六話:サイハテはいつもおかしい
ワンダラータウンに帰還してから、どうもサイハテの様子がおかしいと陽子は思った。
(絶対おかしいわよね、朝起きても全裸じゃないし……)
人、それを普通と言う。
まぁ、人にとっては普通でも、サイハテに関しては異常と言える。平和なときは常に変態である男だ。
陽子は、窓際に座って何かを思案しているサイハテを見る。普段なら視線に気が付きそうなものだが、今はうんうん唸っているだけで、陽子の視線にも気が付いていない。
「ねぇ、レア」
れあのこーぼーと平仮名で書かれた立札のあるスペースで、機械を弄っているレアに声をかける。
「なーにー?」
半田で回路をくっつけているレアが返事を返す。
「サイハテ、少しおかしくない?」
「さいじょーはいつもおかしい」
「うん、それはそうだけどね……」
そのいつもおかしいサイハテが、最近おかしくないのが異常なのだ。泥棒に来た貧民を生かして返す事自体が、おかしい。
「さいじょーはいま、なにかをえらぼうとしている」
レアが唐突に語り出す。
「たぶん、ぜんじつのいっけんが、きたんだとおもう」
前日の一件とは、陽子とレアが危機に陥ったことだろうか。確かに、あれは危険だったし、サイハテも負傷を隠して行軍する程だったが、誰が悪い訳でもない。
しいて言うなら、運が悪いだけの事態だったはずだ。
「ああ、あれね。サイハテが悪い訳じゃないのに、何で悩む必要があるのかしら」
陽子には解らない。
その為、レアが解説をしてくれる。
「きけんは、いつおそってくるかわからない。だから、じぜんにじゅんびしておくのがふつー、ぶんめーがほーかいしたせかいでも、いってーいじょーのせんりょくをもっている、ぶそーしゅーだんがそんざいするから、ぶそーのひつよーせーをかんがえている。だとおもう」
所謂抑止力と言う奴だ。
過去では自衛隊や在日米軍がそれに当たるだろう、ある程度の戦力を持てば、襲ってくる輩は少なくなると言うものだ。
「やつらのもくてきは、ぼくとよーこ。じえーのできないぼくらは、さいじょーにたよるしかない」
武装集団サバト。
陽子たちと敵対関係になった組織だ、五人の魔女に率いられた数個師団分の戦力が日本全国に展開しているらしい。
「それだけじゃない」
今までの話を聞いていたのか、サイハテが唐突に口を開いた。
「覚えてるか、あの馬鹿でかいムカデと毛蟹を」
ビクラブとキロピードだ。
千葉市の地下交通網を己が縄張りとして徘徊するキロピード、工業地帯を占拠し、獲物を待ち構えるビクラブ等はとても一人の人間が立ち向かえる生き物ではなかった。
「俺達の敵はサバトだけじゃねぇ。あの化け物達も敵なんだ。生半可な戦力じゃ物資の補給もままならねぇ」
サイハテだけなら現地調達で補給はなんとでもなる。しかし、戦力を整えるとなると、どうしても大規模な補給が必要になる……しかし、工作機械などがある工業地帯には人間を獲物とする化け物がわんさかいる。
「下手に戦力を整えても、飢えるだけだ。それに拠点もない」
サイハテはワンダラータウンに戻って来るや否や、情報収集に精を出していた。
街のあちこちで聞いた話によると、拠点として使える空港や駐屯地は全てサバトに抑えられているか、化け物の巣窟となっているらしい。
「さいじょー」
サイハテの言葉に、レアが食い付く。
「きょてんのこーほなら、ぼくしってる」
「あ? マジか、それ」
機嫌の悪いサイハテは、少しばかり言葉が乱雑だが、レアの出した釣り餌に見事に釣られた。
「うん、たてやまのほうにある、ちかしれーぶがまだのこってる」
にやりと笑うレアの背後で、一人の少女が立ち上がった。
ひどいとこに就職してしまいました。
当務と言って、24時間拘束されてしまうので、更新速度が下がります




