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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
二章:生きる為の道しるべ
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一話:椿の湖畔で

 夢を見た。

 かつて、誰よりも国民を愛し、愛する者達の為に銃を取り、帰還が絶望的な任務へと赴いた者の夢。

 陽子にとってそれは酷い悪夢だった。

 失敗が前提の任務を成功させた一人の英雄、彼は何一つ持ってはいなかった。

 親、兄弟、友人、名前、人間性を確立する条件全てを持っていなかった。と言うより、彼に大切な物はなかった、と言った方が正しいだろう。

 彼にあったのは、誰よりも国民を愛し、愛する者の為に命を賭けると言う役割(ロール)だけだった。

 愚直に戦った。

 中国には、彼をまともにしようとした人が沢山、とは言えないが確かにいた。彼にもそれは解っていたと思う。だが、彼はその人たちを裏切って戦い続けた。


(背負った物が大きすぎたのよ)


 陽子は、必死に戦う彼を見て、愚直にそう思った。

 仲間を喰らった自分、与えられた役割、背負わされた一億三千万の人命、彼は十代の内にそんなものを背負わされて、日本政府、日本情報局の目論見通りに押しつぶされた。


(あんなものを一人で背負ってたら、そうなるに決まってるわ)


 彼は確かに強い。

 世界中のどこを、例え平行世界の果てまで探しても、彼より強い人間は存在しないだろう。

 だが、彼はあくまでも人間なのだ。腕は二つで、目玉も二つ、見れるものも取れる物も他の人間と何一つ変わりないのだ。


(あまりにも、報われないわ)


 誰も彼も裏切り続け、利用し続け、果ては中国政府まで打倒した英雄は報いを受ける事となる。

 裏切りには裏切りを、彼は最後まで信用していた日本政府に利用される事となる。

 国内危険分子を排除する為の囮。

 暗い顔で空港の入国口に向かった彼はスタッフが誰もいないロビーを見て、裏切りを察知した。背後には自分と同じく中国から脱出した日本の邦人達がひしめき合っている。


「今すぐ身を隠せ!!」


 彼は叫ぶ。

 それと同時に彼の膝が撃ち抜かれる。距離800メートル、政府が抱える私兵部隊の狙撃だ。

 それと同時に、武装した平和団体が突入する。

 絶望的状況だ、少ない遮蔽物には邦人達が隠れている。

 敵は後ろ盾が無くなった平和団体達、彼らの心には取り逃した権力の恨みの炎が燃えている。

 彼は笑った。


「最後が、これか」


 自嘲の後に、懐に手を伸ばしてあるものを引っ張り出す。

 アメリカ製の45口径拳銃、M1911、最も信頼する武器(相棒)を引っ張り出して徹底抗戦をする事に決めたようだ。

 激しい戦闘が繰り広げられた、足を負傷した彼は拳銃一丁と敵から奪った武器のみで千と二十五人を殺害した。

 後は知って通りの結末だ。

 彼は死後もその体を利用され続け、全てが無くなった後に、少女と一緒に目覚めたのだった。







「おい、起きろ」


 サイハテは呻いている陽子の頬を叩く。

 着水した湖から彼女を引き上げた後だが、流石に野外でのんびり寝させている暇はないのだ。


「んー? 朝?」

「おう、随分呑気な感想をありがとよ。もうすぐ夕方だ、夜になる前には移動して夜を明かすぞ」


 サイハテが杓った夕陽を見て、陽子の意識は急速に覚醒する。上空からの自由落下、覚えているのはそれまでだが……。


「わ、私生きてる!? って、なんで服が破けてるの!?」

「お前と俺が着ていたスニーキングスーツは衝撃を受けると液化して膨張する。あの高度からの落下だ。怪我がないだけ奇跡だと思えよ」


 そう言うとサイハテは陽子に向かってスニーカーと服を投げる。随分と汚れてボロくなっているがキャミソールとデニムジーンズであろうか。


「さっさと着替えろ、こっちは装備をほとんど喪失しているんだ。生き残る為に移動するぞ」

「う、うん……サイハテはなんでバニーガールの姿なの?」

「趣味だ」

「………………」


 陽子がじとっとサイハテを見つめると、彼も見つめ返してくる。


「……お前、その眼はどうした?」

「眼?」


 サイハテはトントンと自分の右目を指で叩くと、バニースーツの胸元からくすんだ手鏡を取り出して陽子に投げつける。


「……なんともないじゃない」

「俺の勘違いだったか、行くぞ」


 そう言うとサイハテはさっさと歩き出してしまう。


「あ、待ってよ」


 着替えは終わっていたので、彼の隣に駆け足で並んで歩きだす。


「ねーねー、これからどうするの?」


 隣に並んだ陽子がそんな事を聞いてくる。サイハテは少しばかり言いよどんだ後、ゆっくりと口を開く。


「レアとの連絡が付かない。彼女は死んだか、捕まったと見るべきだ。レアが居たラジオ塔目指して進み、レアを探そう。生きているならいいが……死んでいるなら、遺体を回収してやらないとかわいそうだ」


 サイハテがそう言うと、陽子は思わず項垂れてしまう。彼がそばに居たから今までは楽だったが……分散してしまうと私達はこんなにも脆いのかと実感してしまった。


「……絶対生きているわよ」


 思わず、口に出てしまう希望的観測に。


「そうだな」


 と、サイハテは同意してくれる。

 バニーガール姿じゃなければときめいただろう。


リハビリ忙しいでござる

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