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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
二章:生きる為の道しるべ
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幕間:終末世界の円

木洩れ日が頬を擽る今日この頃、サイハテ一派には穏やかな空気が流れていた。窓際で機械関連の本を読みつつ、コーヒーを啜るサイハテの姿はまるで休日だ、まぁ……今日が何年何月の何日か解らない事態故に毎日が日曜日なのだが。

そんな中、陽子はサイハテに与えられた円札を持って唸っていた。


「正当な報酬だ」


 なんて言葉と共に渡された物だが内約は、赤い五円札が二枚と同じく赤い一円札が一枚、緑の一円札が三枚だ。普通に考えれば十四円だと思うのだが、この赤と緑の違いはなんなのだろうか?


「ねー、サイハテー」

「あん?」


 お金を持って、近寄ってきた陽子に、サイハテは生返事を返す。視線は陽子ではなく、エジソンと貴方と言う題の本に向いている。


「このお金ってなんで緑と赤があるの?」


 至極真っ当な質問をした陽子を、サイハテはちらりと見る。


「赤は共産主義者が発行した金、緑は自由経済派が発行した金。他にもアナキストが発行した黄色と正統日本が発行した白、新生日本が発行した青があるらしいぞ」


 サイハテは視線を本に戻しながら、そう答えた。十三の少女にその違いはわからないので、困ってしまう。


「……もっと詳しく教えてちょうだいよ」


 てなわけで、サイハテ先生に対する要求が飛ぶのだ。

 サイハテは陽子をちらりと見て、苦笑する。そんなに困った顔をしなくてもちゃんと教えるつもりだったからだ。


「いいだろう、少し長い話になるからな。君も飲み物を持ってくるといい、ついでにコーヒーよろしく」


 サイハテはブラックコーヒーを好む、カフェイン依存症気味だからだ。

 名実共にまだ子供の陽子はミルクと砂糖マシマシのカフェオレにしている、病院で見つけた砂糖ももう残り少ない、嗜好品の為、ワンダラータウンではグラム五円の値段が着いている。ちなみに現代で金はグラム五千円弱である。


「はい、コーヒー。ブラックでよかったのよね?」

「おう、サンキュ。ではでは説明しよう。まずお金ってなんなのって所からだ」


 淹れたてのコーヒーを貰ったサイハテは、それを一口飲むと説明を始める。


「お金ってのは要するに交換券だ。ぶっちゃけると万能な図書券だな」

「え、えええええええ……」


 例えば日本円などは、日本銀行券と言う券だ。日本銀行が発行しているから日本銀行券。非常にシンプルな名前である。


「お金の価値って言うのは、国の信用で決まる。昔は金が保障していたが、それだと地球に埋まっている金が経済の限界になるからな。俺の生きていた時代……多分君の生きていた時代もそうだっただろう」

「ふんふん」


 陽子は懐から手帳を出すと、サイハテの言っていた事をメモに取り始める。お金の価値=国の信用と随分ざっくばらんな書き方だ。


「が、今のご時世だと信用なんて糞程の価値もない。お金の価値を決めているのは日本に割拠する軍閥共の食糧と武力だな」


 人はパンのみに生きるに非ず。されどパンが無くては生きられない。

 その食糧をどれだけ産出できるか、そしてその食糧を守れるかどうかでお金の価値は決まる。


「まぁ、この価値の決まり方ってのも一般民衆が決めているもんだ。規模のデカイ軍閥の金券はそれだけ価値が高い。理由は至極単純、軍閥が消え去り難いからだな」


 取引に使うにも、保障元が消えてしまえばただの紙だ。


「例えばこの赤いサバト円は、この円を持ってサバトの所に行けば食糧や弾薬と交換して貰える。決められたレートで交換して貰えるし、こっちが売る時も決められたレートに従ってサバト円で買い取ってもらえると言う訳だ」

「へー、そうなのね」

「そうなんだよ。それがサバト円の価値を保障している」


 サイハテが説明した事は非常に合理的だと、陽子は思った。食糧と言うものは保存に限界があり、長く保管できる訳ではない。

 だが、この円を持っていれば巨大な食糧生産拠点を持つサバトに、食料を売って貰える。それ故に、このサバト円は大量に流通し、価値の高い物となっている。


「……なるほどね。解ったわ。この経済、大本が得する経済方式でしょ?」


 それを聞いた陽子は、自分で結論を出して見せた。


「ほう、何故そう思う」


 元々経済と言うのは国が得するように出来ている物であり、これが答えである事は間違いないのだが。


「サバトが裕福だと知れば人が集まるわ。弾薬も食料も作ればいい、だけど兵士だけはそうも行かないわね。人が集まれば、支配出来る土地も増える。その土地からは新たな食糧が取れる……そういう風になっているのね」


 陽子が出した結論にサイハテはニヤリと笑って見せる。人は金と飯のあるところに集まる、人からは更に金と飯が産まれ、それを搾取すれば派閥はもっと大きくなる。


「そうだ、奴らは放っておけばドンドン拡大する。そう言った経済を作ってしまった」


 だがそれはあくまでも、この終末の世で成せる経済だ。食い物も身を守る為の戦力も不足しているからこその経済だ。


「と、まぁお金の話はこれで終わりだ。そろそろ腹が減ってきたから……その、な?」

「はいはい、すぐにご飯にしますよーだ」


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