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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
二章:生きる為の道しるべ
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十四話:レアの誘い2

 サイハテは、ジークとしても、西条疾風としても返答する事は出来なかった。それは真実であるし、紛れもない現実だからだ。


『貴方は民衆の為なら、もう一度銃を取るだろうね。戦う力のない者達の為に戦う。それが今までのジークだったから』


 自分のやってきた事を否定してはいけない、そうでないと今まで殺した人間達の死が全くの無駄になってしまうから。


『貴方はもう一度戦わされて、使い潰される。貴方が用意した平和を、老人共(ブタ共)が貪り食う。その分け前は、今度こそ民衆には届かない。今度の君がする戦いは完全に無駄になる……それでも、貴方は戦うだろうね。それが、貴方が蘇らせられた理由』


 レアの言う通りだった。

 否定できないからこそ、戦わなくてはならない。しかし、戦ってもその利益は老人達に吸い上げられ、民衆は寧ろサイハテの姿に憧れて自ら戦地へ赴くだろう。

 戦えない者達を戦場へ駆り立てる、それが今のジークに許されたただ一つの行動だった。


『貴方は再び老人に全てを奪われる。生前のジークがそうであったように、西条疾風もその道を辿る事になる。そして、その戦いの中で、貴方は憎悪と屈辱に塗れて死ななければならない……貴方が戦った意味も、糧となった戦友達も、意味がなくなる。貴方は、犬死にしなければならない。それが貴方の生きる意味だった』


 そして、当然自殺も出来ない。

 それでこそ犬死にであり、魂の浪費になる。かと言って戦い続けても結局は犬死にする羽目になる。

 それでも、戦わなくてはならない。過去に死んだ同胞が無駄死にでなかった証明の為に、西条疾風も浪費されなくてはならない。

 もう一度、何かを拾い集めるチャンスなんて元々なかったのだ。


『でも、それは僕としても好ましくない』

「……好ましくない? それは何故だ」

『僕は政府側の人間ではない。老人に都合のいい日本は、個人としても受け入れられない。僕には僕の思惑があって、貴方を蘇らせた。大分話が反れたけど、これから、その動機を話す』

「……………………………………」


 サイハテは、レアに視線を向ける。

 政府側の人間ではなく、政府が考えた思惑とは別にレア自身の思惑があって、死体を蘇らせた理由があると言うのだ。


『始めは政府の思惑と一緒だった。貴方を蘇らせ、絶望の中に居た人類を奮い立たせる。これは貴方にしかできない事だった。だけど、それは特効薬が出来ていたらの話でね。僕は失敗し、老人達は自分の利益のみを追求する事にしたらしい。僕が目覚めた時、そんな音声データが残っていたよ』


 そう言うなり、レアは小馬鹿にするように鼻を鳴らした。


『だけど、僕が求める物と政府が求める物は違う。老い先短い老人と、長く生きる若者とでは考え方が違う。そんな事も老人達は理解していなかったようだね。僕は曲がりなりにも貴方の事が好きだった。初恋と言ってもいい、クックックック』


 初恋なんて言いながら、自嘲するように笑うレア。とても幼い少女がしていいような表情をしていない。


『まぁ、僕が惚れたのは記録の貴方(ジーク)であって、変態の貴方(西条疾風)ではない。正直、実物にあってちょっと幻滅してる』


 先程の邪悪な笑みはそう言った意味もあったらしい。


『ああ、今の西条が嫌いって訳じゃないよ。貴方は僕らを襲ったり、力にかまけて脅したりしなかった。そこは好感』


 武力の統制論者が力にかまけて脅迫なんぞ出来る訳もないのであるが。


「レア。君の思惑と言うのを聞かせて貰えないか?」


 レアは彼女自身の思惑に従って、ジークを復元した。即ち、最初のあの出会いも予め仕組まれた物だと、サイハテは予感する。


『僕の思惑は単純。貴方の作る軍隊が平定する大地に、僕を慕ってくれていた技術屋や科学者を集めて保護する。それは科学技術の衰退も止める事が出来る……そして、僕は君を使って、老人達を排除する。あいつらはこれからの世の中に邪魔だ』


 サイハテがゾッとする程に暗い瞳を見せたレアは、そう語る。

 維持するだけなら老人でも出来る、しかし、これからの世の中は創造が中心となる世界だ。その中に旧態依然とした老人達の存在は邪魔になる。

 老人と言うのは長く生きているだけあって、経験豊富であり、それが政府の人間ともなれば……。


「……有能だが、経験の浅い若者を言葉でコントロールしてもらっては困る。そう言う訳か」


 老人は妖怪だ、人を化かすのは昔から妖怪の役目と決まっている。


『そう言う事、言葉とは言うのは人類にとって最も大事な発明。人類が槍を捨てて鍬を持った時から、親から子へ伝わり、子から孫へ伝わり、孫が言葉を文字に変えて、遥か先の未来まで伝わっている。常に人類と共にあり、そして人類を最も殺した道具。それが言葉だよ』

「……隣人を戦争に駆り立てるのに銃は要らない。言葉で十分だったからな」

『言葉は人類の発展に無くてはならないものだった。だけどそれを悪用する人間が居る、だから、悪用する事の出来る老人達を排除しなくてはならない。悪意ある言葉は、いつでも人を殺す』

「だから君は俺を選んだのか。そんな話を聞いてしまえば、俺は戦うしかなくなってしまう。戦いと言う言葉に囚われている俺だからこそ……その呪いの恐ろしさを痛感しているからこそ、選んだのか」


 サイハテの予想に、レアはよくできましたと言わんばかりに微笑む。


『貴方はずっと戦いに囚われていた。犠牲になった同胞の死を無駄にしない為に、殺してきた敵の死を無駄にしない為にも、貴方は戦いに囚われるしかなかった。絶望的な状況でも、貴方は決して戦うと言う事を止めなかった』


 全て、事実である。

 戦いを止めたら、それこそ今までやってきた事が無駄になってしまうから、戦う事しか出来なかった。

 喰らった同胞が、頭蓋を撃ち抜いた敵が、ジークの記憶に残る全ての体験がそれを赦す事はなかった。結果、ジークは上の目論見通りに戦いと言う言葉、概念にとらわれ続けた愚かな男の物語は昔、結末を迎えた。


『エージェントジークは、戦いの中で襤褸屑のようになって死んだ。もっとはっきり言葉にすると、貴方は戦いの中で死ぬしか、救われなかった』


 だから、ジークの死体は笑顔であった。

 昔々のお話だ。戦う為に作られて、目的の為に使われて、戦いの中で壊れたが、それはそれで満足出来て壊れたのだった。

 糧となった同胞も、敵の死も、決して無意味な物ではなくなり、彼らの死は語られる事が無くとも、平和の木の養分となり、その平和の木は人類を緩やかに発展させた。

 ただ、無意味な死を迎えたのは、ジークとコードネームでしか呼ばれなかった、愚かで哀れな男だけだ。


『でも、貴方はジークじゃない、西条疾風だ。君の故郷で答えは得ただろう?』

「……聞いていたのか?」


 サイハテの疑問に、レアは首を左右に振った。


『んーん、ただの予想。南雲なら必ず、貴方に答えを齎すだろうってね。彼女は人間の本質を見るのが得意だからね』


 その言い草に、サイハテは小さく息を吐いた。

 年齢は、正直覚えていないが、自分より一回りは年下であろう少女に、見事に踊らされてしまった事に対する自嘲だ。薄々勘付いてはいたが、自分は人間としては未熟なのだと、目の前の少女に思い知らされてしまった。


「そう言う事か。それで、君の望みは老人の排除と日本の平定だと、それでいいのか?」


 サイハテの疑問に、レアは今まで見せた事のない笑顔で答える。


『いいんだよ。僕も言葉に囚われている人間だからね。君と一緒だ』


 年頃の少女らしい笑顔に、サイハテの表情も思わず緩む。

 サイハテはレアから報復の黒い気持ちを感じ取っていた、しかし、話してみるとその報復は序でだったようだ。

 あくまでも、レアの目的は衰退の停止。その序でに目的の邪魔でもある復讐対象を排除させる。それが目的だったようだ。


「……そうか、君も一緒か」

『そう、一緒』

「そうか」


 レアの頭にぽむっと手を置いて、サイハテはテントまでの道を歩き出す。

 答えは確かに得た。だが本質が変わる訳でもない。


『西条』


 道すがら、レアが声をかけてくる。


「どうした?」


 真横で手を繋いでいるレアに、視線を向けると。


『無意味に死なせたりしないから、約束する』


 と、言われ、


「そうか」


 だけ返事をした。


尻Assですね。

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