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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
三章:新しい旅立ち
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一話:娼婦からの情報

 ワンダラータウン中央街にある洒落た喫茶店に、サイハテは居た。眉間に皺を寄せながら、ウェイターが運んできたコーヒーの臭いがする黒い白湯を飲んで、凄く損した気分になっている。

 対面には緊張した面持ちの少女、サイハテが懇意にしている立ちんぼの一人で源氏名はリリラと言う。


「あ、あのぅ……」


 リリラは、遠慮がちに声をかける、視線はオープンテラスの外、ワンダラータウンの大通りを忙しなく見ている。


「どうした?」


 対するサイハテはいつも通りぶっきらぼうな口調だ。

 眉間に皺を寄せたまま、親の仇でも見るような視線をコーヒーもどきに注いでいた。


「大通りで銃撃戦があるのに、あたしらここで落ち着いていていいんですかねぇ……?」


 リリラの言い分は至極最もだが、女と寝た寝てないの言い争いから銃撃戦が勃発、最大手の遺跡漁り(スカベンジャー)チーム二つが命のやり取りをしている。

 そんな下らない戦場に、命をかけることもあるまい。


「女の取り合いなんざ、関わるだけ損だ」


 防弾ガラスとドローンに守られた喫茶店だ、コーヒーはドブの上澄みだが安全性はばっちりである。


「そ、そうですね……」


 どうにも、娼婦の少女は居心地が悪そうだった。

 貧民街で暮らす者にとって、中央街は憧れであり、そして自分達を酷い目に合わせた嫌な場所であった。

 中央街で客引きをしようものなら、警備隊がワラワラと集まってきて、あっという間に留置所行きだ。

 リリラにもそんな思い出があるのだろうと、サイハテは予想する。

 だから、安心させる為にも言葉をかけてやる。


「警備隊は俺と一緒に居る限り手を出してはこない」


 理由は単純、サイハテが強いからだ。

 あれは少し昔の話で、陽子を伴ってこの辺りを歩いていたら、警備隊の若いのが因縁を着けて来た。

 あわよくば、陽子を持ち帰ってやろうなんて魂胆だったのだろう。途中までは無視していたが、あんまりにもしつこいので二十人ばかりぶちのめしてやったら大人しくなった。

 素手で武装した二十人をぶちのめす奴に、手を出してくる奴はいないのだ。


「そ、そうですね……。それで、お望みの情報なんですが」


 やはり居心地が悪いのか、リリラは本題を言って早く解放されたいようだった。


「海岸沿いの自衛隊基地、あそこに向かった遺跡漁りが一人たりとも帰ってきていないそうです。あくまでも噂ですが、亡霊にやられた。とかで」

「亡霊? まさか、ナンセンスだ」

「それだけじゃないんです。先月、あそこを通ってここに来る予定だった隊商が、まだ到着してないんです。亡霊ではなくとも、かなり危険な存在があそこにいるんじゃないでしょうか」


 一介の娼婦が手に入れられる情報ではここまでだろう、少なくとも手慣れた護衛をつけているはずの隊商までが行方不明になっている。

 これらの情報から予想できる事は二つか一つ位だが、対策を整えれるだけで十分な成果だろう。


「……よしわかった。報酬を渡しておく」


 少し色を付けた成功報酬を渡し、その場を後にする。終末世界での情報網も、一度考え直さなくてはならない。

 ジークが中華で活躍出来たのは二年かけて築いた情報網が存在したからだ。現在の日本列島にそれはなく、本領が発揮できなくなってしまっている。サイハテにとって、戦闘能力と言うのはおまけに過ぎない、本領は情報を元にした単独潜入、及び破壊工作支援である。


(情報を元に考えるならこの装備で自衛隊基地へ向かうのは危険だな……一体、何が待ち構えているのだろうか)


 遺跡漁りが帰って来ないのはさして珍しくもなんともない。十人遺跡漁りに向かったら八人は帰って来ないのはザラだ。

 しかし、誰一人も帰ってこないと言うのは異常事態だ。

 人間と言う生き物は結構憶病な性質を持っていて、危険そうだったら引き返してくるはずなのだ。


(引き返した奴もいないんだろうな。向かった人間が誰一人帰ってこないと言うのだから)


 もしかしたら、整備された軍隊のようなものが基地を守護しているのかもしれない。

 サイハテは準備を整える為に、スラムのあばら家への道を急ぐのだった。


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