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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
三章:新しい旅立ち
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四話:ショッピングモール

 フラッシュライトを着けて、サイハテは拉げたドアから内部に身を滑り込ませる。

 元々ショッピングモールだからか、全館吹き抜けであり、サイハテ達がいる最上階からは辺りがよく見えた。


「……一階は浸水、パッと見怪しい奴はいないな」


 壁の罅割れから海水が染み出しており、そのおかげか一階はすっかり海の底だった。浸水が始まったのは最近で次訪れても、完全に水に飲まれる事が予想できる。


「運が良かったのね。これなら化粧品とかもあるかも……」


 隣から顔を出して階下を覗き込む陽子。レアは身長が足りない。

 そんな陽子を一瞥して、止まってしまったエスカレータを下っていくサイハテ、視線は油断なく動き回っている。

 見る場所は足元が主だ、足跡と言うのは生き物なら必ず残す物であり、同時に隠すのが難しい物でもある。

 例えば泥棒に入られた家で、警察が最初に探す物は足跡だ。侵入経路の特定の為だったり、犯人がどう動き回ってどれくらい家に居たかの想定などが出来る。


「……丸い足跡、二足歩行か、指は無し、まるでめんこでも叩きつけた後のようだな。しかもかなり古くてでかい」


 相当古くなった足跡を発見したが、特に有力な情報となる訳でもない。


「レア」


 流石に真ん丸の足跡を持つ生き物はサイハテの脳内ライブラリーには保存されていないので、間違いなく感染変異体だろう。


「なぁに?」


 声をかけると、どこで見つけてきたのか、お菓子でパンパンに膨らんだリュックサックを背負うレアがひょっこりと現れた。


「真円の足跡を持つ二足歩行の生物を知っているか? 若しくは自動機械兵器でもいい」

「そんなちんみょーなせーぶつ、しらない。どろーんも、にそくほこーにいみがない。なんせんす」

「それは俺のセリフだな。だが……弱ったな。何かが居るのは解ったが、その何かが解らないぞ」


 二人揃って、頭を悩ませる。

 その隙にと陽子はハルカを伴って好き勝手に資材を集めている。物品は化粧品や服、調味料や缶詰などが多い。

 次々と段ボールが入り口近くへと並べられて行っている。


「……一旦、積み込みするか」

「そーだね」


 考察はそこそこに、サイハテは再び車の元へ取って返す羽目になった。

 段ボールが積み上げられた場所に赴き、担いで移動しようとした矢先にあるものに気が付いた。

 視線の先にあるのは音楽データショップだ、そこに置かれた懐メロの媒体を取る。色あせたパッケージにはどうも見覚えのある少女がフリフリの服を着て映っていた。


「……陽子?」


 髪型も違い、化粧をしているがこれは間違いなく陽子じゃないだろうか。

 視線をレアと楽しそうに話している陽子へと向ける。そしてもう一度音楽媒体のパッケージと見比べてみる。


「おーい、陽子ー。これお前かー?」


 手に持った媒体をひらひらさせて陽子に尋ねると、三発の弾丸がその媒体を貫いた。

 顔の部分、アイドルとしての芸名の部分、曲名の部分を器用に撃ち抜いており、それを持っていたサイハテは穴の開いた部分を見つめる事しか出来なかった。


「………………」


 いい腕だと思うしかないだろう、見事な早撃ちだった。

 いつの間にか歩み寄っていた陽子がその媒体を奪い、海水へと投棄する。


「私じゃないから」


 その言葉は有無を言わせぬ物だったとサイハテは後に語る。


「イヤ、どう見てもあれはお前「私じゃないから!!」……お、おう」


 思わず言葉が裏返ったが、陽子の強い拒絶に納得するしかなかった。少女の反応はまるで恥部でも見られた乙女のようだった。

 顔を鬼灯のように染めて、こちらを見ている陽子にサイハテは声をかけてやる。


「見事な早撃ちだった。だが、肘で衝撃を吸収する癖は直した方がいい。排莢不良を起こすぞ、戦場でそれは命取りだ」

「……他に言う事ないの?」


 妙にずれた事を答えたせいではないだろう、陽子の声は羞恥で掠れていた。


「パッケージの衣装、可愛かったぞ」

「そうじゃないぃぃぃ……」


 この答えも間違っていたようだった。

 顔を両手で抑えてしゃがみ込んでしまった陽子を一瞥し、サイハテは今度こそ食料品等が詰められた段ボールを担いで今度こそ積み込みをしようと歩き出す。

 陽子にはハルカとレアがついてくれている。とにかく積み込んで地下へと向かわなくてはならないのだが……あの海水が問題だ。

 三階建てのショッピングモールだが一階部分は漏れ出す海水によって完全に水没、二階部分にも大分水が来ている。


(どうにかして排水しないとな)


 銃器にとって海水は天敵だ、下手につけようものならば一回で廃棄するしかなくなってしまう。

 サイハテが荷物の積み込みを終えた頃には陽子はすっかり立ち直っているように見えた。音楽データ自体は既に懐にある、とは言わない方が良さそうだった。


「レア、あの海水を除去するにはどうしたらいいと思う?」


 こう言った時に役に立つのはレアだ。


「んー、かんすいじのために、はいすいしすてむがあるけど、さどーするほしょーがない」

「だが、それしか方法がないだろう。探してみよう」


果たして陽子はアイドルだったのか!?

枕営業強要で涙目になるアイドル物とかいつか書きたいですね。

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