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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
二章:生きる為の道しるべ
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三話:ラジオ塔へ

 目の前で、盗賊の首がひん曲がった。

 その光景に陽子はただただ、戦慄するだけだ。


「し、死んだの?」


 死体を適当な茂みに隠したサイハテに尋ねてみると、


「これでもたまに生きている奴がいるぞ」


 なんて恐ろしい返答が帰って来て、陽子は身震いするしかない。首が折れたまま、茂みに放置される気分を想像してしまったのだ。


「と、とどめは刺さないの?」


 それはもはや武士の情けレベルの言い草だ、それに対して、サイハテは首を左右に振る。


「とどめを刺すとなると、刃物が銃器になる。銃器は音が出る上に、弾薬も限られているから論外。刃物も血が出て飢えた犬やら鴉やらが寄って来て、敵に死体を見つかる危険侵すからアウトだ」


 彼の軍事薀蓄に、思わず陽子は首を傾げる。

 別に見つかっても問題はないのだろうか、と言う疑問だ。死体が見つかる頃には二人とも別の場所に移動している訳だし、見つかっても易々と追跡は出来ないだろうと、高を括っているのだ。


「見つかっても大丈夫なんじゃない?」


 陽子の言葉に、サイハテは苦笑する。


「盗賊共は間抜けだが、犬を飼っている。臭いでどこまでも追いかけられるぞ」


 犬、と言う言葉に、陽子は眠る前、公園にいたよく人に懐く近所の犬を思い出して悶える。

 少々獣臭かったが、フワフワの毛並に愛くるしい表情、尻尾をぶんぶんと振って撫でて欲しいと寄って来たあの犬を、思い出してしまう。

 そんな笑いをかみ殺したような陽子の表情を見て、サイハテは思わず肩を竦める。


「犬は追跡に置いては人間より優秀だぞ。人間はどうやっても汗腺などから分泌するフェロモンは消しようがない、それを元に延々と追いかけられるぞ」


 そもそも犬とは群れで獲物を追い詰め、ながーい距離を歩かせるなどして疲弊させる。

 疲れ切ってついつい足を止めたら、人間の皮膚など容易く食い破る雑菌だらけの牙がひーふーみーと数えられない位待っている。

 その場でバラバラにされてごちそうになるか、逃げおおせて感染症になり、倒れた所でごちそうになるかの違いしかない。


「そうなんだ……」


 陽子としては、誰かに飼われていて、愛情をよく学んだ犬しか知らない。


「群れで来るからな、奴らは、戦争は数だよ、姉貴」


 大型犬の大集団は流石のサイハテさんでもきついのである。


「ふふっ、姉貴って私の事?」


 つまらない冗談にも笑ってくれる陽子さんマジ天使、なんて事は言わず、サイハテは冷静に分析する。


(昨日から緊張の連続でストレスが溜まっているな、ちょっとした娯楽でも喜ぶなら、まだマシだが……)


 あっちこっちに八つ当たりするようになったら危険信号、錯乱したらもう置いて行くしかない。

 それからの旅程は少し休憩を増やしつつ、適当な商店の遺跡から甘味などを発見し、陽子に与えた。

 ずっと前の饅頭だが、保護ガスによって食えなくもない状態だ。他に甘味があるのなら摂取はしたくないが、それでも甘いからエネルギーにもなるし、甘い物はストレスを削減させる。


「サイハテは食べなくてもいいの?」

「俺は今朝摂取した朝食で十分だからな。成長期も終えてるし、無駄に甘味を食って吹き出物を作りたくない」


 陽子は別だ。

 今成長期であるし、彼女の体は小さい。太っている訳でもないどころか、痩せ気味なので、体を動かすエネルギーになる糖分を備蓄出来る総量が少ないのだ。

 一日にケロッと六十キロメートル移動し、それも食糧を取らず、一週間行う体力お化けのサイハテと一緒にしてはいけないのである。


「じゃ、じゃあ私も」

「君は食え、今の状態では摂取より消費の方が大きい。食べないダイエットなんか嘘だからな。実行して成功しても醜い豚が醜い枯れ木になるだけだ」


 そうサイハテに言われては仕方ないと、陽子は饅頭を口に運ぶ。疲れた体に糖分は染み込むように行き渡って、サイハテの言葉が正しいと陽子は直感する。


「食べたら十分間の食休みだ、太陽はまだ高い場所にある。それに……」


 とサイハテは店の外を顎でしゃくる。


「レアが居たラジオ塔が見えてきた。目的地まで後少しだ」


 崩れかけた街の先には、錆びた鉄塔が古いアンテナを着けて鎮座している。あそこがレアと別れた目的地だ。


「無事だといいんだけど」


 陽子は思わず希望的観測を呟いてしまう。


「……そうだな」


 それにサイハテが同意してくれた事が、どうしても嬉しかった。

 食休みが終わり、疲労が少しばかり抜けた頃にサイハテ達は移動を再開した。

 移動方式は、目の良い陽子が後方から遠方を監視し、サイハテが周囲の警戒に当たると言うものだ。

 陽子の遠方警戒能力は凄まじいの一言に尽き、サイハテ達は迂回を何度も繰り返しながらもラジオ塔へと到達する事が出来た。陽子はさっさとラジオ塔に入ろうとしたのだが、サイハテに手で制止されてしまう。


「どうしたの?」


 陽子はこう言った時にサイハテは無駄な行動はしないと知っている、それゆえに尋ねる。


「見ろ」


 とサイハテは地面を指差したが、陽子にはただの地面にしか見えないので、首を傾げた。

 するとサイハテが少しだけ歯痒そうな表情を見せ、説明をしてくれる。


「あそこの地面は随分と砂埃と土埃が綺麗だ、それに、二本の長い棒が着陸した後がある。ほら、凹んでいるだろう?」


 などとサイハテは教えてくれるが、陽子にはわからないので、曖昧に頷いておく。


「……これはヘリの後だ」


 少しばかり苦笑したサイハテが説明を続ける。


「そしてヘリから降りてきたのは靴のサイズからして五人、そして犬が一匹。凹み方から装備は軽装だな。降りてきた五人は急ぎ足で、ラジオ塔の中へと突入した」


 そう言うなり、サイハテはラジオ塔の扉まで近寄る。陽子も無論それについていく。


「ラジオ塔の関係者用入口を蹴破り、中に突入した。銃を構えながら散会」

 サイハテは説明しながらも、移動を開始する。

 陽子は説明を聞きながらサイハテに着いて行く。


「一階をクリアリングし、二階の階段に足をかける……おっと、バカの一人が足を滑らせてこけたな。その際に弾を一発落としている……気が付かなかったんだな」


 サイハテが拾ったのは猟銃にも使えるライフル弾だ。陽子はしたり顔でふんふんと頷いていた。


「このまま二階に移動、三階への階段が崩れていたから、西の階段まで移動したらしい」


 そしてその階段にはワイヤートラップがある、レアの部屋にある報知器を鳴らすトラップだ。


「ワイヤーにひっかかり、焦って音のする場所へのぼったな。見ろ、歩幅が広い」


 サイハテは急ぎ足で階段を登り、四階のある部屋の前へと辿り着く、そこには一人の死体と血痕だ。

 開かれた扉の先では銃身と撃針、それとトリガーだけのショットガンが鎮座している。


「ここでもトラップに引っかかり、一名死亡……装備は、流石に持って行ったみたいだ」


 レアがいるのはここの真上の部屋だ、報知器は侵入警報だけでなく、足止めと混乱を狙ったただのトラップだ。

 そしてサイハテはレアの居る部屋まで真っ直ぐに移動して、開けっ放しのドアから手鏡を出して中を覗き込んだ後、部屋に入った。


「奴らが到達した時には、レアはすでに逃走していた。ご丁寧に通信機を破壊してな」


 そして何度か部屋を見渡したサイハテは、数回鼻で何かを嗅いだ。


「かすかな焦げた肉の臭いとトイレの消臭剤の強烈な臭い……ここか」


 そう言って開けたのはメンテナンスハッチだ。開けた瞬間、黒い煙がハッチから少しだけ漏れて、後は何もない。

 ペンライトをつけて、サイハテは中をのぞき込む。


「服と焦げた犬、電気のトラップか。トラップに服全部を括りつけて、犬への欺瞞工作にしたのか。部屋に消臭剤をぶちまけたのもいい、兵士は犬から逃れる為にやったと思いこむな。やるな」


 ハッチ口に突っ込んでいた頭を引き抜くと、部屋の中を見渡し始めたサイハテ。

 彼は注意深く視線を動かし、ある一定の場所で視線を止めた。

 そこはレアがレンチでぶっ叩いて壊したであろう通信機を載せているテーブル。

 それに近づくとサイハテは通信機を慎重に退かした。


「小さな裸足の足跡、そしてこの臭いは……トイレの消臭剤を自分で浴びたのか。形振り構ってないな。褒めてやらないと」


 そう言うと、サイハテは低い天井を見上げ。


「成程な」


 とだけいって、換気扇を取りはずす。


「ここから逃げた、換気扇を止めるネジが少しだけなめっているのと、壁に体を擦った後がある」


 狭くて、レア位じゃないと通れなさそうな小さな換気ダクト。今までの情報を統合したサイハテは結論を言った。


「レアはまだ生きている」


プロットがあああああああああああ

まだあがってねええええええええええええ

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