表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界を変態が行く  作者: 亜細万
七章:風音と疾風
282/284

十九話:そっち系のパパ疑惑

 空が白み始めた頃に、サイハテはようやく合流を果たした。

 身綺麗にはしているが、彼の体からは濃厚な鉄錆の臭いが漂っており、戦いなれた人間ならば、彼の身に何が起こっていたのかは、想像に難くない。

 その悪臭か、それとも見知らぬ男が現れたからか、先程までへばっていた優紀達は慌てて、風音の後ろへと逃げてしまう。


「……ん?」


 サイハテの眉間に刻まれた皺が、より一層濃くなった。

 普段は目付きが悪いで済んでいるが、今はもう睨みつけているようにしか、見えない。


「父さん、おかえり。後、顔怖いよ」


 しかし、彼からは怒気や殺気等は感じないので、怒っている訳ではないと理解した風音が、眉間を指差しながら教えると、顔を背けて肩を竦めた。

 少女達が隠れている、半分崩れた喫茶店の壁をしばらく見つめた後、皺を幾分か柔らかくしたサイハテが向き直り、未だ服すら着ていない少女達を見据えると、もう一度肩を竦めて、柔らかい口調で語り掛ける。


「怖がらせてすまないな。大人になってから、ずっとこんな面なんだ、勘弁願いたい」


 怖い目にあった年端もいかない少女達が、唐突に現れた強面の大男に睨みつけられたら、怯えても仕方がない。

 裸の少女達を前にして、いつも通りのサイハテであったら、小躍りしていたかもしれないが、今日の彼は紳士であった。

 そんな雰囲気が伝わったのだろう、リーダー格である優紀がおずおずと前に出て、口を開く。


「あのぅ……この人は?」


 風音の肩から顔だけ覗かせて、その父と娘を交互に見ながら、娘の方に問いかけた。


「この人はわたしの父さんだ。強いぞ!」


 鼻息荒く言い放たれた評価に、少女達が年齢順に、困惑の表情を浮かべる。

 父と紹介された人物は、多めに見積もっても二十代半ば位にしか見えず、十代後半である風音のような、大きな子供が居る年齢には、到底見えなかった。

 何を考えたのか、優紀は驚愕の表情を一瞬だけ浮かべると、頬を赤くして、今度は父の方に訪ねてくる。


「あのぅ……随分お若いですけど」


 少女の表情は、風音が着ている甲冑の袖と呼ばれる肩甲に、半分以上引っ込んでしまった。


「もしかして、お父さんってアッチのお父さんですか……?」


 アッチのお父さん。

 その言葉に秘められた意味を理解したサイハテは、目頭を押さえながら僅かに俯き、意味の解っていない風音は、小さく小首を傾げ、自分の背後にいる彼女に聞き返す。


「父さんは父さんだろう? アッチとかコッチとか、あるのか?」


 まさか聞き返されるとは思ってもいなかったのだろう。

 優紀は更に顔を赤くすると、しどろもどろになりながらも、なんとか言葉を捻り出した。


「ほら、こうお金の代わりに……ね? 一緒のお布団で、ええと……その、定期的に?」


 彼女が何を言いたいのか、サイハテは痛い程理解できた。そして、その内容が朝っぱらから語る事ではない事も、彼は熟知している。

 軽く頭を振って、風音が余計な事を聞く前に答えを教える事にした。


「俺は正真正銘、その子の父親だ。若い理由はコールドスリープで、目覚める時期が違ったからだ」


 本当は違うのだが、そう言う事にしておいた方が丸く収まるのだ。


「あ、貴方達、放浪者(ワンダラー)だったんですね」


 放浪者。

 サイハテの知っている放浪者と言うのは、終末世界での俗称としての放浪者であった。

 過去の遺跡からふらりと現れる、過去の知識や技術を持った不思議な人間の事を、今の世界に生きる人々はそう呼んでいる。

 金属加工技術や、銃弾の製造能力等は、この放浪者が伝えたものであるらしい。


「ああ」


 彼女がどう行った意味と理由で、こちらをそう呼称したかは分からないが、とりあえずは頷いておく。

 肯定した瞬間、今まで風音の背に隠れていた少女達が、安堵の息を吐くと張り詰めた表情を弛緩させて、気が抜けたようにお喋りを開始した。


「なんだー、放浪者かー」

「警戒して損したね」

「お父さん、色男じゃーん? ねね、早紀、声かけてみなよ」

「い、いきなり失礼じゃない?」

「そんな事ないってー」


 女三人寄れば姦しいとは言うが、五人もいたらこうなるのだろうか。

 閑散とした廃墟街に響き渡る程ではないが、静寂の似合う廃墟の喫茶店にそぐわない賑やかで、華やかなお喋りが場を支配している。

 そんな状況の最中、サイハテは目頭を押さえて、黄色い談笑の中に消えてしまう小さな声で、呟くのだった。


「……前位隠せよ」


 そんな呟きは聞こえていないのか、少女達は堰でも切ったかのように、お喋りを続けている。

 無理矢理止める事はできるが、粗末な檻の中で畜生のような扱いを受けていたので、ストレスが溜まっているのだろう。

 もう少し位は、好きに喋らせておくことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ