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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
一章:放浪者の町
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終話:あいきゃんふらい

 ヘリの足に巨漢が飛びついたお陰で、ヘリは大きく揺れた。恐らく内部では騒然となっており、地上から通信が入る。


『人がしがみ付いているぞ!』


 ヘリのパイロットはまさかと言う顔をする。

 かなり高い位置まで飛んだはずだ、それなのに、一体どこでしがみ付いたと言うのだろうか。

 確かに飛び立つ時、男が小銃を乱射して、兵隊を薙ぎ倒しながらこちらに向かっていたのは解っている。だが、その頃には高く飛び上がっていたはずだった。


「了解、高度で旋回して振り落とす。全員、どこかにしがみ付け!」


 ヘリのパイロットが指示すると、中にいた兵隊たちは自分をシートベルトで固定するか、適当な場所にしがみ付いている。パッケージは予め拘束されているので、転がる心配はない。

 ヘリが傾くと小さな円を描きながら回転し始める、中にいる人間ですら悲鳴を上げそうなGがかかり、外にしがみ付いている人間など、とうに吹っ飛んでいる事だろう。


『スネークアイ、今ヘリから何かが飛んでいった。中の人員ではないな?』

「中の人員は無事だ、恐らく、しがみ付いていた阿呆だろう。これより帰投する」


 そう言うや否や、返事を待たずにヘリは飛んで行ってしまう。

 空を飛んでいったのが、何かを確認しないままの飛行だ。ヘリの中は戦闘が終わり、後は帰投するだけの状況で緩やかな雰囲気が流れている。

 ヘリは元々警察が使っていたヘリを修理して人員を運べるようにしたものだ、下部に張り付いていた男を小銃で狙撃されようものなら、内部に弾丸が貫通し、跳ねまわって死傷者が出ていたことだろう。


「ほ~ん、悪くねぇ顔付きだ」


 兵隊の一人が、さっそく陽子にちょっかいを出し始めている、拘束具に固定された陽子の顔を掴んで、バカにするような表情を向けている。


「汚い手で触らないで」


 大天使陽子も流石に不機嫌の極みだ。

 今にも噛みついてやると言わんばかりの表情で兵隊を威嚇している。


「ひゅー、こええこええ」


 手をひらひら振って陽子を挑発し続ける兵隊、アホの極みである。

 この世界にはハーグ陸戦条約なんてものもないし、陽子は正規の兵隊ではない、これからどんな目にあわされるかなんて想像して、奴らは楽しんでいるのだ。

 何しろ、魔女が浚うように要請した人間である。どんな怒りを買ったのやらと考えてしまう。

 お前らは現在進行形で誰かの怒りを買っているが。


「サイハテは必ず来るわよ」


 正直、陽子も来るかどうかは自身がないが、はったりである。


「サイハテってさっきヘリからぶっ飛ばされた奴か? 来れる訳ねーだろ!」


 事実、あの高さから落ちたら人間なぞひとたまりもない。

 突如、ヘリの扉が開く。周囲の兵隊はまたかとうんざりした表情を見せた。


「あんだよ、今いいところだってのに……そろそろちゃんと修理しろよな」


 陽子にちょっかいを出していた兵隊が、渋々とヘリのドアへと向かう、こうしてヘリのドアが勝手に開くのは一度や二度ではないらしく、恒例の行事と化しているようで、兵隊は慣れた手つきで扉に手をかけ、下から伸びてきた手に、かけた手を掴まれた。

 兵隊の体は光る雲は突き抜けないが、FLY AWAYする。

 落ちた兵隊と入れ替わるように現れたのは、拳銃を引き抜いた西条疾風の姿だ。


(8人か)


 目の前にいる兵隊達の数だ。

 サイハテの持つM1911はマガジンに七発、チェンバーに一発の弾丸が入る仕様だ。

 つまりは一発一殺を心掛ければいいだけである。

 サイハテは容赦なく引き金を引く。.45ACP弾は容易く頭蓋を貫通し、脳髄を飛び散らせる高威力な拳銃弾だ。

 それを間髪入れずに八連射する。腹の底に響く音が機体内を駆け巡り、生きているのはヘリパイロットの二人と、陽子とサイハテだけだった。


「おっと、動くんじゃない」


 新たなマガジンを挿入したM1911をヘリパイロットへと向ける。


「変に動いたらズドンだ、この距離ならどう頑張っても、俺は外さんぞ」

「わ、わかった」


 パイロットの返事を確認し、サイハテは担いだ高周波ブレードを引き抜いて陽子の拘束を切断する。


「サイハテ……」


 なんだか妙に感激したような視線を向けてくる陽子に、サイハテは困った顔を見せた。


「あー、怪我ぁないな?」

「ええ、お陰様でね」


 そんな会話をしつつ、サイハテは怪しい動きをした副操縦士を撃ち殺す。

 悲しそうな表情を見せる陽子に対し、あるものを顎でしゃくる。


「そのロープをここへ結べ」


 足で、床から飛び出た金具を叩いてラベリングロープを結ぶよう指示し、自分は陽子の装備らしき荷物を肩口に担ぐのだ。


「これ、何?」


 ラベリングロープを結び終わった、と言っても、金具でカチッとつけるだけなので、すぐ終わった、それを、陽子が尋ねてきた。


「ラベリングロープだ、ほれ、抱き着け」


 拳銃をパイロットに向けたまま、陽子を引き寄せると、


「ちょ、ちょっと!」


 急に抱き寄せられた陽子は抵抗するのだった。


「これを使っておりるんだから、抱き着かないと落ちるぞ」


 と、説明してやると、陽子は渋々と抱き着いてきた。その様子をちらりと見てサイハテは拳銃をしまう。


「いくぞー」

「え、えー!?」


 気の抜けたような言い草の言葉と共に、サイハテはコックピットに向かって何かを放り投げた。そして上空百数十メートル付近で、降下を始めてしまう。

無論ロープの長さなど足りず、そのまま落下死する羽目になるだろう。


「わ、私まだ死にたくな……」


 そんな言葉を吐いた瞬間、ヘリが爆発して、突如コントロールを失い始める。

ヘリはローターを中心に大きく回転し出して、ロープに捕まる二人も物凄い遠心力に晒される。

陽子は必死の思いで、サイハテにしがみ付く、こういう状況では悲鳴もでないんだなと、少女は脳の片隅で考えていた。

そして体に襲い来る浮遊感。


(あ、死んだ)


サイハテがロープを離して、二人の体が宙に投げ出されたのだ。遠くでは黒煙を上げるヘリが回転しながら落ちて行っている。


(短い人生だったわね)


 陽子の目の前は真っ白になった。


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