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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
二章:生きる為の道しるべ
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五話:本領発揮

 レアはクローゼットの中でゆっくりと目を開いた。目の前には、サイハテがこちらを見つけて救援に来るまでの所要時間、それと虫ドローンで観察した敵兵士のデータを暗算して予測した物だ。

 サイハテなら、レアの痕跡を見つけて、サバトの兵士より先に合流してくれるはずだ。

 今回起きた二つの事件は、レアにとっては予想通りの結末だった。

 民兵程度の練度しかないサバト兵では、陽子もレアも連れ去る事は出来ないと踏んでいたからだ。

 クローゼットの中で、毒婦は笑う。


(これで西条疾風(ジーク)は武力の必要性を感じているはず)


 当面の目的はサイハテを中核と成した軍隊の設立だ。

 レアの調べたデータだと、サイハテは時勢が読める男だ、この遠征の目的は切り札に戦力不足を知らしめる目的もあった訳だ。


(僕の計画、その一歩だ)


 レアはクローゼットの中でほくそ笑む。

 外ではまだ、レアを探してサバト兵がうろついているが、そろそろサイハテの到着時刻のはずだ。





 暗がりの中にサバト兵がひっそりと引きこまれる。

 鈍くて嫌な音が響くと、呆気にとられていたサバト兵は動かなくなってしまう、彼のどこも見ていない瞳には何が映っていたのだろうか。


「後、一人」


 頸椎を破壊したサイハテは、サバト兵を一瞥するとそう呟いた。それを見ていた陽子は、なんとなく膝立ちになっているサイハテの頭を撫でてしまった。

 時が凍る、普段は表情を出しても、偽物っぽい表情ばかり浮かべるサイハテが、陽子の事を心の底から不可解な者を見る目で見ている。


「……なんか悲しそうだったから、つい」


 陽子は言い訳する。

 言い訳を聞いたサイハテは、すごく不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、


「そ、そうか」


 と、これは困惑しきったような口調で表情を元に戻した。

 視線も、急に消えたバディを探しているサバト兵へと戻し、混乱している彼を見つめている。


「陽子、ナイフを使った殺害方法を見せる」


 サイハテは、肩のナイフホルスターからナイフを引っ張り出すと、唐突にそんな事を宣った。

 今度は陽子が眉間に皺を寄せる番だった。


「見ないわよ」


 きっぱりとした拒絶に、サイハテはまたもや困惑する。


「そ、そうか……」


 今度は残念そうに言うと、サイハテは音も無く駆け出した。

 まるで地を這うように飛ぶ燕のようだったと、陽子は語る。姿勢は低く、音は微塵もせず、位置は視線を忙しなく動かすサバト兵の死角に必ず位置している。

 そして、一息で飛びかかれる距離まで近づいても、サイハテは飛びかかる事はしなかった、サイハテの動きが緩慢になり、陽子の目には、チャンスをうかがっているように見えたが、それは違う。

 サイハテは僅かずつ動いて、自分の影が相手の視界に入らないようにしているのだった。

 そして、兵士との距離はほんの人一人分までに接近し、サイハテは素早く兵士の口に、手で蓋をした。

 背後から腎臓にナイフをまず一発、その後肝臓に叩き込み、ナイフを引き抜くと逆手に持ち替え、兵士の真正面から心臓にナイフを叩き込んだ。

 サイハテがナイフを捻り、ゆっくりと兵士の胸から引き抜いた。


「……っ」


 陽子は思わず唾を飲み込んでしまう。

 惚れ惚れする程に見事な殺しの技術だったからだ、急所に間髪入れずに三発もナイフを叩き込むナイフ一本の殺人技術は、それはもう見事なものだった。

 陽子はサイハテに近づいて行く。


「終わったの?」


 倒した兵士の装備を漁っているサイハテに、陽子は尋ねる。


「ああ、心臓を完全に破壊した」


 そう言う意味で聞いているのではないのだが、まあ、サイハテらしいのだろう。


「そ、サイハテに怪我がないならよかったわ」

「え? 怪我したらノーパンナースで看護してくれるって?」

「あんた一回脳みそ洗濯したら?」


 これさえなければ、と思う陽子であった。

 サイハテと言う男はかっこいいと思わせても、いやでもなぁと言う気分にさせる男なのだ。

 彼がボケるのは敵が居ない証拠でもあるのだが、もうちょっと別のボケ方をしたっていいと思う陽子だった。

 どうでもいい話だか、サイハテはまだバニー姿である。

 その姿で、レアの足跡を追跡し、崩れかけたアパートの階段を登るサイハテを陽子は後ろから見ている。

 正確には、サイハテの尻が視界を占めている。


「うへぇ……」


 逞しい尻に、げんなりとする陽子。

 それに気が付いたのか、サイハテは激しく腰を振り始めた。


「なんだ、そんなに俺の尻が気になるのか。まったく、陽子は助兵衛だなぁ! はっはっはっはっは!」


 陽子はその姿を見て、思わず拳銃を抜いてしまった。

 サイハテの額に一筋の汗が流れる、陽子は銃身に減音器(サプレッサー)を取り付けると、実弾の弾倉(マガジン)を抜いた。

 拳銃はオープンホールド状態になっている。


「ねぇ、これを見て」


 陽子が取り出したのは一発の銃弾だ、黒い弾頭を持つ、暴徒鎮圧用のゴムスタン弾。


「ああ、ゴムスタ「私は今までね、狙った標的を撃ち抜けなかった事はないの」


 サイハテの話を遮った陽子は薬室(チェンバー)にゴムスタン弾が叩き込む。


「是非、これを躱してみてほしいわ」


 その言葉と共に拳銃が向けられる。

 サイハテは両の掌を陽子に向けて、


「待て、話せば解る」


 と言ったが、


「問答無用」


 引き金は容易く引かれた。

 これは後に五・一五事件と呼ばれた。


「いってー……」


 ゴムスタン弾が当たった肩を撫でながら、サイハテは呟いた。


「ふん、セクハラするからよ。次は五発ぶち込むからね」


 そもそもレアを迎えに行かなくてはいけないのに、ふざけるサイハテがいけないのだ。


「わかった、俺が悪かった。次は生尻でやろう」

「そういう事じゃねーわよ!!」


 陽子の平手がサイハテの頭を強襲する。しかし、サイハテはそれをひらりと躱すと、


「激流に身を任せて、なんかしている……」


 不敵に笑って達人っぽい事を言いだした。

 その姿に思わず半眼になってしまう、それと同時にこうも思うのだ。


(この人、本当に私より年上なのかしら……)


 男、西条疾風、遊ぶ時も全力である。


「はぁ……もういいわよ、行くわよサイハテ。この先にいるんでしょ?」


 誰が?

 レアが。


「ああ、二階の奥から二番目の部屋に逃げている、迎えに行ってやるといいさ」


 超高速でラジオ体操第二を踊っているサイハテをスルーして陽子は言われた通り、奥から二番目の部屋の扉をゆっくりと開く。

 部屋の中は埃塗れで、嘗ての部屋に住んでいたであろう人物の白骨が転がっていた。


「レア、もう大丈夫よ。迎えに来たわ」


 優しく声をかけると、ゆっくりとクローゼットが開かれた。

 クローゼットの中には裸のレアが居る。陽子の姿を見るとクローゼットを飛び出して、陽子の胸の中へと飛び込んで来た。


「もう大丈夫よ、サイハテっぽいものも外にいるから……認めたくないけど……」


 その頃サイハテはヘッドスピンをしていた。


「さいじょーもぶじ?」

「ええ、超元気よ……元気よ、ほんとに」


感想やらなにやらお待ちしております。

後ツイッター初めました、亜細万@asaiman4434だったと思いますので、質問等はそちらでお願いします。

作者の性感帯とスリーサイズ以外ならお答えします。

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