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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
三章:新しい旅立ち
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六話:新たなる相棒(武器)

 二階の最西端、業務員用通路の奥に目的の物はあった。巨大なパイプ群とそれを統括する一つのコンピュータ。

 レアは言う。


「たぶん、これ。でも」


 それ以上は聞かなくてもわかった。

 制御用パネルに光が灯っていないのだ。

 メインの電源は発電所自体が停止しているので通じているはずがない。となると予備の電源に切り替えなくてはならないのだが、切り替えるスイッチはここには無い様だ。


「サブに切り替わってないか……それとも電源自体が故障しているか、か?」


 前者なら未だしも、後者になるとお手上げである。


「んー、こしょーは、してない、とおもう」


 無理矢理繋げたスマートフォンのようなコンピュータの画面を見ながら、レアは続ける。


「でんきじたいは、きている、でも、でんきがたりない」


 発電量が不足しているせいらしく、コンピュータを弄りながらレアは呻いていた。

 館内全体の配線図らしきものが、手持ちコンピュータの画面に表示されている……が、配線図自体も過去の物とは違い、サイハテには何がなんだかさっぱりわからない有様だ。


「おくじょーの、ひじょーよーはつでんきがうごいていない……? さいじょー、どこかで、はつでんきをみつけてきてほしー。できれば、こわれていないやつ」


 発電機をつなげて電力を確保しようと言うのだろう、となれば真っ先に向かうべきは屋上であるが、生憎、屋上の出入口は水を越えなくてはならない向こう側に存在する。

 海水につけても大丈夫な発電機など存在しないだろう。


「わかった、適当に探して来る。バッテリーでもいいか?」

「うんむ」


 機械を弄りまわすレアの生返事を聞きつつ、サイハテはフロアの電気屋を探す為に踵を返した。


「足跡を見る限り敵はいない。だが、もしもの事がある。ヤバかったら無線を鳴らせ」

「んー」


 本当に解っているのだろうか、だが、夜になる前には撤収したい。

 千葉の廃墟街で夜を迎えた時にサイハテは感じた。夜はもはや人類が支配出来る時間帯ではないと、確信した。

 業務員用通路から出ると一気に潮の香りが強くなった。足の真下に海水が溜まっているので当たり前である。

 周囲の元貸店舗にはブティックが並んでおり、この辺りは服を売る為のフロアだったのだろうなとサイハテは予想する。


「……よくよく考えれば、俺、ショッピングモールに来るの初めてかも知れん」


 そんな言葉が思わず出てしまう。

 磨き上げられた床は砂埃と劣化によって見る影もなく、嘗ての御洒落な店舗はお化け屋敷の方がマシな風体だが、何事も人生初体験と言うのは悪い事ではない。

 ふと、自分達が来た方向を見ると陽子が意気揚々と物品を詰めた段ボールを持ち、屋上へのエスカレータを登っているのが見えた。

 まだ何か欲しい物があったのだろう。


(しかし、あんなに装飾品や服飾雑貨を持って帰って何をするんだ? 生きるには不要だろうに)


 先程の物色で陽子が持ち出した服は迷彩効果も防御効果も望めないような服だった。サイハテはそれが理解できずに唸るしかなかった位である。

 確かに着飾ると言うのは潜入に必須の技術だ、御洒落も出来ないような奴が潜入工作員に成れる訳がない。礼服とて気崩したり、靴を考えたり、はたまた装飾品等で御洒落が出来るのだ。

 だが、陽子のように段ボール三つ分も必要はないだろう。


(普段着にでもするのか? 全部着る前に夏が終わるぞ、あの量は)


 昔から思っていたことではあるが、女性と言うのは理解し難い、洒落に気を使い、顔に気を使い、見栄に気を使う。サイハテには到底理解できない行動ばかりだった。

 服なんぞ取り合わせがおかしく無ければ、機能的な方がいい。寒い真冬に、無理してスカートを穿いてくる心理など、サイハテは理解が出来なかった。女達には男の為、と言う名分があった様だがあれで買えるのは情欲か憐憫だけだ。

 陽子から視線を外すとサイハテは緩やかに歩き出す。

 頑丈な安全靴の足跡が、埃積もった床に点々と残っている、自分の足跡と、相変わらずの丸い足跡。

 その足跡を見て、サイハテは気を引き締めた。


(足跡が新しいぞ……)


 思い返すと、あの崩落はつい最近だったはずだ。つまり、この足跡の持ち主はこちらに閉じ込められていただけでいなくなった訳ではない、運がいいのか、レアが居る業務員用通路の前に足跡はなかった。

 だが、向こうに行かないなんて保障もない……陽子が無事なのが救いか。とサイハテは拳銃を抜き放った。

 フラッシュライトを着けて、足跡を追跡する。

 辺りは耳が痛い位の静寂に満ちている、犬の様な耳を持っていれば陽子が歩く音だって聞こえるだろう。

 三階に続く足跡を辿って、サイハテが見た物は新鮮な死体とそいつの足跡だった。腹を食い破られ、腸を綺麗に食われている。苦悶の表情だ。

 まだ温かく、今日中に死んだ事は間違いない……傍らにはガンスミスが作ったであろうボルトアクション式の猟銃が転がっていた。


「ほぉー……」


 手に取って確かめて見ると美品だった。

 ボルトを起こして、引くと空の薬莢が飛び出し、地面に当たって澄んだ音を立てる。

 7.62×51mmNATO弾だ、陽子の使っている猟銃より口径がデカイサイズの弾薬だ。自衛隊では機関銃弾として使用されており、広く流通している弾薬の一種だろう。


「これはいいっ!」


 木で作られた台座の上に、黒鉄の銃身がはめ込まれている美しい銃だった。銃身にクロムメッキが施されているから銃身の寿命は長いだろう、中古品と言う事を考えてもいい拾い物だった。

 なんて感激している場合じゃないとサイハテは猟銃を取りまわして周囲の警戒に勤める。

 案の定、真新しい足跡が存在した。

 死体の物と、丸い物だ。

 死体の足跡は見える範囲で辿ると、ここに入ってすぐにやられた事が窺える。開けられた窓がすぐそばに存在した。

 丸い物はどうにもおかしい、この死体まで足跡が続いているのは問題ない。だが、この死体の周りには争った後……踏み込んで飛び跳ねたり、攻撃を受けて踏ん張ったりした跡が一切存在しない。

 即ち。


(待ち伏せ(アンブッシュ)されたか、しかも即効性の強烈な神経毒やらを持っているな)


 一撃で自由を奪われ、生きたまま食われた事になる。

 そして相手が待ち伏せ型の狩人だと言うのも解った、死体に続く足跡と、死体から続く足跡の新しさが違うのだ。


(足跡から見るに二日三日で待ち伏せ場所を変える狩人、相手の自由を一撃で奪う能力を持つ……しかも開けた場所での奇襲か。体色を変える能力を有している……訳ではなさそうだ。周囲に待ち伏せした痕跡がない。となると)


 サイハテの頭の中では既に相手の能力が段々と判明してくる。そして、サイハテは一筋の汗を流した。

 相手は相当やばい生き物である。

 彼女らの為にも狩らなくてはならない。


お待たせいたしました。

亜細万、インフルで沈んでおりました。

とりあえず、うちの職場にインフルを蔓延させたおっさんを殴ってきます。

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