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終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
七章:風音と疾風
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二十一話:警察署

 半壊した喫茶店から歩いて十分も無い距離に、警察署がある。

 非常時の為に、頑丈な造りをしているからか、それとも、施設保全を行うロボットが生きているか、その両方か。

 大昔の砲撃や、長い年月による経年劣化で瓦礫と化した周囲から比べると、その建物は比較的、綺麗に残っているように思えた。


 こう言った綺麗に残った遺跡には、沢山の遺物が残っている可能性が高い。

 コンピュータや、武器弾薬。未使用の衣服に、防弾装備、未開封の非常用食料等々、持ち帰れれば、それこそ数年は遊んで暮らせるような、大物と呼べるものが残っているだろう。

 当然ながら、危険もある。


 終末前の防衛機構がジェノサイドモードで待機しているか、それとも内部で感染変異体がハイヴを作り上げているか、それとも武装暴力集団の根拠地になっているか。

 サイハテが見る限り、粘液や糞等は存在しないから、感染変異体のハイヴと言う可能性は、除外していい。下卑な笑い声や男女の悲鳴も聞こえてこないから、野盗共も居なさそうだと、彼は判断する。


「ドローン相手か、厄介だな」


 今更ではあるが、サイハテにとって、自動兵器と言うのは苦手に入る相手だった。

 様々な索敵機能だけではなく、基本的に頑丈でしぶとい感染変異体を想定している為か、人間位なら一瞬で血煙にしてしまうような火力を持っている。

 レアと陽子が居れば、無力化も容易いのだがと、背後を見てみるが、彼女達に匹敵する技量を持つ人間はこの場には存在しない。


「どうした、父さん」

「なんでもない」


 急に振り返った事が気になったのだろう、小首を傾げる風音を見て、サイハテは左右に首を振って返事をした。

 何はともかく、これからの作戦を伝達しておく必要があるだろう。

 彼は小さく肩を竦めると、振り返って決定事項のように口を開いた。


「俺が先行して、警察署の警備システムを無力化してくる。終わったらフレアを焚くから、それを確認してから、君達も突入を……」

「わたしも行く」


 話の途中で、食い気味に遮られてしまう。眉尻を下げたサイハテは、自分によく似た鋭い目をした少女を見つめる。

 彼には自信がある。この程度の遺跡では、死なないと言う自信があった。だが、彼の周りに居る少女達は誰も彼もが、単独での行動を嫌った。


 胸に落ちるかのように湧いたのは、小さな疑問だった。

 サイハテは再び小首を傾げると、風音に尋ねてみる。


「何故だ?」


 純然たる疑問、何が不安なのか、何が心配なのか。それらを含めたたった一言で、彼は愛娘を憤慨させた。

 風音は目を吊り上げて、今にも胸倉を掴んで怒鳴り散らしそうな雰囲気を持って、父に詰め寄る。

 開かれた口から出たのは、怒鳴り声ではなく、声量を抑えているが、しっかりと怒りの籠った声色の、小声であった。


「だって父さん、ボロボロじゃないか」


 ボロボロと言われ、サイハテは、自分が今、死にかけている事を思い出す。

 そう言えば、死にかけだったなと、少しばつが悪そうに顔を傾け、後頭部を掻いた彼は、眉間に皺を寄せて、怒っていますとアピールしている風音に視線をやって、再び小さく肩を竦めた。


「そう言えば、そうだったな。俺は半死人。心配されて当然だった」


 だから陽子もレアも、サイハテが一人でどこかに行くのを嫌がるのだ。

 彼は、どんな怪我を負っても、たった一人で任務をやり遂げようとする。それこそ、今のような死んでもおかしくないような重傷でも、サイハテは戦地へと行ってしまう。

 それは、まるで自分の命等どうでもいいかのように、そんな姿が少女達を憤慨させ、心配させるのだっ

た。


「何を他人事のように……!」


 風音は当然のように憤っていた。彼女の背後に着いてきている少女達を助ける為に、無理をさせた責任だってある。

 だからこそ、たった一人で行かせる訳にはいかないと、強い決意を抱いて、サイハテに挑みかかるのだが。


「他人事……ああ、そうか。君は知らないのか」


 だが、帰って来た答えは予想とは違う物だった。

 訝し気な表情で、サイハテの感情を読み取ろうとする風音を前に、彼は小さく頷くと見せた方が早いとばかりに、一日前に縫ったばかりの傷口を見せつける。

 ホチキスで縫い留められた、瘡蓋の張った治りかけの傷口を見せつけられ、少女は大きく首を傾げると、呟くように言葉を紡ぐ。


「……治ってる?」

「そうだ。治っている」


 サイハテは腕にグッと力を込めて、未だ突き刺さったままのホチキス針を弾き飛ばしながら、そう答えた。


遺伝子強化兵士(デザインドソルジャー)の強み、と言う奴だ。俺達の細胞は、怪我をすると、まず傷口を塞ぐように出来ている」


 ノワールとの戦いで負った裂傷の殆どは、もう既に治りかけて居る。

 突き刺さったままの針は、もう既に無用の長物と化しており、動きを阻害するだけのものと化していた。


「傷口を縫い留めて、治癒を促してやれば、まぁ、この通りだ」

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