表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
一章:放浪者の町
31/284

十六話:遭遇戦

 怪物、その言葉はこれ以上はない位に、西条疾風の事を現していた。

 大きな体と頑強な骨格は、遺伝子操作で作られたものだろう。ありとあらゆる戦闘技術の達人なのもそうだ、普通の人間なら一つ極める前には挫折している。

 サイハテは、イヤホンに当てていた手をゆっくりと下ろす。

 相変わらず、感情の読めない瞳の奥で、彼は何を思い、感じているのだろうか。


「……そうか、俺は」


 僅かな呟きが陽子の耳へと入る。それから先は、サイハテが言葉を発していないのか、なんの音も聞き取る事は出来なかった。

 自分の呼吸と、サイハテの呼吸の音が規則的に響くだけの空間になってしまっている。

 絶望した訳ではない、元より、希望すら持っていない男だ。どうひっくり返っても、絶望する事などはあり得ない。


「大丈夫よ、サイハテ」


 左手が軽く握られる。

 視線をそちらに向けると、微笑みを浮かべた陽子が小さな手で大きな手を握っている。大きな手はサイハテのものだ。


「あんたは怪物なんかじゃないわ」


 絶望しないのは希望を持てないからだ。

 誰かに優しいのは優しくして欲しいからだ。

 たとえ、陽子がその理念の元で動いていても、サイハテにとって慰めは新鮮であった。


「あんたと私の違いは、肉の胎から産まれたか、ガラスの胎から産まれたか位の差よ。あんたは、ただ珍しい産まれた方をしただけの、ただの人間よ。安心なさいな」


 ただの人間、バカにしているのか、慰めているのかわからない言葉だ。


「怪物が、ごはんを美味しいなんて言う訳ないじゃない。怪物がなんの力も持たない女の子を助ける訳がないじゃない。だからあんたは……西条疾風はただの人間よ。都合のいいように使われた、なんの変哲もない優れてるだけの人間。だからだいじょぶ」


 それはエージェントジークを否定して、西条疾風を肯定する言葉だった。


――――――自由に生きろ。


 廃墟でボイスレコーダーから下された命令には困惑していた。エージェントジークは自由の守護者でありながら、自由などは持っていなかったからだ。

 それを疑問に思う事もなかったから、ジークは確かにかいぶつであったのだろう。だが、ジークはすでに死んでいる。今も確かにサイハテの足元で骸を晒している。

 だったら、ここにいる西条疾風と言うのは何者なのだろうか?


「……すまんが、俺が何者なのか。教えてくれないか?」


 13の少女にする質問ではない。案の定、目の前の陽子は少しばかり困ったような表情を浮かべると、質問の答えを模索し始めている。


「サイハテでいいんじゃないの?」


 その答えはあまりにも適当で、的確なものだった。

 サイハテは僅かに口角を上げる。


「……そうだな」


 かいぶつであろうが、なかろうが、西条疾風と言う人間には違いがない。今はその答えで十分であった。


「帰ろう、もうここには用はない」


 それだけ言うと、サイハテは陽子の手を握ったまま踵を返してしまう。それに牽かれる形で、陽子がバランスを崩しかけながらもなんとか歩みを並べる。

 最奥の部屋からエレベータのある研究室へ出ると、サイハテは陽子の手を離して、自動小銃を先にあるエレベータの扉へと向けるのだ。


「陽子、銃を構えろ。エレベータが動いている……誰か来るぞ!」


 ほんの僅かな駆動音を察知したサイハテは、既に戦闘モードへと思考を切り替えている。生憎一般人の陽子は疑問符を頭に浮かべながら、サイハテの言うことに従う他ない。

 エレベータの駆動音がだんだんと大きくなっている、これ即ち、地上から発信したエレベータが地下室であるここへと降りている事の証左に他ならない。


「さ、サイハテ、何が乗っていると思う?」

「さぁな、俺達に出来るのはロクデナシが乗ってない事を祈るばかりだ」


 事態を把握した陽子からの焦り声にも、サイハテは皮肉を交えつつ返答する。

 そしてエレベータがゆっくりとした音を立てて、目の前のホールへと止まった。


「来るぞ!」


 チェンバーに初弾を装填しつつ、サイハテは声を荒げる。エレベータの扉が開くと、その中には大人になりきれていない年齢の少女が立っていた。

 ウェーブのかかった白い髪をたなびかせつつ、はちみつのように甘い笑みを浮かべる美しい女だ。時代が時代なら、魔女と呼ばれてもおかしくない美しさだ。


「あら、先客が居たのね……?」


 笑みに勝るとも劣らない甘い声が密閉された室内に漂う。銃を突きつけられているこの状況で平然としている事もそうだが、あの変異体だらけの街を武器も何も持たずに突破してきたのだから油断はならない。


「貴様は何者だ?」


 サイハテは誰何する。

 女ははちみつのようにねっとりして、どこまでも甘い笑みを浮かべるとゆっくりと口を開く。


「私? ……私はねぇ、ナイトメアリリィ「敵だ!! 撃てぇ!!」」


 サイハテの自動小銃が火を噴き、それに遅れて陽子のガウスライフルも紫電を銃口からまき散らす。自己紹介すらさせやしない、それが我らが変態である。

PCの調子がおかしい……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ