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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
一章:放浪者の町
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十四話:武器庫

 感極まったか、自分の感情を処理できなくなったか……。

 陽子はそのままサイハテの腕の中で愚図り始める。何に対しての涙かは、いくつか予想は着いている。自分に当て嵌めて、勝手に悲しくなっているのか、それとも、ただ単に訳も分からず泣いているのか……そのどちらかだろう。

 もしくは、この白骨達かサイハテか、どちらかを憐れんでの涙かだ。


「サイハテ」


 涙で枯れた声が、陽子の口から発せられる。


「ごめんね」


 続いた言葉は謝罪であった。

 サイハテは首を傾げて、頭に疑問符を浮かべると、困ったように愚図る少女を見つめるのだ。何に対しての謝罪の言葉なのか、いまいち解ってないからだ。


「辛い事、思い出させて、ごめんね」


 辛い事、と言われてサイハテは武器庫で眠る白骨達へと視線を向ける。

 殺し合って死んでいった兄弟達への視線には、強い罪悪感と後悔の念が含まれている。あの時、自分が代わりに死んでおけば、そんな歪な願い染みた気持ちを抱きながら中華を駆け抜けたのを確かに思い出した。


「……辛い事でもないさ」


 嘘ではない。

 国を想う気持ちは本物であったし、彼らの死は一切合財無駄にはならなかった。

 彼らの犠牲によって日本は救われたのだから、サイハテとしては問題なかったのだ。公式の文書の片隅に名前が乗っている西条疾風ではなく、名を貰うことなく、ここで糧となって行った兄弟達こそが本物の名も無い英雄達なのだと、記憶している。


「だって。私がここに来ようなんて言わなければ、そんな顔させる事なかったじゃない!!」


 そう言われて、サイハテは自分の顔へと手を当てる。

 目尻は下がり、眉間には深い皺が寄って、何かに耐えるように歯を食いしばっている表情となっている。

 ――――まさか!!

 サイハテは内心驚愕する。

 表情筋は徹底的に鍛えたはずなのだ、いくら辛かろうが悲しかろうが、はたまた怒っていようがいまいが、望んだ表情を出せるように鍛えたのだから、こんな表情をするはずがない。


「……あんた、必死に泣くのを我慢してるみたいな表情(カオ)してるわよ」


(俺が、そんな表情をしたから出た言葉だったのか)


 サイハテに辛い思いをさせたから、抱きしめて励ます。

 陽子が本能的にとった行動はそれであった。


「……ああ、そうだな」


 確かに、みっともなく泣き喚きたい気持ちで、一杯だ。

 だが、それをやってはいけないのだ……彼らにこそ、弱さを見せてはいけない。かつての友であり、かつての敵であり、糧であった彼らに、そんな顔は見せる訳にはいかない。


「武器を探して、地下に行こう」

「……サイハテは大丈夫なの? 辛い時は辛いって誰かに甘えてもいいのよ」

「辛くはないさ」


 陽子を引きはがすと、サイハテはさっさと武器が貯蔵されているガンキャビネットへと歩いて行ってしまう。

 その背中を見送りながらも、陽子は自分も武器を探す為に、並んでいるキャビネットへと歩いて行く。

 サイハテは、床に散らばる白骨達を一つ一つ見ながら、目的の場所へと歩みを進めていく。最早、誰が誰であったかは見分けが付かない。

 肉は完全に落ちて、骨は風化しており、サイハテが歩く振動で砂のように崩れてしまっている。もしかしたら、これも西条疾風の義務だったのかも知れない。見世物のように、いつまでも放置しているのではなく、彼らが居た痕跡を消し、それを見届ける事も義務だったのかも知れない。


「……あばよ」


 最後の骨が音を立てて白い砂に変わった時、そう自然に言葉が出てしまう。

 許された訳でも、許されるつもりもないが、見送る位は問題ないだろう。彼らに対して、僅かな時間黙祷をささげたサイハテは、気を取り直してガンキャビネットのドアを開ける。


「ふむ、M1911か」


 45口径(フォーティファイブ)の大型自動拳銃だ。偶然か、否か、これはサイハテが中華で使っていたカスタムモデルと同じ自動拳銃に見える。


(偶然ではないだろうな)


 恐らく、サイハテがここに来るよう誘導した奴がこれを置いたのだろう。リンファンを撃った銃だ、それを手に取ると、自分の手に合うように削ったグリップが妙にしっくりくる。

 マガジンが7つに、いくつかの弾薬を入手して、そのキャビネットを閉じると違うキャビネットを開く。


「86式か」


 これも、中華時代に使っていた特殊仕様の自動小銃が出てきた。レールが増設されて、グレネードランチャーやライトなどのアクセサリが大量に付けられるように改造された自動小銃だ。

 これも持って行く。

 どうやら、中華時代に使っていた装備がこのガンキャビネットたちには入っているようだ。となると3つ目に入っているのは……。


「やっぱり、スニーキングスーツか」


 体にぴったりと張り付くグレーの服である。

 7.56mm弾を弾き返し、-50℃から62℃までの温度帯で体温調節し、出血したら自動で止血してくれる優れもの。走っても足音がほぼせず、体に張り付く為に衣擦れの音すらしない逸品だ。

 おまけに、壁や地面に張り付くと、周囲の色と同化する習性をもっていたりするとんでもスーツなのである。

 顔面を覆うHUDヘルメットと、スニーキングスーツを隠すローブまでついている。

 と言う訳で、サイハテはさっそくスニーキングスーツに着替え始めるのだ。

 着方は簡単だ、首の所を思い切りひっぱれば、10メートルまでは伸びるので、そこに体を通して着るだけだ。


「久しぶりに袖を通すと……やはりいいな」


 見た目は全身タイツ&フルフェイスヘルメットなのに対して、着心地は凄くいいのだ。おまけに熱くもなく、寒くもない快適な状態を保ってくれる。

 後はマガジンポーチやら何やらを装備して終了だ。

 ヘルメットのバイザーを上げて、素顔を晒しておく。後ろを振り向くと、陽子がスニーキングスーツを着てワタワタしていた。

 ヘルメットのバイザーの上げ方が解らないのだろう。背後からバイザーを開く顎のボタンを押してやると、いつもの可愛らしい顔立ちが見えた。


「これ、いいわね!」


 スニーキングスーツに、ポンチョを着けた陽子は。肩や膝を回しながら自身の動きを確認しつつの言葉を吐いた。


「前の警備服は匍匐姿勢の時銃が撃ちにくかったのよね。これなら動きが阻害されないし、長い間同じ姿勢で居ても体を痛め無さそう!」


 そう言って、陽子は手に持った見覚えのないライフルを構えて見せる。


「……そのライフルは?」

「あれ、サイハテ。ガウスライフル知らないの?」


 ガウスライフル、理論だけは聞いた事がある。

 電磁力で弾丸を撃ち出す、いわば電磁レールガンの一種であり、火薬で弾丸を撃ちだすライフルと違って、長い射程と絶大な威力を持っている。

 ただ、サイハテの時代だとそれ専用の発電施設が必要な程に電力を食う欠陥兵器であったはずだ。それが……陽子の持っているように140㎝程度の狙撃銃になるとは、驚きである。


「最大射程距離7000m! 6mm口径のステンレス弾針を発射する装甲兵器よ! 撃つのにはエネルギーフォージって呼ばれる小型核電池が必要になるけどね」


 ストックの部分の蓋を開くと、僅かに光を放つ青い球体が嵌っている。どうやらこれがエネルギーフォージのようだ。

 その光は放射能じゃない事を祈ろう。


「装弾数は七発よ、火力支援。期待してね!」

「ああ、期待しておく」

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