾き、今現在、サブマシンガンのフルオート射撃のように毒針を飛ばして来ている。

 サイハテが隠れた瓦礫、恐らく、二階部分を支える支柱に突き刺さる程の威力だ。


(……マジかよ。あの甲殻の硬度は異常だぞ)


 弾薬が劣化していた可能性等はあり得ないだろう、見たところ、弾薬自身は新しいし、自衛隊が使用しているような減薬実包等ではない。

 しばらく隠れていると毒針の嵐は止み、イモガイはこちらをじーっと見つめるだけになった。

 毒針の品切れと言う訳ではないだろう、何しろ奴の毒針は巻き取り式だ、放とうと思えばまだ放てるはずだ。

 とにかく、胴体を狙っても弾薬が無駄になるだけだとわかった。それに、あの毒針の弾速は脅威だ。


(だったら)


 猟銃をスリングで肩にかけ、サイハテはいつもの相棒(M1911)を引っ張り出す。

 イモガイの貝殻は円錐型で、大抵が太い方ではなく先端の方に殻口を持っている。つまり、弾丸の貫通力に期待して横着するより、真面目に本体を狙えばいい話なのだった。

 サイハテは上着を脱ぐとイモガイへと投げつける。

 奴が気を取られた一瞬の隙に身を踊り出し、柔らかい本体を撃ち抜いた。


「………………」


 天井から落ちて来たイモガイを見て、安堵する。

 もう二度とこんな生物なんぞと戦いたくないものだ。

 二足歩行の足、と思われていたものは吸盤のようなもので、この巨大イモガイはそれを使って歩いたり天井に張り付いたりとしていたらしい。


「面白い生態だな、此奴は」


 本来、イモガイは獲物を丸飲みして小魚や虫などを捕食する。しかし、地上には大型の生物が多く、丸飲みは効率的でなかったのか、伸縮自在な口は退化し、ストロー状のヤツメウナギの様な口へと変わっている。

 どうやら、これで獲物の肉を食い破り、栄養価の高い内臓を擂り潰しながら啜っていたのだろう。

 もし食われたら地獄である。


(殺しておいてよかった)


 脳裏に浮かぶのは陽子やレアの事だ。

 彼女達がこれに襲われたらと思うとゾッとする、さり気なくハルカをハブったが彼女はガイノイドだ、壊れたら修理すればいい。


『サイハテ、銃声が聞こえたけどどうしたの?』


 巨大イモガイを見分していると、陽子からの通信が入る。


「ああ、感染変異体らしき生物と交戦になった。そっちにはいないと思うが……もうあまり動き回るんじゃないぞ」

『……危険な生物だったの?』


 不安そうな声が聞こえる、どうせ陽子の事だ。危険な生物の情報ではなく、サイハテの安否を気遣っているのだろう。


「物凄くな。だから内部には入らず、屋上に居てくれ」


 そう返答すると、陽子は少しばかり押し黙り。


『危なかったら、逃げてよね』


 と釘を刺しに来た。


「ん、わかった。レアから頼まれた探索物があるから、切るぞ」


 こっちは危険など百も承知だ。今更釘を刺される事はないのだ。


『うん、気を付けてね』


 通信はそれだけで終わった。

 サイハテは少しばかり無線機を見つめた後、再び、発電機の捜索に戻るのだった。


 なんでこう、私は形容しにくい生き物を敵として出してしまったのでしょうか?

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